【85点】モンブラン/モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

2025.12.04

2022年のデビュー以来、氷河を思わせるグレイシャー文字盤で注目を集める、モンブランの「アイスシー」コレクション。今回、ゼロ オキシジェン技術で密閉され、さらなる進化を遂げた。独創的な外観と高度な機能性を備えた新作の実力に迫る。

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

リュディガー・ブーハー:文
Text by Rüdiger Bucher
モンブラン:写真
Photographs by Montblanc
岡本美枝:翻訳
Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


登山家のためのダイバーズウォッチ

 ローラン・レカン氏が2021年にモンブランのウォッチ部門のディレクターに就任して以来、このブランドのウォッチコレクションは明確な方向性をもって進化を遂げてきた。少数限定の複雑時計や、ミネルバの名を冠したハイエンドモデルを別とすれば、現在のモンブランの哲学は、ブランド名が示唆する「登山」というテーマを軸に展開されている。

 ここで言う登山とは、狭義の意味にとどまらない。アルプスの自然と、そこを舞台に繰り広げられる、あらゆる生活や体験の世界がインスピレーションの源となっているのだ。それは、身に着ける者に唯一無二の価値をもたらすことを目指したイノベーションの原動力であり、独創的な意匠と実用的な技術、そして、堅牢性のすべてが、高度な審美性と腕時計の中で見事に融合しているのである。

氷河を思わせる文字盤

 モンブランが2022年に発表した「アイスシー」の特徴は、その文字盤に集約されている。開発にあたってブランドが目標としたのは、氷河の結晶構造を想起させる独自の表面加工を文字盤上に施すことだった。ローラン・レカン氏がインスピレーションの源としたのは、メール・ド・グラースである。この氷河は、モンブラン山塊最大の規模で、1779年にここを訪れたドイツの詩人、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、氷河の巨大な氷の塊を、まるで凍りついた大洪水だと感嘆したことでも有名だ。

 レカン氏は時間をかけて文字盤メーカーと協議を重ね、手間の多さゆえに長らく廃れていた伝統的な加工技術の復活に成功した。「グラッテ・ボワゼ」と呼ばれるこの技法は、型押しで模様があしらわれた、厚さ0.3〜0.4mmの素材に各種の下処理を施したのち、木材や研磨ブラシを使って表面に繊細な加工を施していく。完成までに要するのは実に30以上のプロセスだ。最終的にクリアラッカーが何層にも塗布され、氷河を思わせる独特な質感が与えられて、ようやく文字盤は完成する。

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

2025年に発表された「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン」のバリエーション。文字盤色だけでなく、ケースサイズも直径38mmと本作とは異なる。文字盤上に印字されたロゴが浮いて見えることから、この文字盤がクリアラッカーを何層も積み重ねられたうえに作り出されたことが分かる。自動巻き(Cal.MB24.17/SW200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.3mm)。300m防水。55万6600円(税込み)。

 実際、アイスシーの意匠を決定付けているのは、その特徴的な文字盤である。これは、今回のテストウォッチの「モンブラン アイスシー オートマティックデイト ゼロ オキシジェン」のディストレストスティール(アンティーク調のスティール)製モデルにも当てはまる。この特殊なケース素材が気になる人もいるだろう。後ほど詳しく触れる予定だ。

 この文字盤は一見、隕石を使用した文字盤に似た趣である。だが、アイスシーに採用されたグラッテ・ボワゼ技法を用いた文字盤の方が、構造はより不規則で、入念な加工が施された部分と、滑らかな質感を残した部分が目に付くことだろう。今回検証したシルバーグレーのグラデーション文字盤を採用したモデルでは特に、氷に閉ざされた世界を想起させる印象を覚えるに違いない。

 さらに、この文字盤は、色調が中央から外周にかけて徐々に濃くなり、最終的には、この腕時計のもうひとつの重要な要素である、ブラックセラミックス製ベゼルへと自然に溶け込んでいく。まるで絵画技法で用いられるスフマート効果のようであり、それがこの腕時計の大きな魅力のひとつとなっている。なお、スフマート効果とは、ルネッサンス期に生まれた絵画技法であり、輪郭線を描かずに色の明暗やグラデーションで表現するものだ。「スフマート」とはイタリア語で「煙のようにぼかす」という意味で、かのレオナルド・ダ・ヴィンチによる名画「モナ・リザ」が有名である。

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

2025年に発表されたケース径38mmモデルには、ホワイトカラー文字盤のモデルもラインナップされている。自動巻き(Cal.MB24.17/SW200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.3mm)。300m防水。55万6600円(税込み)。

 ブラックセラミックスで出来たベゼルのスケールリングは、表面の一部が梨地仕上げとポリッシュ仕上げで分けられている。多くのダイバーズウォッチでは、ダイバーにとって重要な情報である、最初の15分間は、ベゼル上の分目盛りを、その部分だけ色分けをするなどして強調することが多い。

 それに対し、アイスシーでは独自のレーザー加工を施すことで、ベゼルの表面の質感の変化から認識できるようになっている。レーザーによって素材の表面を精密に削り出すことで、アラビア数字の10やバーインデックスがわずかに浮き上がり、スケールリングの0分から15分までの部分に梨地仕上げを施し、同時にザラついた質感も生まれているのだ。これにより、視覚的にも触覚的にも、ポリッシュ仕上げの残りの4分の3と明確に区別できるようになっている。

魅力あふれる豊かなディテール

 緻密なディテールの豊かさが、今回のアイスシーの魅力だ。モンブランの象徴である六芒星の形状をした「ホワイトスター」が立体的に施されたリュウズには、ベゼルの最初の15分間に用いられた、独自の表面加工が踏襲されている。注目すべきは、本来は黒地にホワイトで表現されるこのホワイトスターが、ここではあえてブラックで統一されている点だ。その結果、腕時計全体のダークトーンが一層引き立てられている。

 文字盤に話を戻そう。レイルウェイ仕様のミニッツマーカー、クラシカルなモンブランのブランドロゴ、6時位置に配されたアイスシーのロゴマークといった要素が、さりげないヴィンテージ感を演出しており、レトロな雰囲気がほどよく抑えられている。

 グレーとブラックを基調とした配色の中で、時針と分針やインデックスが、明確なコントラストを生み出しており、高い視認性が確保されている。これらの要素にはすべてホワイトの蓄光塗料スーパールミノバが塗布され、ロジウムコーティングされた枠で縁取られたものだ。暗所ではホワイトのスーパールミノバが明るいブルーに発光し、視認性を確保。氷河というテーマに合致するばかりか、水深が増しても視認できる色であることから、ダイバーズウォッチとしても極めて理にかなった仕様と言えよう。

ディストレストスティールの風合い

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

ブラックを基調としつつも、腕時計全体の印象は決して単調ではない。その理由は外装の質感に変化をつけているからだ。ケースは使い込んだアンティーク調の質感を漂わせるディストレストスティールを採用。ベゼルはポリッシュ仕上げと梨地仕上げ(0分~15分)を巧みに使い分けている。

 文字盤、ベゼル、リュウズといったディテールに続いて、このモデルを他のアイスシーコレクションと明確に差別化する第4の特徴が、ケースの仕上げだ。直径41mm、厚さ12.9mmのステンレススティール製ケースには、ブラックPVDコーティングが施され、そこにさらに人工的なエイジング処理が加えられている。モンブランはこうして生まれた素材をディストレストスティールと呼ぶ。独特の使い込まれた風合いを生み出すために、手作業で洗浄したケースを約4時間半、石でこすらなければならない手間の掛かるものである。

 この工程ではモンブラン山塊で採取された珪岩が使用されており、こうした点もモンブランのアイデンティティーの表れである。文字盤やベゼルほど強い主張はないものの、普段あまり目にすることのない特別なケースであることは、一目瞭然である。ケース上面と側面に施されたヘアライン仕上げや、ラグのエッジ部分が演出するユーズド感は、よく見なければ認識できないディテールだが、確かな存在感を放っており、腕時計全体の印象をさりげなく引き締めている。

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

実際に着用してみると、本作からは表面仕上げへの徹底した工夫が随所に感じられる。緻密に作り込まれた結果、すべての要素が調和し、表情豊かで魅力的な外観を実現した印象を受ける。身に着けるたびに喜びを味わえる1本と言えるだろう。

 随所に愛情を感じる設計を目にした後であれば、ブラックのラバーストラップに施された工夫にも、自然と納得がいくだろう。ストラップの表面はあえてザラつかせた仕上げになっており、その荒々しい質感はケースや文字盤のデザイン、さらには、ベゼルの最初の15分セクションの粗い手触りとも見事に調和している。

 ストラップは手首に合わせて9段階で調節することができ、バックルは両側のプッシュボタンで簡単に開閉することが可能だ。他方、ストラップのクイックチェンジシステムには若干、改善の余地が認められる。スティールカラーのスライダーをケースに向かって押し込むと、バネ棒が引っ込み、ストラップを取り外せるという仕組みだが、操作感はやや堅く、別のストラップを装着するのにも多少の慣れが必要である。昨今、より快適かつスムーズにストラップを交換できるシステムも登場しているだけに、この点については今後の改良に期待したいところだ。

ゼロ オキシジェン技術

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

裏蓋には、氷山のモチーフがレーザーエングレービングで刻まれている。海に潜るダイバーの姿は、この腕時計がISO 6425のダイバーズウォッチ規格に準拠していることを象徴するものだ。ストラップにはクイックチェンジシステムのスライダーが見て取れる。

 裏蓋には、アイスシーの全モデルに共通する氷山のモチーフがレーザーエングレービングで精緻に刻まれている。海中に描かれたダイバーの姿は、この腕時計が300m防水を備え、ISO6425のダイバーズウォッチ規格に準拠していることの象徴だ。裏蓋の内側にも注目すべき特徴が隠されている。モンブラン独自の技術によって空気が窒素に置き換えられ、ムーブメントを収めるケースの内部が酸素を排除した状態に保たれているのだ。

 この技術は登山から着想を得たもので、ブランドの親しい友人であり、人類史上、初めて8000m峰全14座の完全登頂を無酸素で成し遂げた登山家、冒険家のラインホルト・メスナーとの対話によって生まれた。マーケティング戦略と捉えることもできるかもしれない。とはいえ、実際のところ、ゼロ オキシジェン技術はムーブメントのスティール製パーツの腐食を防ぐ効果を備えている。この技術はもともとモンブランの他のモデルで導入されていたものだが、2025年春以降に発表されるアイスシーでは、標準採用されるようになった。

 なお、ゼロ オキシジェン技術を搭載していない旧モデルを所有している場合は、裏蓋を開けない動作および外装のチェック時、もしくはオーバーホール時に合わせてアップグレードが可能だ。アップグレード費用は、前者と同時の場合には2万6620円、後者と同時の場合には、8万520円である。アップグレードはスイスのル・ロックルにある本社に送る必要はなく、世界各地にあるモンブランのサービスセンターで対応している。

モンブラン アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810

2024年に発表された「モンブラン アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810」は、「アイスシー」コレクションで初めてケース内を窒素で満たしたゼロ オキシジェン技術を採用したモデルである。その防水性能は4810m防水という深海に対応した仕様だ。自動巻き(Cal.MB 29.29)。21石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径43mm、厚さ19.4mm)。4810m防水。136万8400円(税込み)。

キャリバーMB24.17を搭載

 搭載されているムーブメントの、キャリバーMB24.17は、定評のあるセリタ製自動巻きムーブメント、キャリバーSW200をベースにしたものだ。今回のテストウォッチでは、全体的にムーブメントの精度にはプラスの傾向が見られた。ウィッチ製歩度測定器では、全6姿勢でプラス4秒/日からプラス18秒/日という日差が計測され、平均日差はプラス10秒/日で、着用テストでも同様の結果だった。日付表示は、今回の個体では深夜零時2分30秒で切り替わったが、許容の範囲内と言えよう。

 高い性能とエモーショナルな意匠を備えたダイバーズウォッチが65万5600円という価格で手に入るのなら、納得できるのではないだろうか。身に着ける喜びが感じられ、時折、手首から外して多くのディテールに目を向けたくなる、そんな魅力ある1本だ。


モンブラン「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン」のスペック

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

経年変化を想起させるディストレストスティールのケースや、奥行き感を演出するグラデーション文字盤を採用するなど、質感を重視した2025年の新作だ。

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・印象的な文字盤
・卓越した加工のケース
・操作が簡単
・ゼロ オキシジェン技術の採用
・統一感のあるディテール
・極めて快適な装着感

-point
・姿勢により精度にばらつきがある
・ストラップの交換がやや困難

技術仕様

製造: モンブラン
リファレンスナンバー: MB134017
機能: 時、分、センター秒針(秒針停止機能付き)、日付表示
ムーブメント: Cal.MB 24.17(セリタ製Cal.SW200ベース)、自動巻き、26石、2万8800振動/時、パワーリザーブ約38時間、センターローター
ケース: ディストレストスティール製ケース、腕時計内部から酸素を除去するゼロ オキシジェン技術、1分刻みでかみ合う逆回転防止ベゼル(15分までレーザー加工を施したブラックセラミックス製インレイ付き)、ねじ込み式リュウズ、ドーム型サファイアクリスタル製風防(両面反射防止加工)、6本のビスで留められ、氷山とダイバーが3Dレーザーエングレービングされた裏蓋、300m防水
文字盤: グラッテ・ボワゼ技法が施された文字盤、ロジウムコーティングの時・分針、ルテニウムコーティングの秒針、ホワイトのスーパールミノバ蓄光塗料を施したインデックス
ストラップ&バックル: ブラックラバー製ストラップ(マットな質感に仕上げられた表面、クイックチェンジシステム装備)、ブラックコーティングのステンレススティール製フォールディングバックル(プッシュボタン付き、微調節可能)
サイズ: 直径41mm、厚さ12.9mm、ラグからラグまで51mm、ラグ幅20mm、重量124g(実測値)
価格: 65万5600円(税込み)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験

最大姿勢差: 14秒
平均日差: +10秒/日
着用時平均日差: +10秒/日

評価

ストラップ&バックル(最大10pt.) 9pt. 色味や質感ともに全体のデザインと調和したストラップは、装着感に優れ、内側の構造により発汗時でも快適さを失わない。バックルは圧迫感がなく、確実に留まる。
操作性(5pt.) 4pt. 操作しやすいリュウズ、なめらかに回転するベゼル、使いやすいバックル。ストラップのクイックチェンジシステムには、もう少し使い勝手の向上が望まれる。
ケース(10pt.) 9pt 3ピース構造のケースは表面仕上げが優れている。300mの防水性能や逆回転防止ベゼルにより、ダイバーズウォッチとしての基準も満たす。
デザイン(15pt.) 15pt. 完成度の高い多くのディテールが、力強く調和の取れたデザインを生み出す。色調と素材の組み合わせは理想的で、プロポーションは秀逸だ。
文字盤と針(10pt.) 10pt. グラッテ・ボワゼ技法で仕上げた文字盤は唯一無二の意匠と言えるだろう。針の長さも適切だ。ロジウムコーティングで縁取られているため、時針と分針、インデックスは洗練された印象を与える。
視認性(5pt.) 5pt. 明確なコントラスト、暗所でも優れた視認性、明快な文字盤レイアウトなど、いずれも完成度が高い。分針の先端はレイルウェイトラック式のミニッツマーカーを正確に指し示す。
装着性(5pt.) 5pt. 装着感は極めて快適である。ストラップの長さを微調節できることから、着用時に腕時計の重心がずれることはない。
ムーブメント(20pt.) 13pt. 信頼性が高く定評のあるセリタ製のベースムーブメントを採用。
精度安定性(10pt.) 6pt. 姿勢差が大きく、フルに巻き上げた後には全姿勢で明らかなプラス傾向が見られる。着用時にもプラス傾向が強い。
コストパフォーマンス(10pt.) 9pt. 数々の優れたディテールにはラグジュアリーブランドとしての矜恃とアイデンティティーが息づいている。価値の高い3針腕時計として適正な価格設定だ。
合計 85pt.



Contact info:モンブランお客様サポート Tel.0800-333-0102


2025年 モンブランの新作時計を一挙紹介!

FEATURES

モンブラン「アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810」海底4810mへの“無酸素登頂”

FEATURES

南極の赤い氷河を表現したモンブラン「1858 ジオスフェール クロノグラフ」限定モデル

FEATURES