ジャガー・ルクルトの2026年新作、「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」のフルゴールドモデルを深掘り。18Kピンクゴールド製のケースとミラネーゼメッシュブレスレットを組み合わせた本作は、伝統を守りつつ創造性を発揮する、レベルソの精神を象徴するモデルだ。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
[2026年8月20日公開記事]
元祖“スポーツウォッチ”、「レベルソ」
1930年代初頭、イギリス領インドで盛んに行われていたポロ競技。ポロは、馬に乗ってフィールドを駆け巡り、マレットと呼ばれるスティックでボールを打つ激しい競技だ。そのため当時の腕時計は、競技中に風防が割れてしまうことも少なくなかったと言われている。この問題に対してジャガー・ルクルトが考案したのが、ケースを反転させることで金属製のケースバックを表側へ向け、風防を保護する「レベルソ」である。
反転構造はデザインを追求したものではなく、あくまでも実用性を突き詰めた結果なのだ。今でこそ上品な佇まいによってドレスウォッチの代表作として人気を集めるレベルソだが、その出自は本格的なスポーツウォッチなのである。
アールデコ様式を取り入れた直線的なケースと、その上下に配されたゴドロンは、ジャガー・ルクルトのアイコンとして親しまれ、多彩なバリエーションを生み出しながらも、90年以上にわたって基本デザインを維持し続けている。さらに、その独創的な反転構造はやがて、第二のダイアルを持つデュオフェイスモデルを生み出し、レベルソの可能性を広げていった。

ミラネーゼメッシュブレスレットを装着した、フルゴールド仕様の「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」。ジュエリーのような佇まいが魅力だ。手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPGケース(縦40.1×横24.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。748万円(税込み)。
「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」の2026年新作
そんなレベルソコレクションに加わった2026年新作が、「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」のフルゴールドモデルだ。ハイコンプリケーションウォッチや、ブレスレット一体型ケースを特徴とする「マスター・コントロール・クロノメーター」など、注目作の多いジャガー・ルクルトの新作だが、同社の歴史を物語る1本として、本作の存在を忘れてはならない。
18Kピンクゴールド製のケースは、ミディアムに分類される縦40.1×横24.4mmのサイズ。約42時間のパワーリザーブを備える自社製手巻きムーブメントCal.822を搭載することで、ケースの厚さをわずか7.56mmに抑え、袖口をエレガントに演出する。
ダイアルをゴールドトーンで仕上げ、さらに18Kピンクゴールド製のブレスレットを組み合わせた仕様は、2025年に登場した「レベルソ・トリビュート・スモールセコンド」Ref.Q713216Jを彷彿とさせる。おもな違いは、スモールセコンドを廃して2針とした点と、サイズダウンした点だ。これによって、より初代レベルソに近いプロポーションに改められたと言えるだろう。
初代レベルソの意匠を受け継ぐダイアル
レベルソ・トリビュートは、1931年に誕生した初代モデルにオマージュを捧げるラインだ。ドーフィン型の時分針とアプライドインデックス、ダイアル外周のレイルウェイミニッツトラックを特徴とし、アラビア数字インデックスを備えた通常のレベルソに比べ、よりシンプルに纏め上げられている。
サンレイ仕上げのダイアルを組み合わせることの多いレベルソ・トリビュートだが、本作では砂地のようなザラついたグレイン仕上げが施されていることに注目したい。これによって、繊細に煌めくブレスレットや、ポリッシュ仕上げのケースとのコントラストが生み出され、全体にメリハリを利かせている。
加えて、ゴールドカラーは華美な印象をもたらすことが多いが、反射を抑えたグレイン仕上げによって落ち着きのある見た目に整えられている。ポリッシュ仕上げのインデックスと針を際立たせ、視認性を高めている点からは、実用時計としての出自を感じさせる。12時位置にブランドロゴをプリントしたのみの、視覚的なノイズを排除したダイアルは、小ぶりながらもゆったりとした優雅さをたたえている。

最大のポイントは、きめ細やかなミラネーゼメッシュブレスレット
本作の最大の見どころは、やはり18Kピンクゴールド製のミラネーゼメッシュブレスレットだろう。ミラネーゼメッシュは13世紀のイタリア・ミラノに起源を持つ金属加工技法で、本来は鎖帷子の一種として生まれた。その後、ルネサンス期には金細工師たちによってジュエリーへ応用され、20世紀には時計用ブレスレットとして広く知られるようになっている。アールデコ期に人気を博し、後年に再評価されたという、レベルソとの共通点も興味深い。今回、ジャガー・ルクルトはこの歴史ある技法を再現し、ドレッシーなブレスレットウォッチを作り上げたのである。

本作のブレスレットには、合計13.5mの18Kゴールド製ワイヤーが用いられ、細かなメッシュを高密度に編み込むことで、まるで布のようなしなやかさを実現している。一般的なリンクブレスレットとは異なり、ピンでコマ同士を繋ぎ合わせる構造ではないため、手首の湾曲に合わせて滑らかに寄り添う装着感を味わうことが可能だ。さらにスライド式のバックルを採用することで、手首回りぴったりにサイズを調整することもできる。
レベルソはレザーストラップのイメージが強いが、本作ではミラネーゼメッシュブレスレットを組み合わせることで、ケースやダイアルとの一体感を作り出し、まるでジュエリーのような存在感を与えることに成功している。このブレスレットにはクイックリリーステクノロジーが採用されており、工具を使うことなく別売りのレザーストラップなどに付け替え、クラシックなスタイルを楽しむことも可能だ。

拡充を見せるレベルソコレクション
近年のレベルソコレクションは、デュオフェイスやクロノグラフ、コンプリケーションモデルなど、そのバリエーションを大きく広げている。一方で、1931年から受け継がれる反転構造のケースやアールデコ様式のデザインなど、その根幹を成す要素は一貫している。
今回発表されたレベルソ・トリビュート・モノフェイスの18Kピンクゴールドモデルもまた、その特徴を受け継ぐ1本である。初代モデルに共通するデザインコードがレベルソらしさを感じさせつつ、クラシカルなミラネーゼメッシュブレスレットやゴールドトーンのダイアルが新鮮な印象を与える。デザインを変えることで進化する時計は少なくないだろう。しかしレベルソは、基本的なスタイルを堅持しながらも、新たな価値を提案してきた稀有な存在なのである。



