【88点】オメガ/ スピードマスター レーシング マスター クロノメーター

FEATUREスペックテスト
2019.12.16
キャリバー9900
美しく秀逸。非磁性材料で作られた、極めて精度の高いオメガ自社開発ムーブメント、キャリバー9900。


魅力的なデザイン

 人の場合と同じように、スピードマスター レーシング マスター クロノメーターも見る者を魅了するのはまずその外観である。差し色のオレンジが効果的な文字盤とストラップ、そしてタキメーターを配したスポーティーなベゼルを備えた今回のテストモデルは、 エレガントなトップスとユーズド感のあるデニムをスタイリッシュに着こなす若い女性、あるいは、こうした着こなしの似合う若々しい成熟した女性を想起させる。

 文字盤を縁取る個性的なデザインのミニッツトラックもスポーティーな外観に寄与しており、レーシングダイアルを形成する大きな特徴となっている。ミニッツトラックをさらに細分化するインデックスは、1分刻みで上下交互に配されており、まるでモータースポーツのチェッカーフラッグのようだ。オメガがこのデザインを文字盤に導入したのは1968年だが、広く知られるようになったのはスピードマスターがNASAの公式腕時計として採用され、月面着陸に同行した1969年になってからである。この年、オメガはスピードマスターのより近代的な進化形としてマークⅡを発表した。マークⅡは2014年に復刻されたが、スピードマスター レーシング マスター クロノメーターが登場したのは2017年である。

 最新の技術を駆使した自社開発ムーブメント、マスター クロノメーターとはオメガの最新世代のムーブメントに与えられる名称であり、高品質ムーブメントのさまざまな特徴と、それを実証する複数の認証の総称である。実際、オメガの自社開発クロノグラフムーブメント、キャリバー9900は、ひと言では言い表せないほど数多くの技術的メリットを備えている。特に、オメガが独自に開発したコーアクシャル脱進機は、非常に複雑な形状のアンクルとガンギ車を備え、極めて高い精度の実現に貢献する。また、直列接続されたふたつの香箱からは、新たにエネルギーを補充しなくても連続約60時間のパワーリザーブが供給される。さらに、シリコン製ヒゲゼンマイ、DLCコーティングが施されたツインバレル、効率向上のために計算し直された歯数、セラミックス製ボールベアリングローターを備えたキャリバー9900は、特殊な潤滑油が使用されていることもあって耐摩耗性に優れ、非磁性材料で出来た部品で構成されていることから、日常生活で想定される範囲であれば理論上磁束の影響は受けない。

 完全自社開発ムーブメントであることがひと目で分かるように、オメガは自社キャリバーを発表した2007年以降、独自の装飾も取り入れている。ローターとブリッジにはロジウムコーティングだけでなく、「アラベスク調ジュネーブウェーブ」と呼ばれる特別な模様彫りも施されており、エッジを面取りとポリッシュで仕上げたブリッジは黒いネジで留められている。黒ネジはふたつの香箱やテンワと同色のため、相性が良い。また、ローターとブリッジに彫り込まれた文字に赤い塗料が盛られていることも特別な点である。

レーシングダイアル

オメガと「レーシングダイアル」
(左)2014年には新生スピードマスター マークⅡでレーシングダイアルが復活。6時位置に日付表示が追加された。
(中)1990年代になると、著名なレーサーとタイアップした特別モデルが次々とリリースされる。写真は1996年のミハエル・シューマッハモデル。
(右)モータースポーツのチェッカーフラッグのようなデザインを持つミニッツトラックは、1968年に発表されたこのモデルで初めて導入され、翌年、スピードマスター マークⅡでも採用された。


品質の高いケース

 前述したオメガ独自の技術や装飾の数々を投入した自社開発ムーブメントが、極めてクリーンな仕上がりを持つステンレススティール製ケースに格納され、セラミックス製ベゼル、ドーム型サファイアクリスタルを使用した風防とトランスパレントバックを備えて90万円というのは、愛好家にとってはうれしい価格設定だろう。オメガは、自社が属するスウォッチ グループのサポートを受け、ケースにおいてもいくつかの新開発を行っている。セラミックス製ベゼルのタキメータースケールに使用されているのは、オメガが特許を取得した新材料、リキッドメタルである。リキッドメタルは溶解した状態でベゼルに刻まれた溝に流し込まれ、固まった後で研磨する。セラミックスの方がリキッドメタルよりも表面硬度が高いことから、研磨工程でベゼルの表面に傷が付くことはない。ポリッシュ仕上げのセラミックス部分とサテン仕上げのリキッドメタル部分を組み合わせるという、複雑な構造であるにもかかわらず、オメガはこうして、表面の手触りが極めて滑らかなタキメータースケール付きベゼルを作り上げることに成功した。

 加工品質が高く、フォルムの複雑なケースであえて粗探しをするなら、ケースに埋め込むように配されたリュウズだろう。このリュウズは、ねじ込みを解除するとバネの力でケースから自然に浮き上がるねじ込み式ではないため、爪を使わないと引き出すことができない。ねじ込み式リュウズであれば、防水性も現在の5気圧からさらにアップすることができたであろう。

極めて快適な装着感

 クロノグラフプッシャーは、押す時に少し力が必要なものの、リュウズとは異なり問題なく操作することができる。プッシャーの作動ポイントも適切に調整されており、スタート/ストップ、リセットの両プッシャーとも同じトルクで押せるのはありがたい。シングルセーフティーフォールディングバックルも同様に快適な使い心地である。堅牢で機能性に優れ、ストラップの長さも簡単に調節できるこのバックルは、高品質なカーフスキンストラップとともに時計の良好な全体像を完成させている。

 今回のテストでは、スピードマスター レーシング マスター クロノメーターが時計愛好家の愛を簡単に勝ち得る時計であることが実証された。新しい恋人は、あなたを失望させることなく、楽しい時間を十分に与えてくれることだろう。

先代モデルで3つだったインダイアルは、60分と12時間の積算計を同軸とすることでふたつにまとめられている。結果、フェイスは先代以上にすっきりとし、日付表示もカウンターとかぶらなくなった。