編集部ブログが復活ということで、人生2度目の記事を書くことになった。初めて書いた記事は、セイコー プレザージュの「富岡シルク推進機構 限定モデル」を取材した時だ(https://www.webchronos.net/features/165845/)。そもそも記事を書いた経験自体がまったくなかったので、今回は『クロノス日本版』編集部員の遠藤有隆が「なぜ機械式時計に興味を持ったのか」を振り返ってみたいと思う。

Photographs & Text by Youkoh Endo(Chronos-Japan)
[2026年10月17日公開記事]
初めての機械式時計との出合い
もともと、筆者は洋服には興味があったが、腕時計にさほど興味はなかった。そんな筆者が機械式時計に引かれるようになったきっかけは、以前某セレクトショップで働いていた頃にさかのぼる。当時、店長が手元に着けていた時計に目を奪われたのだ。その時計はIWCの「メカニカル フリーガー クロノ」。3カウンターのシンプルな腕時計で、余計なものをすべて削ぎ落とした高い視認性と、機能美にあふれたその姿は、当時の筆者にとってまさに衝撃的だった。
のちに知ることになるのだが、IWCはスイスの高級時計ブランドでありながら、工房のあるシャフハウゼンがドイツ国境に近いこともあり、ドイツ時計の特徴である「質実剛健」や「機能美」といったプロダクト精神を強く受け継いでいる。もともとバウハウスデザインに引かれていた筆者にとって、そのデザイン哲学と共鳴するのは、ある意味で必然だったのかもしれない。
初めて購入した腕時計
とはいえ、当時の筆者にはすぐに機械式時計を購入できるほどの余裕がなく、興味を持ってから実際に手に入れるまでには少し時間がかかった。
そんな筆者が悩み抜いた末に初めて購入した時計が、フォルティスの「フリーガー プロフェッショナル デイデイト(Ref.595.22.41MH)」だ。シンプルで視認性が高く、鮮やかな赤の秒針がアクセントになった3針モデルで、便利なデイデイト機能も備わっていた。「一生モノとして愛用しよう」と心に決めていた当時の自分にとって、汎用性が高く飽きのこないこのモデルは、まさに打ってつけの選択だった。
初めてのIWC
5〜6年ほどフォルティスを毎日の相棒として愛用していたのだが、転職をきっかけに、一度は落ち着いていたIWCへの情熱が再び燃え上がることになった。なぜなら、新しい職場はIWCも取り扱う時計店だったからだ。

日常的に魅力的な時計たちを眺める環境に身を置くうちに、やはりIWCの存在が気になって仕方がなくなってしまったのだ。特に引かれたのはパイロットウォッチ。筆者は根っからの「機能美あふれるツールウォッチ」好きだったのだと再確認させられた。そして転職から半年ほど経った頃、ついに運命の瞬間が訪れる。かつて筆者が機械式時計に興味を持つきっかけとなった、あの「メカニカル フリーガー クロノ」が入荷してきたのだ。

39㎜径のケースは筆者の腕にぴったり合うサイズ感。ETA7750をベースとしながらも、緩急装置をエタクロンからトリオビスへ変更。高い精度を維持しやすく、実に扱いやすい。自動巻き(Cal.7922)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。SSケース(直径39㎜、厚さ15㎜)。6気圧防水。生産終了。
搭載ムーブメントのベースはETA7750であるため重厚な厚みがあるが、直径39mmのケースサイズのおかげで手元の収まりは実に良い。しかも“お魚リュウズ”や“オールトリチウム夜光”など、愛好家にはたまらない当時のオリジナルコンディションと思われる個体だったため、無理して手に入れたことを今でもよく覚えている。
生産終了モデルの一部は、メーカーでコンプリートサービスを受けるとルミノバの針に交換されたり、リュウズが現行のIWCロゴ仕様に変更されてしまうことが多い。そのため、当時のオリジナルスペックを維持した個体に出合える機会は、実はそう多くないのだ。
編集部員・遠藤にとっての機械式時計
現在でこそ、日々の相棒はIWCの「マーク12」へと引き継がれているが、筆者を機械式時計の奥深い世界へと引き込んでくれた「メカニカル フリーガー クロノ」は、今なお色あせない特別な存在である。

現在の愛機。ジャガー・ルクルトのCal.889ベースの、Cal.884/2を搭載。軟鉄製インナーケースを備えてもこの薄さは着けやすい。自動巻き(Cal.884/2)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径36㎜、厚さ10.5㎜)。6気圧防水。生産終了。
セレクトショップの店頭で目を奪われ、時計店で運命的に手に入れ、ごく最近までずっと愛用してきた。そして今、こうして時計専門誌の編集部員として記事を書いている――。思い返せば、筆者の時計人生の節目にはいつもこの時計の存在があった。時代を超えて受け継がれる機械式時計の面白さを教えてくれたこの1本は、これから先もずっと、筆者の時計愛の根幹であり続けるはずだ。



