時計修理の現場から/フランク ミュラー「トノウ カーベックス」のゼンマイを入れ替える(第1回)

FEATUREその他
2020.03.10

 超・不定期連載、『時計修理の現場から』。今回は、クロノス日本版の女性向けタブロイド誌「クロノスファム」編集長が所有する腕時計が不調となったため、修理工房へ持ち込んだ。その現場を取材した。

今回の修理品、フランク ミュラー「トノウ カーベックス」。手巻きムーブメントCal.ETA7001を搭載する3針モデル。リュウズが回らなくなったため要修理に。フランク ミュラーのテクニカルサービスセンターがある、東京都中央区銀座のフランク ミュラー ウォッチランド東京へ持ち込んだ。


修理工房情報
フランク ミュラー ウォッチランド東京(日本輸入総代理店/ワールド通商)

住所:東京都中央区銀座5-11-14
電話:03-3549-1949
HP :https://franckmuller-japan.com/
メンテナンス部門の人数:29名
オーバーホール(分解掃除)の料金目安(税別)
・クォーツ/4万2000円
・手巻き/6万6000円
・自動巻き/7万2000円
・クロノグラフ、複雑機構/9万6000円

修理をお願いしたのは、こちらの方

山本 宜充
山本宜充さん
ワールド通商(テクニカルサービス部)
独立時計師のテレビ番組に感銘を受け、修理技師の道へ。ヒコ・みづのジュエリーカレッジ、ウォッチコースで時計修理を学ぶ。高い技術力をもつ修理工房に就職を希望し、同社に入社。2016年に、時計職人最高峰の時計技術試験であるC.M.W(Certified Master Watchmaker)に合格。2018年で、修理師としてのキャリアは10年目となる。


 修理受注を確定させる前に、事前の確認で概ねの故障原因を調べて見積もりが出される。今回はこの段階でゼンマイ切れを起こしていたことが分かった。修理当日、全工程を見せてもらえることになったため、ゼンマイ交換のみならずオーバーホール全般に立ち会った。

まずは、磁気帯び確認から

 正しいコンディションを把握しながらオーバーホールを進めるために、まずは時計が磁気帯びしていないかを確認する。左の写真が、磁気チェッカー。1〜5段階に目盛りが刻まれており、数字が大きいほど磁気を帯びていることになる。磁気がすべて抜けると、チェッカーが反応しなくなるため表示はゼロとなり、いずれも点灯しない。右の写真の磁気抜き器で、ゼロになるまで磁気を抜く。

分解開始

 裏蓋、機留めネジと順に分解していく。文字盤を外すために針を抜くが、その前にリュウズを回して針合わせの感触を確認する。この時には若干、空回りする感覚があったため、分針が取りついている「筒カナ」の取りつけ具合が緩いことが分かった。この調整は組み立て時に行う。

 輪列機構を分解する際に油の状態を確認する。最も重要なのは、正しい運針を司るアンクルの爪石の先につく油の量。油が必要となるポイントの中で、ガンギ車とアンクルの接触の抵抗が最も時計の精度に影響が出る。ガンギ車とアンクルは接触回数が多く、爪石の先にかかる負担も大きい。そのため最も早く油が切れるのがこの爪先であるが、抵抗を減らす役割を果たす潤滑油の減りは、精度の要であるガンギ車とアンクルに大きなダメージを与える。
 また他にも重要チェックポイントとして、角穴車の歯先が欠けていないかを確認することも挙げられる。ゼンマイが取り付けられている軸に直に噛み合っている角穴車。その歯先には大きなエネルギーがかかっており、ゼンマイが切れた衝撃で破損している可能性があるが、今回は問題ないようだ。

4番車、3番車、2番車、そして今回不具合のあった主ゼンマイが収まる香箱と、分解を進める。そして、すでに外したテンプをここで一度組み直す。一定のリズムを生み出すヒゲゼンマイの内端カーブと外端のくせつけがしっかり調整されていることがスムーズな伸縮運動を行う際の条件となる。拡大鏡を覗き込み、細いピンセットを使って入念に確認と調整を行う。

  針が付く「裏輪列」側を分解していく。輪列機構や調速脱進機がある側を通称「表輪列」と呼ぶため、それに対して裏輪列、と呼ばれる。表輪列から地板を挟み、2番車には筒カナを経て分針、4番車には秒針が付く。時針は裏輪列にある筒車に取り付けられる。
 写真左は、巻真回りの受けと、リュウズを引いた際にバネの役割を兼ねる裏押さえ(オシドリなど)という部品を外した様子。
 最後にリュウズ、そしてテンプを外し、これで分解の工程が終了となる。

 次回、ゼンマイ交換と組み立てを報告する。
https://www.webchronos.net/features/21764/