グランドセイコーのオーナーになると、GS9というクラブの会員になる。そしてセイコーウオッチは、彼らのために工場見学「GS9 Clubファクトリーツアー」を実施している。訪問先は、メカニカルを製造する岩手県の雫石か、クォーツまたはスプリングドライブを製造する長野県の塩尻。今年は昨年に続き、雫石の盛岡セイコー工業だった。ここでは、9Sキャリバーを搭載するグランドセイコーの製造・組み立てを行っている。ちなみに広田も一応参加してきたというか、初回からこのイベントのオマケ解説員をやらせていただいている。公式サイト曰く、「時計ジャーナリストの広田雅将氏も同行予定で、グランドセイコーメカニカルモデルに関するさまざまなお話しも直接うかがえます」だそうだ。
このイベントの面白さは、普通の人が入れない、部品の製造工程を見られることだ。カナの製造や焼き入れなんて、ジャーナリストでもなかなか見られない場所をこのイベントでは惜しげもなく見せてくれる。写真撮影は基本的に禁止だったが、可能なところの写真をいくつか掲載したい。広田はオタクなので、視点が偏っているのはご容赦あれ。
1.セイコーメカニカルを支える焼き入れ工程
盛岡セイコー工業で製造するムーブメント(9S、4S、8Lなど)は、主な機能部品に焼き入れを施している。もちろん焼き入れだけでなく、粘りを出すための焼き戻しも加えている。面白いのは、天真の焼き入れ。普通は硬くなりすぎないよう、少し高度を押さえる。しかし9Sの天真の硬さは、740Hvもあるとのこと。硬すぎると簡単に折れてしまうが、盛岡セイコー工業では「ある手法」を用いて、ほとんど硬さを落とすことなく粘りを与えている。筆者の知る限り、740Hvの硬さを持つ天真は、セイコーのメカニカルだけではないか?
2. 2日目には分解組み立て講座もある
大人の工場見学は2日ある。初日は工場見学、翌日は分解組み立て講座だ。9Sの組み立てに携わる江口さんの解説を聞きつつ、9Sの分解組み立てを行うのはかなり面白い。写真は、9Sの輪列。MEMSを使った特徴的なガンギ車が見てとれる。なお関係者曰く、普通のスチールよりもMEMSを使った物の方が硬いとのこと。個人的な意見を言うと、今の9Sシリーズは大変に安定している。ちょっと厚いけどね。
3.『クロノス日本版』も当然読めます
2階には、組み立て部門である「雫石高級時計工房」もある。ラックには『世界の腕時計』と小誌が並んでいる。過去の記事を読み返すのはかなり恥ずかしいが、一読すると、盛岡セイコー工業の全容は分かるかも。
4.今回帯同した時計
今回持っていったのは、グランドセイコーのファーストモデル。諏訪精工舎(現セイコーエプソン)製なので、腕には着けなかった。1962年製。現在、塩尻のセイコーエプソンがグランドセイコーのクォーツとスプリングドライブを、雫石の盛岡セイコー工業がメカニカルを製造している。なお、メイド・イン・ジャパンのセイコー5などは、関係会社の二戸で製造している。
5.盛岡セイコー工業を支える金型
この会社は、メカニカルのムーブメントだけでなく、安価なクォーツムーブメントも量産している。最大生産個数は月に1000万個。それを支えるのは、精密な金型である。金型マニアとしてはかなり嬉しい。筆者の見る限り、日本製のメーカーは金型の質が良く、しかも管理も大変に優れている。
GS9 Clubファクトリーツアーは、2018年も開催予定とのこと。たぶん場所は雫石ではなく、塩尻。すごく面白いイベントですが、倍率は30倍らしい。もしご興味がある方は、ぜひ応募ください。ひょっとしたら、来年も広田はいるかもしれません。(広田雅将)