なぜ、この10年ほどでブロンズがこれほどの人気を博したのか?

FEATUREWatchTime
2022.07.06

ブロンズウォッチの所有と手入れについて、経年変化への愛着だけではないさまざまな視点から見ていきたい。ここで対象とする話題には、経年変化や化学物質との接触において変化が起きる素材についてのメリット・デメリットや、またどのようにこの金属をうまく手入れしていくかということも含まれている。

前編ではこの10年ほどでなぜブロンズがこれほどの人気を博したのかに迫りたい。

Originally published on watchtime.com
2022年7月6日掲載記事

モンブラン 1858 ジオスフェール

2018年に発表されたモンブランのブロンズウォッチ、「1858 オートマティック クロノグラフ」。


存在感を増すブロンズウォッチ

 近年、時計業界に新たな「ブロンズ時代」が到来したと言っても過言ではないほどのブロンズブームが巻き起こっている。ユニークで個性的な時計が好まれるようになり、またインスタグラムの愛好家のコミュニティによって、ブロンズは急速に新しい「流行りの」金属になっていった。これはまた高級時計業界において、より入手しやすい分野であるといえよう。ブロンズの変化する特性は他の金属とは異なり、経年変化が大きく、合金の組成によっては個々の状態に大きなばらつきが生じる。

 工房出荷時のブロンズカラーを維持したい人もいれば、海辺で何年も使い込まれたような外観を持たせる方法を模索する人もいる。美しいブロンズウォッチについて語れば語るほど、ブロンズウォッチを日常使いするのに必要なことについて掘り下げなければならない。


豊富な選択肢

 ブロンズウォッチの分野が成長を続ける中、時計愛好家にとってそのオプション決して少なくない。もともとこのカテゴリーはダイバーズウォッチに限定されるものだった。例えばモンブランより「1858 オートマティック クロノグラフ」「1858 ジオスフェール」「1858 クロノグラフ タキメーター リミテッドエディション」のようなモデルも生み出されてきた。

 これらのドレッシーで従来と一線を画すような選択肢は、全体の流れを変える好意的なものとして受け止められ、それは特にモノプッシャー式クロノグラフ タキメーター搭載の、手巻きキャリバーMB M16.29を搭載したモデルにおいて顕著であった。

 ブロンズのダイバーズウォッチの分野は成長を続けている。限定本数2000本が早々に完売を見せたオリスのダイバーズウォッチ「カール・ブラシア」に続き、オリスは後継モデルであるクロノグラフ搭載ダイバーズウォッチ「カール・ブラシア クロノグラフ」を発表している。ケースサイズが前作の3針モデルの直径42mmよりも1mm大きくなったことに加え、このモデルは同じヴィンテージ調のドーム型サファイアクリスタル製風防、刻印とレリーフのインデックスを組み合わせた端正なワンピース構造の回転ベゼルを備えている。

カール・ブラシア クロノグラフ

オリスの「カール・ブラシア クロノグラフ」。

 ミューレ・グラスヒュッテも2017年に「SAR レスキュータイマー」の15周年記念としてブロンズウォッチを発表している。蓄光性の文字盤を備え、トレードマークのラバー加工ベゼルとDLCコーティングを施したリュウズがコントラストをなすこの時計には、くすんだオリーブカラーのストラップが組み合わされ、わずか世界限定150本と少数で展開された。

ルミノール サブマーシブル 1950 3デイズ オートマティック ブロンゾ

2011年に初めてのブロンズウォッチとしてパネライが発表したリミテッドエディション「ルミノール サブマーシブル 1950 3デイズ オートマティック ブロンゾ」。

 このカテゴリーにおいて、コレクターのコミュニティを騒がせたのがパネライの「ルミノール サブマーシブル 1950 3デイズ オートマティック ブロンゾ」(PAM 671)だ。2011年に誕生したオリジナルのブロンズモデルPAM 382と2013年に続いたPAM 507は、長いあいだ求められたパネライの2モデルであったのだが、ブランドが3番目のバージョンを発表した際には、長い目で見るとオリジナルが収集対象としての価値を下げると見えたため、多くのパネリストは激怒した。
 
 ただしビジネス的に見ると、高級ブランドの近年における市場動向や、最初の2モデルの成功を考えると、PAM 671の市場投入は容易に予測できたことであった。また1000本の限定モデルであることを考慮すれば、収集対象としては大きな影響はなかったろうと思われる。


合金のパーセンテージがすべての違いを生み出す合金

 ある意味において、「ブロンズはブロンズ」と言い切ってしまうことは簡単だが、市場にあるさまざまなブロンズウォッチを見ると、個々のモデルに大きな違いがあることが分かる。そしてまた、時計メーカーの多くはアルミニウムブロンズ合金を採用している。ブロンズとは元来、銅を主成分にその他にもさまざまな金属を異なる配分で使用したものとなっている。追加される素材にはスズ、ヒ素、リン、アルミニウム、マンガン、シリコンなどが多く、異なる属性を金属素材に持たせるために使われる。

ヘリテージ ブラックベイ ブロンズ

チューダーの「ヘリテージ ブラックベイ ブロンズ」。

 時計作りにおいては、腐食と劣化が気にかかるため、アルミニウムブロンズという選択肢が多く採用される。この合金でもいくつかのバリエーションがある。最大6%の鉄とニッケルが許容されるが、アルミニウムのパーセンテージには変動が許されており大体6~15%となっている。一般的にはアルミニウムの含有量が高いほどブロンズの色調は涼しげなグレーとなり、含有量が低いと温かみのあるコッパーカラーとなる。チューダーの「ブラックベイ ブロンズ」はアルミニウム含有率が高く、オリスの「カール・ブラシア クロノグラフ」の含有率は低いのだろうと推察される。ただここで言えるのは、どの時計ブランドも現在の理想的なブロンズの組成について、現段階でデータを公表していない。

カール・ブラシア

アンモニアの気体と塩水であえて経年変化の風合いを持たせたオリスのカール・ブラシア。

 ご存じのように、ブロンズウォッチにはステンレススチールやチタン製のケースバック、トランスパレントバックなどが採用されている。ブロンズに含有される銅は人の皮膚にある水分に反応し、表面に緑の物質(塩化銅)を生成し、金属・皮膚双方に緑の着色を引き起こす。見た目的にも美しくないだけでなく、塩化銅との接触は健康を害することから回避が望まれる。


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