女性も楽しめる機械式時計が静かなトレンドに?

2025.07.19

長年、女性用の腕時計といえばクォーツ式というイメージが強かった。しかしこの数年で、状況は大きく変わりつつある。各社は女性でも使える機械式時計をリリースするほか、コンパクトな女性用自動巻きムーブメントも開発するようになったのである。2025年は、女性も機械式時計を楽しむ時代の幕開け、になるかもしれない。

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
Edited by Yuto Hosoda(Chronos Japan)


新しい女性用自動巻きムーブメントが登場

オメガ「シーマスター アクアテラ 30MM」とCal.8750

6月に発表された「シーマスター アクアテラ 30MM」と、同作が搭載する新型自動巻きのCal.8750だ。直径20mmというサイズにもかかわらず、約48時間の長いパワーリザーブと、1万5000ガウスに耐えられるマスター クロノメーター規格をクリアした。

 今も昔も、機械式ムーブメントを載せた女性用の腕時計は決して多くない。その最も大きな理由は、機械に興味を持つ女性が男性ほど多くないため。仮に興味を持たれたとしても、リュウズを回して時間を合わせるという作業は、ネイルに気を遣う女性には歓迎されるものではなかった。ハードルは他にもあった。自動巻きを載せた腕時計は、ローターが回ることで主ゼンマイを巻き上げる。しかし、女性用の自動巻きムーブメントの多くは、ローターが軽いため、主ゼンマイが十分に巻き上がらないという問題があった。購入者が、腕を振らないデスクワーカーならなおさらだ。仮にアクティブな女性が買ったとしても、さらに課題はある。現在、女性が使うバッグの多くには、留め具に強力なネオジム磁石が使われている。機械式時計がこういった留め具に触れると、たちまち時計が磁気帯びし、止まりや故障、不具合を引き起こしたのである。時計好きならば、機械式時計は磁石から離すというのは常識だ。しかし、同じような気遣いを、普通のユーザーに求めるのは難しいだろう。

ブルガリ「セルペンティ トゥボガス」とCal.BVS 100 レディ ソロテンポ

ブルガリの「セルペンティ トゥボガス」と、搭載する新型自動巻きのCal.BVS 100 レディ ソロテンポ。オメガほどの高い耐磁性はないが、約50時間のパワーリザーブと、理論上は極めて高い巻き上げ効率を誇る。こういったムーブメントを載せたモデルならば、ドレスをまとった女性が使っても、時計が止まるという心配は少なそうだ。

 しかし、ここ数年で事情は大きく変りつつある。例えばブルガリやオメガは、全く新しい女性用の自動巻きムーブメントを開発した。これらは長いパワーリザーブと、理論上はデスクワークでもよく巻き上がる自動巻き機構を採用した新世代の自動巻きである。加えてオメガのムーブメントは、磁石に当てても絶対に磁気帯びしない、マスター クロノメーター規格をクリアしている。これならば、クォーツ式と同じ気軽さで機械式時計を楽しめるはずだ。

 パートナーと腕時計をシェアするのもアリだ。近年開発された自動巻きムーブメントの多くは、ユーザーがデスクワーカーという前提で作られたもの。つまり、自動巻きの巻き上げ効率は、旧世代のものよりはるかに高くなった。加えてパワーリザーブが延びたおかげで、リュウズをいちいち操作する手間も大きく減った。また、いくつかのモデルは、バッグの中にしまっても機械が壊れないほどの耐磁性を持つようになったのである。好例はラドー「アナトム オートマティック」だ。搭載する自動巻きの基本設計は1980年代にさかのぼるもの。しかし、巻き上げ効率が改善されただけでなく、パワーリザーブも40時間前後から約3日に大きく延びた。加えて心臓部に使われるヒゲゼンマイには、耐磁性の高いニヴァクロンを採用。これならば女性に腕時計を貸しても、磁気帯びで壊れたという問題は起こりにくいはずだ。

ラドー「アナトム オートマティック」とチューダー「ブラックベイ 54 “ラグーンブルー”」

2025年新作を代表するシェアウォッチが、ラドー「アナトム オートマティック」とチューダー「ブラックベイ 54 “ラグーンブルー”」だ。いずれのモデルも、女性にも使える鮮やかな色味と、それ以上に、今の環境でも十分に使えるムーブメントに特徴がある。

 チューダーの新作「ブラックベイ 54 〝ラグーンブルー〟」も魅力的である。ケース径が37mmしかないブラックベイ54は、時計好きからは絶大な人気を集めるモデルだ。同社もそれを狙ったのか、デザインも徹底してレトロ調だ。しかし時計好きの男性だけでなく女性にも目を向けた〝ラグーンブルー〟は一転して、鮮やかな色を打ち出した。またブレスレットも、マニアックなツヤ消しの3連ではなく、ポリッシュとヘアライン仕上げを併用した5列ブレスレットだ。このモデルは中身も秀逸だ。ムーブメントのパワーリザーブは約70時間。そして自動巻きの巻き上げ効率は極めて高く、ヒゲゼンマイには磁気帯びしないシリコンを採用と、デスクワークが中心の女性でも安心して使えるスペックを備えている。

 中身の進化により、大きく可能性を広げる女性用の機械式時計。これは男性にも朗報だ。高価な腕時計に反対するパートナーにもこの腕時計ならシェアできるよ、という言い訳ができるからだ。男性諸氏、今後はますます、女性も使える機械式時計に目を向けられたし!

広田雅将

時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集長 広田雅将
1974年、大阪府生まれ。サラリーマンを経て、2004年より時計ジャーナリストとして活動を開始。国内外の時計専門誌やライフスタイル誌などに寄稿する一方、時計ブランドやラグジュアリーブランド、販売店でのセミナーやイベントの講師、ラジオ番組「BEST ISHIDA Presents クロノス日本版 Tick Tock Talk♪」(毎週土曜深夜25:00-25:30 @TOKYO FM)のパソナリティーも務める。ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリのアカデミーと、ルイ・ヴィトン ウォッチ・プライズ 2025-26のメンバーでもある。2016年より現職。


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