IWCといえば、質実剛健なパイロット・ウォッチや高耐磁性能を持つインヂュニアを思い浮かべる愛好家は多いだろう。しかし、同社が時計界において「新素材のパイオニア」として果たしてきた役割を見過ごしてはならない。本稿では、クォーツショックという未曾有の危機から生まれ、現在ではブランドの代名詞ともなった「セラミックス」、そして独自素材「セラタニウム」に至るまでの革新の軌跡をたどる。

[2026年4月23日掲載記事]
IWCのセラミックス革命
クォーツ革命の重圧から生まれたIWCのセラミックスへの挑戦は、現代の時計製造のあり方を大きく変えた。初期の酸化ジルコニウム製ケースからセラタニウムに至るまで、本稿では、プレッシャーの下での革新がいかにしてシャフハウゼンのブランドを素材の先駆者へと押し上げたのかを紐解いていく。
IWCの歴史を振り返ると、その最も輝かしい時代のひとつが危機の時代から生まれたとは、すぐには想像できないだろう。多くの偉大なスイスブランドと同様に、IWCもクォーツ革命によって大きな変化を余儀なくされた。常に革新の最前線にいたシャフハウゼンのこのブランドは、クォーツムーブメント「ベータ21」の開発に参加し、それを六角形のゴールドケースに収め、「ダ・ヴィンチ」と名付けた。
これは特に美しい腕時計であったが(他のベータ21搭載モデルと比較すればなおさらである)、「ダ・ヴィンチ」という名称は、後に1985年に発表された自動巻き永久カレンダー・クロノグラフと最も強く結びつくこととなる。
逆境に対するこのような対応は、困難な時代に革新で立ち向かうというIWCの典型的な姿勢であった。この哲学の原動力となったのが、ギュンター・ブルームライン(1943〜2001年)である。当時、ブルームラインはスピードメーターの製造で知られるドイツ企業であり、1978年にIWCとジャガー・ルクルトを買収したVDOシンドリングの幹部であった。機械式時計の未来に対する揺るぎない信念に突き動かされ、両ブランドを再び強固な基盤の上に立たせることが彼の使命であった。

自動巻き(Cal.79261)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。セラミックケース(直径39.0mm、厚さ14.3mm)。3気圧防水。
IWCにおけるブルームラインの活動は、クルト・クラウスやリヒャルト・ハブリングといった卓越した時計師たちによって支えられていた。後者はバルジューのCal.7750をベースとしたラトラパンテ・モジュールを開発し、これが後に伝説的な「ドッペルクロノグラフ」の心臓部となる。しかし、ムーブメントの革新は物語の一部に過ぎない。素材の革新もまた、決定的な役割を果たしたのである。
1979年にF.A.ポルシェとのコラボレーションで開発されたチタニウム・クロノグラフで最もよく知られるように、いち早くチタンを採用したブランドのひとつであると同時に、IWCは時計界にセラミックスを導入したブランドでもあった。
セラミックスはすでに自動車工学、航空宇宙産業、医療技術などの分野で使用されていたが、それを時計のケースに応用することは全くの未開拓領域であった。IWCが当初扱っていたセラミックスは酸化ジルコニウムであり、これはジルコニウム、シリコン、炭素、アルミニウム、窒素、酸素から形成される化合物である。微細な粉末状から始まり、焼成前に化学的に着色されるが、初期のカラーバリエーションは限られていた。
製造工程は極めて過酷であった。高温での焼成後、多結晶構造を保つためにセラミックスのブランク(原形)を慎重に冷却する必要があった。その工程を経て初めて、ダイヤモンドツールを用いた機械加工や研磨が可能となるのである。どの段階でも失敗のリスクは常につきまとったが、成功すれば、並外れた硬度、耐傷性、そして独特の美しさを持つケースを生み出すことができた。
1986年、IWCは酸化ジルコニウム製セラミックケースを採用した「ダ・ヴィンチ」を発表した。これは「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」の発売からわずか1年後のことである。

自動巻き(Cal.79261)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。セラミックケース(直径39.0mm)。3気圧防水。
これが、IWCとセラミックスとの永続的な関係の始まりであった。やがてこの素材は、ブランドのデザイン言語を決定づける要素となっていく。その関係は、1994年の「フリーガークロノグラフ」Ref.3705の登場によって大きな転換点を迎えた。マットブラックのセラミックケースは文字盤とシームレスに調和し、ステンレススティール製のリュウズとプッシャーがコントラストを生み出していた。この時計は、IWCの最も認知度の高いデザインに全く新しい存在感を与えたのである。

自動巻き。セラミックスケース(直径39mm)。6気圧防水。
セラミックケースの製造には依然として課題が残っていた。焼成時にブランクが収縮するが、それが決して均一ではないため、精密な公差を達成することが困難であった。IWCの基準に合わせてセラミックを機械加工し仕上げるには多大な労力を要した。そのため、セラミックモデルがステンレススティールモデルに比べて大きなプレミアム価格となっていたのも頷ける。色の一貫性もまたハードルであり、焼成時に顔料が燃え尽きてしまうことが多いため、初期のセラミックウォッチはダークトーンに限られていた。
IWCは最終的にこの問題を解決し、セラミックのカラースペクトルを拡大した。ブレイクスルーとなったのは、2019年に発表されたサンドカラーのセラミックケースを備えた「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ “トップガン・モハーヴェ・デザート”」である。
そこからIWCは、フォレストグリーンやジーンズブルーなどの新たな色合いの開発を続けていった。セラミックスは焼成時に大きく収縮するため、リュウズやプッシャーといった小さな部品の製造は依然として困難であった。これを克服するために、IWCは「セラタニウム」を開発した。これは、熱処理によって表面がセラミックス化する独自のチタン合金である。従来のセラミックスとは異なり、収縮することなく機械加工が可能なため、極小の部品にも適している。

自動巻き(Cal.69385)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラタニウムケース(直径41.1mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。
セラタニウムは、2017年に「アクアタイマー・パーペチュアル・カレンダー・デジタル・デイト/マンス “50イヤーズ・アクアタイマー”」でデビューを果たした。
その後、自社製マニュファクチュールムーブメントを搭載し、1000本限定で生産された「トリビュート・トゥ・3705」にも採用されている。素材とメカニズムは進化したが、革新の精神は不変である。
セラミックとセラタニウムへの継続的な投資により、IWCは時計製造における素材の先駆者としての地位を確固たるものにした。それは、ブランドの最も永続的な偉業のいくつかが、最も困難な時期から生まれたという事実の証明でもある。



