ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」豊かな歴史が生み出したかつてないトリプルカレンダー

FEATURE本誌記事
2022.04.22

ヴァシュロン・コンスタンタンという時計メーカーには、数多くの豊かな遺産がある。そのひとつが、1940年代以降にリリースされたトリプルカレンダーだ。実用性を求めるアメリカ市場に向けて、同社はユニークなトリプルカレンダーを製作してきた。そんな同社の歴史が生み出したのが、新しい「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」だ。

トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]


統一感のある「トゥイスト」、すなわち「遊び心」をもたらした老舗ならではのチューニング

トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス

 クラシック ウィズ ア トゥイスト(伝統的でありながら遊び心がある)」を標榜するスイスの老舗メゾン、ヴァシュロン・コンスタンタン。黎明期から〝遊び心〞ある時計を手掛けてきたジュネーブの老舗が、「トゥイスト」という遺産に回帰したのは当然だろう。

 正直今のヴァシュロン・コンスタンタンであれば、どのモデルを選んでも外れはない。作りが良く、デザインがユニークで、しかも人とかぶりにくいとあればなおさらだ。ただ、その中でひとつだけ選ぶとするならば、筆者はいかにもヴァシュロン・コンスタンタンらしい、ひねりの効いたモデルを選択するだろう。その最右翼は「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」だ。

 いわゆる老舗には、「スペシャリテ」と呼ぶべき機構がある。それをヴァシュロン・コンスタンタンで選ぶならば、月、曜日、そして日付表示を備えたトリプルカレンダーになるだろう。複雑時計を作ることができる技術を持ちながらも、同社が一貫してシンプルなトリプルカレンダーを好んだのは、同社にとって重要な市場だったアメリカが、操作の難しい永久カレンダーを好まなかったためだった。

 1940年代以降、同社は数多くのトリプルカレンダーを製作し、しかし、それらは、ありきたりのものではなかった。同社は「トゥイスト」を効かせることで、実用時計のトリプルカレンダーを別物に仕立て上げたのである。極端に誇張したラグや、赤い印字が施された大きな月と曜日表示などは、ヴァシュロン・コンスタンタン製トリプルカレンダーの大きな個性だ。

トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス

ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」
ヴァシュロン・コンスタンタンのお家芸であるトリプルカレンダーに「トゥイスト=遊び心」を加えた試み。文字盤をサファイアクリスタルに替え、色彩をモノトーンに整えただけでなく、細部に手を入れることで非凡なまとまりを得た。老舗の見識をよく反映したモデルである。質感はずば抜けて高い。自動巻き(Cal.2460 QCL/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41mm、厚さ10.7mm)。30m防水。563万2000円(税込み)。

 こういった伝統は、今なお濃厚に受け継がれている。往年のトリプルカレンダーを忠実に再現したのが「ヒストリーク・トリプルカレンダー 1942」であり、新たな解釈を加えたのが「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」となる。いずれも構成はオーソドックスだが、とりわけ後者は、デザイン以上に、仕上げでユニークさを強調している。

 サファイアクリスタル製文字盤を使って、優れたムーブメントを目立たせる手法は決して珍しくないが、この手法をクラシックなデザインに接ぎ木し、かつ成功を収めたのは、ヴァシュロン・コンスタンタンをおいて他になさそうだ。もちろん優れた仕上げのムーブメントがあればこそだが、遊び心を追求してきた同社が、「見せる」文字盤に至ったのは必然だろう。

 本作が搭載するキャリバー2450系は、本誌でも再三取り上げてきた傑作である。パワーリザーブはやや短いものの、片方向巻き上げの自動巻きはデスクワークでもよく巻き上がり、ローターの回転音も極めて静かだ。針合わせの感触は正逆どちらも精密なうえ、深い面取りや浅いコート・ド・ジュネーブ、均一に施された筋目仕上げなどは、いかにも高級機の見た目をもたらす。

 もっとも、単に文字盤をサファイアクリスタルに置き換えただけでは、これほどの統一感は得られない。時計全体の色調を揃え、カレンダーの視認性を高めるために、地板と受けにNAC処理が施されたほか、6時位置の月齢表示には、ヴァシュロン・コンスタンタンではおなじみのリアルな意匠が施された。さらに文字盤の一部をすりガラスに替え、外側に金の枠を加えることで、文字盤のメリハリを強調したのである。往年のモデルがそうであったように、ユニークなデザインを破綻なくまとめ上げる手腕は、非凡と言うほかない。

 正直、普通のトリプルカレンダーに比べて、本作は決して安くはない。しかし、お手本と言うべき優れた仕上げと、細部への配慮、十分以上の実用性に加えて、際立ったユニークさを持つ時計は、今も昔も、極めて稀少なものなのだ。もしあなたが、他にはないクラシックウォッチを探しているならば、この時計は間違いなく、選択肢に入れる価値がある。



Contact info: ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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