1969年のデビューから半世紀以上にわたって第一線を走り続ける細野晴臣。「はっぴいえんど」「ティン・パン・アレー」「YMO」といったバンド活動のほか、歌謡曲への楽曲提供を行い、プロデューサー、レーベル主宰者としても精力的に活動してきた。YMO“散開”後はワールドミュージックやアンビエント、エレクトロニカを探求し、作曲・プロデュース・映画音楽と幅広いフィールドで、日本のポピュラー音楽シーンの最前線を走り続けている。

Text by Yukaco Numamoto
編集:土田貴史
Edited by Takashi Tsuchida
[2026年9月20日掲載記事]
音楽界のレジェンドが、7年ぶりの新作で凱旋
日本の音楽界を牽引してきたレジェンド、細野晴臣が、前作から7年ぶりとなるオリジナルアルバム『Yours Sincerely』を9月11日に発表した。テーマに掲げるのは、母性や慈悲、そして孤独や混乱の先にある“調和”。祈りのように穏やかで、深い癒しをたたえたサウンドが特徴で、浮遊感の漂うアンビエント調と、リラックスしたアコースティック・ラウンジのテイストが、奥行きのある音響世界を創り出している。ロック、テクノ、アンビエントとさまざまなジャンルを渡り歩いてきた細野晴臣にとって、まさに現在地を示す一枚と言えるだろう。
CD・LP・カセットなど全6形態でリリースされ、国内配信はソニー・ミュージック傘下の新レーベル・Echoesが手がける一方、海外への流通はアメリカのインディーレーベル、Ghostly Internationalが担う。これに連動する形で、自身2度目となるUSツアー「The Yours Sincerely Tour」の開催も発表された。
そのプレリュードとして、2026年9月2日には恵比寿LIQUIDROOMでライブが開催された。キャパシティ約1000人のライブハウス公演ながらチケットは即完売。一般販売のほか「U-23(23歳以下)限定割引チケット」も用意された点が興味深い。細野晴臣の音楽は、シティポップやYMOを入り口に若い世代からも再評価が進んでおり、会場はベテランファンから20代前半の若者まで幅広い年齢層で埋め尽くされたという。
さらに驚くべきことに、細野晴臣は前日まで入院していたことをMCで明かした。「さっきまで点滴をしていた」「つい最近ペースメーカーを入れた」と語ったが、その前置きが冗談だったのでは? と思わせるほどハリのある声で、ゲストパフォーマンス4曲を含む全13曲のセットリストを披露してみせた。
USツアーでは、ニューヨーク・Radio City Music Hall(9月16日)、ロサンゼルス・The Greek Theatre(9月20日、ゲスト:Toro y Moi)の2都市での公演が行われ、国内では12月に両国国技館での単独公演も控えている。79歳とは思えないパワフルな活動ぶりが素晴らしい。
半生から見えてくる、細野晴臣の“カッコよさ”の理由
1969年、細野晴臣はエイプリル・フールのベーシストとしてデビュー。まもなく大瀧詠一、松本隆、鈴木茂と結成した「はっぴいえんど」では、日本語ロックという新しい表現を切り拓いた。
だが、その好奇心はロックだけにとどまらない。1978年になると、高橋幸宏、坂本龍一とともに結成した「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」で、テクノという最先端の音楽を世界へ届けたのだ。1980年には、当時人気を博していたコントユニット「スネークマンショー」のレコードをプロデュースし、そのコントをYMOのミニアルバム『増殖』に織り込むという遊び心も見せている。
日本語ロックの創始から、サブカルチャーへの目配せ、そしてテクノの開拓まで――細野晴臣は常に、時代の一歩先を軽やかに歩んできた。良質な音楽を生み出し続けてきたことはもちろん、その軽やかな身のこなしこそが、細野晴臣を“イケオジ”たらしめている所以だろう。
感度の高い男が選んだ1本は「レベルソ」か?
そんな細野晴臣が、自身のInstagramに投稿した動画の中で着用していたのが、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」と思われる。投稿日は2026年7月12日、79歳の誕生日を迎えたばかりのタイミング。キャプションには「Classic face switch with a letter...フェイスチェンジ」と添えられ、封筒のようにケースを上下に動かして表情を切り替え、おどけてみせる姿が収められている。
コメント欄には誕生日を祝う言葉や、お茶目な表情に頬をゆるめるファンの声が並んだ。古参のファンだけでなく海外からのコメントも多く見られ、ワールドワイドに活躍する細野晴臣の姿がこの一投稿からも伝わってくる。
この動画からモデル名までを特定するのは難しいが、特徴的なレクタングルケースから、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」であると考えられる。時計もまた、彼にとってファッションを構成する大切な要素のひとつなのだろう。
永遠の名品、ジャガー・ルクルト「レベルソ」
「レベルソ」は1931年に誕生した、腕時計史に残る名品だ。激しいポロ競技中の衝撃で風防が破損するのを防ぐため、ケースそのものを反転させて風防を隠し、保護するという画期的な構造を採用している。ジャガー・ルクルトはこの特徴的なケースを、大きくふたつの世代に分けている。1931年からの第1世代は部品点数約30点で、反転させるにはケースをスライドさせきる必要があった。
一方、1985年以降の第2世代は部品点数が50点以上に増え、スライドさせきらなくても反転できる構造へと進化している。現行モデルはラグの固定方法がさらに異なり、狭義には第3世代にあたる。ケースの内製化によって加工精度が向上し、ぐらつきが解消されたほか、1985年以降のモデルではサイドとラグがまっすぐに揃うようになった。その後も黄金比を保ちながらデザインを大きく変えることなく改良を重ね、1990年代には針と文字盤も内製化されるなど、マニュファクチュールとしての成熟を遂げている。
参考として、現行ラインナップから「レベルソ・クラシック モノフェイス」を紹介したい。

手巻き。SSケース(縦35.78mm、横21mm、厚さ7.4mm)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。3気圧防水。139万9200円(税込)。
細野晴臣の時計選びは、単なるファッションやデザインの要素にとどまらない。時代が移り変わっても、自身の姿勢を崩さず、ブラッシュアップを狙い続けるその生き方に、レベルソという時計が体現してきた“変わらぬセンスの良さ”が重なって見える。
「フェイスチェンジ」を楽しむ動画で、さりげなくレベルソを着用するところにも、細野晴臣ならではの洒落っ気が漂う。79歳にしてなお、変わらぬスタンスと衰えぬセンスで新たな音楽と表現を切り拓き続ける細野晴臣。その飽くなき探究心が、これからもどんな“調和”を届けてくれるのか、期待して見守りたい。



