ロレックスの「認定中古ビジネス」【第3回/全4回】長期的に中古ロレックス市場の主導権は、ロレックスと正規品販売店へ移る!?

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2022.12.31

今、時計業界で最大の話題といえば、ロレックスがヨーロッパの名門老舗時計店「ブヘラ」で開始した「Certified Pre-Owned(認定中古)ロレックス」(以下、CPOロレックス)という新しいプログラムによる中古時計市場への参入だ。

先週の第2回では、なぜロレックスが認定中古サービスを始めたのか、その理由と目指す未来について考えた。今回の第3回では、その中古時計市場への影響を考察する。

ロレックスの「認定中古ビジネス」【第1回/全4回】なぜ始めた? 日本でのサービス開始は!?
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©Yasuhito Shibuya
2015年、今はなき(!)バーゼルワールドのロレックスブースの様子。当時からロレックスの新作は供給を上回る人気だったが、今ほど「投機の対象」にはなっていなかった。
渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
(2022年12月31日掲載記事)


絶対安心できる中古ロレックスの登場!

  CPOロレックスの魅力は、何といっても現行モデルの新品と変わらない品質保証が付いていること。

 3年以上前に販売されて使用された後、ロレックスの正規アフターサービスで完璧に整備され、現行正規新品の「5年間の国際品質保証」よりは短いものの、ロレックスによる2年間の国際品質保証が付帯されている。自動車メーカーの認定中古車と同じで、これほど安心して購入できる中古のロレックスは他にない。つまり、これまで中古時計を購入したことがない人、中古時計に不安を抱いている人も、安心して購入できる。

新品のロレックス。緑のタグは「SUPERLATIVE CHRONOMETER」(高精度クロノメーター)の証し。

 2023年春以降は、スイスを本拠にロレックスと親密な関係にある名門老舗時計店「ブヘラ」のヨーロッパ6カ国の店舗に加えて、希望すれば世界中の正規品販売店にこのビジネスを拡大する予定だとロレックスはアナウンスしている。

 そして、このCPOロレックスの登場で、新品のロレックスを購入したかった、でも予約できても数年は入荷待ちしなければならなかった人に、新たな選択肢が登場したことになる。

「CERTIFIED PRE-OWNED ROLEX」(認定中古ロレックス)の証し。


正規品販売店のビジネスチャンスが拡大する

 現行の新品ロレックスを販売している正規品販売店にとっても、CPOロレックスは大きなビジネスチャンスだ。人気No.1ブランドのロレックスは商品需要が供給を常に上回っているため、正規品販売店は「売れる商品がない」という悩みを常に抱えてきた。CPOロレックスは、この問題の解決策のひとつになり得る。

 ただ、現行の新品ロレックスを1本販売した際のマージンがどのくらいなのか筆者は知らない。だが、時計業界の流通の常識から考えると、CPOロレックスのマージンは新品よりも少ないと思われる。

 だが、現行新品と変わらぬ正規保証が付いたCPOロレックスを独占的に販売できることで、海外の正規品販売店は現行の新品ロレックスに加えて、中古ロレックスの販売に関しても、信用と信頼という点で、一般の中古時計販売業者より圧倒的に有利な立場に立つことができる。

 また、CPOロレックスは正規品販売店にとって心理的な救済にもなる。新品の在庫がなく、購入を希望して来店した人にただ「お詫びする」しかない現状は、販売スタッフにとって大きなストレスである。

©Yasuhito Shibuya
ロレックスのブティックは現在、ほとんどが予約制になっている。これも異常人気のためだ。上の写真は国内最大級の「ジェイアール名古屋タカシマヤ ウオッチメゾン」1階のロレックスの店舗。

 また、“転売ヤー”が中古ロレックスの専門業者に現行品のロレックスを転売して「濡れ手に粟」の利益をつかんだり、中古ロレックスの専門店が現行モデルの新品を定価の何倍もの価格で販売して儲けたりする状況をただ見ているだけ。こんな悔しい状況からも脱却することができるだろう。


短期的にはCPOロレックス登場の影響はわずか!?

 とはいえ、ロレックスの中古市場への参入、CPOロレックスの販売開始が、いきなり中古ロレックスの市場を一変させるわけではない。

 海外の時計メディアの中には、「正規店が販売するCPOロレックスと、従来の中古時計販売業者が販売する中古ロレックスは果たして共存できるか?」という視点や、「将来は、ロレックスが中古ロレックス全体の流通を、新品同様にコントロールできる体制になる可能性がある」という視点で、このニュースを報じているところもある。そして海外の中古時計販売業者の中には、この事態を予想外で当惑していると認め、中古時計ビジネスの今後の展開、未来に大きな不安を感じているところも少なくない。

 とはいうものの、流通量と価格という点から4〜5年という短期期間では、これまで中古ロレックスを取り扱ってきた中古時計販売業者が大打撃を受けてビジネスができなくなる、そんな危機的な事態は起きないだろう。

 それにはふたつの理由がある。ひとつは流通量の圧倒的な違い。そしてもうひとつが、CPOロレックスの価格が非CPOロレックスより高くなることだ。

 中古時計市場に詳しい方には説明不要だろうが、中古時計市場で取引される時計の少なくとも半数、オンラインマーケットでは約7割から8割が中古ロレックスである。つまり現状、非CPOロレックスである中古ロレックスの流通量は圧倒的に多い。なぜなら、中古時計販売業者にとって中古ロレックスは最も数多く扱う、最もビジネスになる大切な商材だからだ。すなわち、膨大な市場在庫があるのだ。

 一方、CPOロレックスの数は、その認定条件が「ロレックスの正規アフターサービスに出して、ロレックスが2年間の国際保証を付ける」ということが絶対に必要なので簡単に増やすことはできない。

 しかも販売価格も、正規メンテナンスサービスによる整備費用が上乗せされるために、どうしてもその分、高めになる。海外のいくつかの時計専門ネットメディアの推定では、現在流通している非CPOロレックスである中古ロレックスの販売価格より25%ほど高額になるという。

 さらに、念のためにお伝えしておくが、正規のアフターサービスを経てCPOロレックスとして販売されるモデルは3年以上前に製造されたものである。だが比較的新しいものが中心になるはずだ。なぜならロレックスほど精度と品質の基準が高い時計ブランドはない。2年の正規国際保証が付けられるわけだから、現行品とほぼ同等の機能や品質を保証できる、つまりロレックスが正規の交換部品を供給できる年代(最大25年前)のモデルに限られると思われる。すなわち、時計コレクターが収集対象にする、いわゆるヴィンテージ、アンティークモデルがCPOロレックスになることはないだろう。現時点で、ブヘラがオンラインで販売中のモデルには、ヴィンテージやアンティークに該当するモデルは見当たらない。