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バーゼルワールド探訪記 シチズン、年差1秒のクォーツムーブを発表(1/1)

Photographs by Eiichi Okuyama and Chronos-Japan

 本誌の読者ならお分かりだろうが、筆者はセイコーの9Fキャリバーを、スタンドアローンで動く腕時計用ムーブメントの最高峰と考えてきた。あれ以上のクォーツムーブメントは絶対に出来ないと思っていたし、記事にもそう書いてきた。9Fは「クォーツのロールスロイス」であり、時計史に残る金字塔だ。

 しかし、である。バーゼルワールドのシチズンブースを訪問して、筆者は腰が抜けそうになった。シチズンの発表したエコ・ドライブクォーツのCal.0100は、ひょっとして9Fを超えるかもしれない。つまり、スタンドアローンで動く腕時計用ムーブメントのベストである。

 今まで、さまざまなメーカーが高精度クォーツムーブメントを作ってきた。しかし、シチズンが公表するCal.0100の精度は、それらをはるかに凌駕する。まさか高精度クォーツが、年差±1秒を実現するとはだれが想像しただろうか?

 クォーツムーブメントに高い精度を与える手法は主にふたつある。現在ポピュラーなのが、温度補正を加えることだ。セイコーの9Fも、ETAの高精度クォーツ「サーモライン」も、現行の年差クォーツは、例外なくこの手法を採用する。過去との違いは、温度補正用のセンサーと補正の回数が増えたことだ。結果として、クォーツムーブメントは年差という精度を実現できるようになった。セイコーやETAが好む、高精度クォーツムーブメントの定石である。

 もうひとつの手法が、振動数を上げることだ。現在、クォーツウォッチの振動数は、ほぼ3万2768ヘルツで統一されている。しかし、かつてはそれ以上の振動数を誇るクォーツムーブメントが存在した。機械式ムーブメントに同じく、振動数は上げれば上げるほど、精度は向上する。しかし、これまた機械式ムーブメントと同じで、振動数を上げるとすぐにエネルギーを消耗してしまう。これはかつてのシチズンが好んだアプローチである。

 ではシチズンは、年差1秒という高精度をどうやって実現したのか。定石の温度補正に加えて、シチズンは水晶振動子に838万8608ヘルツ(!)という超高振動を与えたのである。確かに、高精度化の手法をふたつ重ねれば、精度はさらに向上するだろう。

 加えて、シチズンの技術陣は、Cal.0100にさまざまな工夫を凝らした。そのひとつが、ATカット型水晶振動子だ。現在のクォーツ時計が採用する音叉型の水晶振動子に比べてショックと温度変化にも強い。温度特性の安定ぶりは驚くべきで、単にカットしただけの水晶振動子とは、比較にならないほどだ。データを見る限りで言うと、ATカットされた水晶振動子なら、温度補正なしでも年差の精度を実現できるのではないか。それほど良く出来た水晶振動子に対して、このムーブメントは1日に1440回もの温度補正を加えるとのこと。その結果。温度変化の影響はほぼ関係なくなる。クォーツは温度変化に弱いというセオリーを、シチズンは覆してしまったのである。

 そしてもうひとつが、消費電力の小ささだ。超高振動クォーツが廃れた最大の理由は、あまりにも電池を消費したためである。しかし、シチズンは温度補正機能付きの超高振動クォーツを、エコ・ドライブで駆動することに成功した。理論上は不可能に思えるが、実際エコ・ドライブで動くのだから恐れ入った。シチズンの省電力化技術は途方もないが、本作ではさらに推し進めた感がある。

 掛け値なしに、時計史に残るであろう超高精度クォーツムーブメントCal.0100。しかし残念なことに、2018年はサンプル発表のみで、製品版のリリースは来年とのこと。もし、製品版が、試作品並みの完成度を持ち、価格も控えめならば、Cal.0100は、真に時計史に残る存在となるだろう。(広田雅将)


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