オリスが、ディズニー『ザ・マペッツ』とのコラボレーション第3弾として発表した「プロパイロットX ゴンゾ エディション」。本作のベースとなったのは、10日間ものパワーリザーブを誇る手巻きムーブメント、Cal.115を搭載した「プロパイロットX キャリバー115」だ。キャラクターと機械式時計を結び付けた、ユニークなコラボレーションモデルを深掘りする。
Text by Tsubasa Nojima
[2026年10月2日公開記事]
現代的な機械式時計を目指した「プロパイロットX キャリバー115」
オリスが2026年新作として発表した「プロパイロットX ゴンゾ エディション」。そのベースとなったのは、スケルトン仕様の手巻きムーブメントを搭載する「プロパイロットX キャリバー115」である。プロパイロットX キャリバー115が登場したのは2019年のこと。オリスの自社開発ムーブメントを象徴するCal.100シリーズをベースに、約2年の開発期間を費やしてスケルトン化されたのが、Cal.115である。
プロパイロットX キャリバー115はその名の通りパイロットウォッチだが、一般的にイメージされるクラシカルなパイロットウォッチとは異なるデザインを持つ。直径44mmのチタンケースには、直線を多用したシャープな造形を採用し、ケースから連続するチタンブレスレットも含め、幾何学的なフォルムを形成する。ダイアル側からはスケルトン化されたCal.115を眺めることが可能であり、12時位置には約10日間のロングパワーリザーブを生み出す巨大な香箱、3時位置には主ゼンマイの残量が少なくなるにつれて、より細かく残り時間を読み取れるようになるノンリニア式パワーリザーブインジケーター、7時30分位置にはスモールセコンドを配している。そして今回の新作において、Cal.115を象徴する香箱とパワーリザーブインジケーターは、あるキャラクターを表現するための舞台として利用されたのである。

『ザ・マペッツ』のコラボレーション第3弾。ブルー、レッド、イエローの鮮やかなカラーリングや唐辛子型のパワーリザーブ針に加え、主ゼンマイを巻き上げるとゴンゾの顔が現れる仕掛けまで盛り込まれている。手巻き(Cal.115)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。Tiケース(直径44mm、厚さ12.6mm)。10気圧防水。170万5000円(税込み)。
命知らずのショーマン、“ザ・グレート・ゴンゾ”
今回オリスがコラボレーションしたのは、ディズニー作品の『ザ・マペッツ』だ。主役に選ばれたキャラクターは、青い毛並みと長く曲がった鼻を持つキャラクター、ゴンゾこと“ザ・グレート・ゴンゾ”である。ゴンゾは、1976年の『ザ・マペット・ショー』に登場したキャラクターだ。初期から一風変わったショーマンとして描かれ、奇想天外なパフォーマンスや常識外れのスタントに挑戦するキャラクターとして人気を集めてきた。
オリスと『ザ・マペッツ』のコラボレーションとしては、これまでにもカーミットとミス・ピギーをテーマとした「プロパイロットX」が製作されており、今作は第3弾にあたる。過去2作でもキャラクターを時計へ落とし込むための遊び心が盛り込まれてきたが、今回はベースモデルそのものが違っている。スケルトンダイアルや巨大な主ゼンマイなどを備えた大胆な姿は、命知らずのパフォーマンスを得意とするゴンゾのキャラクターにもよく似合う。

主ゼンマイを巻き上げると、ゴンゾが現れる
本作に強烈なインパクトを与えているのが、スケルトンダイアルを彩る鮮やかな色彩だ。ブルーからレッド、イエローへと変化するグラデーションを施し、レギュラーモデルとはまったく異なる表情に仕上げている。これはゴンゾの鮮やかな毛並みや個性的なファッションから着想を得たものだ。さらにダイアルリングにはレーザー加工が施され、見る角度によって色彩が変化する。
3時位置のノンリニア式パワーリザーブインジケーターも専用仕様だ。針はゴンゾが好んで着用する唐辛子柄のシャツをモチーフとしたチリペッパー型を採用。目盛りには通常の「DAYS」ではなく、「10 GREAT DAYS」と記されている。“ザ・グレート・ゴンゾ”と10日間のパワーリザーブを掛け合わせた、コラボレーションモデルならではの遊び心だ。

さらに注目すべきは、12時位置の巨大な香箱である。Cal.115では、長大な主ゼンマイを収める香箱がオープンとなっており、ダイアル側からその内部を確認することが可能だ。今作では、ここにもギミックを加えている。リュウズを回して主ゼンマイを巻き上げていくと、主ゼンマイの各部に分散していた模様が徐々に重なり、やがてレーザー加工によって描かれたゴンゾの笑顔が浮かび上がっていくのだ。反対に時計を動かして主ゼンマイがほどけていけば、顔も少しずつ崩れ、再び個々の模様へと分散していく。主ゼンマイを巻くという機械式時計ならではの操作と、その収縮という機構そのものを利用して、キャラクターが現れたり消えたりするのである。
一般的なキャラクターとのコラボレーションモデルであれば、ダイアルにイラストを描くことでも成立する。しかし本作では、Cal.115がもともと持っていたスケルトン構造を活用し、機械式時計だからこそ成立するギミックへと仕立てている点に、オリスの発想力の高さがうかがえる。

44mmの大径ケースを軽快に仕立てるチタン外装
個性的なダイアルに目を奪われるが、腕時計としての外装にもプロパイロットX キャリバー115ならではの見どころがある。ケース径は44mmと大ぶりながら、ケースとブレスレットには軽量なチタンを採用。ケースは複数のパーツによって構成され、平面とシャープなエッジを組み合わせることで、スケルトン化されたCal.115にも通じる幾何学的なフォルムを作り出している。ケースからブレスレットへと連続する造形も含め、クラシカルなパイロットウォッチとは一線を画す、モダンなスタイルだ。
風防には両面球面カットのサファイアクリスタルを採用し、両面に無反射コーティングを施す。ケースバックもサファイアクリスタルを用いたシースルー仕様。ダイアル側とは異なる方向からCal.115を鑑賞することが可能だ。搭載するCal.115は直径34mmにも及ぶ大型のムーブメントだ。サファイアクリスタルを通して見えるその迫力は、なかなか他のムーブメントでは味わうことのできないものである。
最大の特徴であるパワーリザーブは約240時間、つまり約10日間と非常に長い。これほどのロングパワーリザーブを備えていれば、本来はリュウズを巻く機会を大幅に減らすことが可能だ。しかしゴンゾ エディションでは、リュウズを巻くほどにゴンゾの笑顔が完成していくというギミックが備わっている。そうであるからこそ、巻き上げの手間を減らすための約10日間のパワーリザーブが、逆に巻きたくなる仕掛けへと転じているところも面白い。実用性のために備わった機構に、コラボレーションによって新しい楽しみ方が与えられているのである。

キャラクターを「載せる」のではなく、機械式時計で表現する
多くのブランドが手掛けるキャラクターとのコラボレーションウォッチ。しかし、時計としてのバランスを取るのは、想像以上に難しいことなのではないだろうか。キャラクターを大きく描けば、それがどのような作品とのコラボレーションなのかは一目瞭然だ。しかしその反面、腕時計というよりもキャラクターグッズのような印象が強くなりかねない。一方で意匠を控えめにするくらいであれば、コラボレーションの意味は薄くなってしまうだろう。
今回発表されたプロパイロットX ゴンゾ エディションは、その難題に対して少し変わった回答を提示している。ブルー、レッド、イエローの鮮やかなグラデーションや唐辛子型の針は、確かに分かりやすいモチーフだろう。しかし、ゴンゾが常に見えているわけではない点で、直接的とは言い難い。ゴンゾの姿は、主ゼンマイを巻き上げて初めて姿を現し、時計を使えば再び消えていく。時計の状態に合わせて、現れ消えるという仕掛けは、ベースモデルの特徴を生かしつつキャラクターの魅力を表現した、コラボレーションとして理想的なまとめ方ではないだろうか。
プロパイロットX キャリバー115はもともと、巨大な主ゼンマイやノンリニア式パワーリザーブ表示などの機構を、スケルトン構造によって視覚的な魅力として打ち出したモデルだ。主ゼンマイはゴンゾを出現させる舞台となり、約10日間のパワーリザーブは「10 GREAT DAYS」というジョークに変わり、パワーリザーブ針は唐辛子になる。スケルトン構造にはゴンゾを思わせる鮮烈な色彩が加わった。ベースモデルの持つ遊び心をコラボレーションによって増幅させている。
コラボレーションモデルとは、既存の時計にロゴや色を加えるだけの表面的なものではないはずだ。コラボレーション先の個性を理解し、ベースとなる時計の特徴と結び付けることができれば、ベースモデルにはなかった楽しみ方さえ生み出せる。プロパイロットX ゴンゾ エディションは、単にキャラクターを時計に“載せた”モデルではない。機械式時計そのものを使って、ゴンゾを表現したモデルなのである。




