IWC「インヂュニアSL」から50年。2本のアニバーサリーモデルが受け継ぐDNA

2026.10.09

1970年代の初頭から中頃にかけて、故ジェラルド・ジェンタの手でデザインされた“ラグジュアリースポーツ” の数々。IWCが1976年に発表した「インヂュニアSL」も、その文脈に連なる1本だが、発表からわずか6年で姿を消した。後年にIWCを代表するアイコンとして再発見されたそのDNAは、2本のアニバーサリーモデルへと受け継がれた。

インヂュニア・オートマティック 35 “50th Anniversary”

Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]


甦る“ジェンタSL”の面影

 1976年に発表されたIWCの「インヂュニアSL」。歴史的に見れば、これは55年から続く耐磁時計「インヂュニア」の、単なる第2世代機であるにもかかわらず、IWCに転換点をもたらしたプロダクトとして記憶されている。それはデザインを手掛けたのが、故ジェラルド・ジェンタであったからだ。

インヂュニアSL[Ref.1832]

インヂュニアSL[Ref.1832]
1976年に発表されたオリジナルモデル。ワッフルパターンのダイアルが有名だが、写真のようなサテンのシルバーメッキもあった。自動巻きのSSモデルは534本製造された。自動巻き(Cal.8541ES)。21石。1万9800振動/ 時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40mm)。参考商品。

 スイス時計産業全体に斜陽の影が落ち始めた1970年代、IWCでもウォッチデザインに活路を見いだそうという動きが起こった。“ジェンタSL”の販売時期と重なる、ポルシェデザインとのコラボレーションもそうした動きのひとつだろう。現代では“ラグジュアリースポーツ”と呼ばれる一連のモデル群をすでに完成させていたジェンタは、IWCからのオファーにも同様のアプローチで臨んだ。一体型のブレスレットを構築しやすいCラインケースや、ツール受けをデザインに昇華させたネジ込み式のベゼルなどがそれである。現行インヂュニアのベゼルは5カ所のネジで締結されているが、これは本来ツールを引っかけるための穴で、オリジナルモデルでは、必ずしも正位置にこないのが正解だ。これはジェンタが一連の“ラグスポ”に、バックケース一体の2ピース構造を採用することで、薄型化を狙ったことに起因している。しかし、IWCがSLのために用意したムーブメントは、ペラトン式自動巻きの最終世代にあたるキャリバー8541ESで、厚さは5.9mmもあった。これに軟鉄製の耐磁インナーを組み合わせた結果、一連のジェンタ作品では珍しい、3ピースケースでの完成となった。

インヂュニア・オートマティック 35 “50th Anniversary”

旧インヂュニアSLの特徴的な造形を彷彿とさせるディテール。右が40mm、左が35mmケース。どちらも一体型ブレスレットとの親和性の高いCラインケースを採用する。Hリンクのブレスレットは、センターピースと同様、断面中央に向かって柔らかなアールが設けられている。

 発表当時の価格は2100スイスフラン。これは初代インヂュニアに倍するもので、当時のゴールドウォッチと同等だった。スティール製のインヂュニアSLは、他のジェンタ製スティールウォッチと同様、非常に高価なモデルであったし、総生産数も976本(クォーツやゴールドも含む)に留まったとされる。しかし、この少なすぎる生産数がヴィンテージ市場で話題を呼び、同社を代表するデザインアイコンにまで成長したことは歴史の皮肉であろう。

 インヂュニアSLの発表から50周年を迎えた2026年、IWCは現行「インヂュニア・オートマティック」をベースとしたスペシャルエディションを投入した。オリジナルと同サイズとなる40mmケースがソリッドバック。今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表された35mmケースがトランスパレントバックで、どちらもヘアライン状のストライプを刻んだガルバニックシルバーのダイアルを採用する。これはオリジナルSL(Ref.1832)にも採用例のあったパターンのひとつで、有名なワッフルパターンではなく、こちらを選んだ点が心憎い。矢印を組み合わせるインヂュニアロゴは、オリジナルで「SL」とされていた部分を「50」に描き変えている。

インヂュニア・オートマティック 40 “50th Anniversary”[Ref.IW328910

インヂュニア・オートマティック 40 “50th Anniversary”[Ref.IW328910]
SLと同じ直径40mmの50周年モデル。スクリューバックを採用し、内部には軟鉄製のインナーケースを持つ。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.7mm)。10気圧防水。世界限定1150本。233万2000円(税込み)。

インヂュニア・オートマティック 35 “50th Anniversary”[Ref.IW324909]

インヂュニア・オートマティック 35 “50th Anniversary”[Ref.IW324909]
2026年に発表された新しい35mmケース。こちらはトランスパレントバック仕様で、ムーブメントが覗く。自動巻き(Cal.47110)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径35.1mm、厚さ9.4mm)。10気圧防水。世界限定1150本。202万9500円(税込み)。

IWCオリジナル動画 “The Most Brilliant Failure” YouTubeで公開中

The Most Brilliant Failure

 故ジェラルド・ジェンタの手で1976年にデザインされ、“偉大なる失敗”としてわずか6年で消えていった「インヂュニアSL」。その足跡とDNAをたどるオリジナル動画が、IWCのオフィシャルYouTubeで配信中だ。





Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


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