日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は『クロノス日本版』およびwebChronos編集長の広田雅将が登場。新型脱進機によって時計業界を沸かせたロレックス「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 40」を「加えなきゃダメでしょう」としつつ、1位に選んだのはジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」だ。
1位:ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」
手巻き(Cal.834)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。3気圧防水。330万円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
お帰りJLCと言いたくなるプロダクト。ケースの裏側にワールドタイム機構を設け、しかも表側には薄いラージデイトを備えている。早送り機構があればベストだが、薄さを考えるとやむなしか。“デュオ”に同じく、ケース上面のスライダーを動かして進めるワールドタイムの感触は極めて優れている。加えて近年のジャガー・ルクルトらしく、外装も凝っている。裏の地球儀は、141個の穴にいちいちラッカーを充填するという手間をかけている。従来のクロノグラフに並ぶ、「レベルソ」の新しい傑作。正直これはほしいなあ。
2位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」

スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RB2)。年差±20秒。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37.0mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。2025年6月6日(金)よりグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
直径37mmの軽いブライトチタンケースに、年差±20秒という超高精度ムーブメントを組み合わせた、個人的にはGSスプリングドライブモデルの完成版。ブレスレットもわずかにテーパーが付いたほか(ケース側20mm、バックル側18mm)、バックルには待望の微調整機構が備わった。ブレスレットにテーパーを付けすぎるメーカーの多い中、あえて絞りを抑えて、ヘッドヘビーを強調しないグランドセイコーのアプローチには好感が持てる。ほぼ唯一の弱点は、既存の「白樺」とあまり見分けの付かないこと。文字盤の新しいバリエーションを切に期待したい。
3位:ルイ モネ「1816」

手巻き(Cal. LM1816)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Tiケース(直径40.6mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。3万9000スイスフラン。(問)ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080
意外な伏兵。ルイ・モネが1816年に製作した、世界初のクロノグラフのデザインを今に再現した腕時計クロノ。直径40.5mmのチタンケースは軽くて使いやすい上、文字盤やケースの仕上がりも良好だ。また、コンセプトの手掛ける手巻きムーブメントは、レマニア2310もかくや、という見栄えを持つ。もっとも、これほど優れた時計ならば、強いてブレスレットと一体型にする必要はなかったのでは? ちなみにプロトタイプのブレスレットは、ひとコマ目の曲がりに無理があった。ただし、製品版までには改善するとのこと。正しい評価は、製品版を待ってからにしたいが、現時点でも十分魅力的ではある。しかも、内容を考えると(絶対的には高価だが)、価格は戦略的だ。
4位:タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ」

ソーラークォーツ(cal.TH50-00)。フル充電時約10カ月稼働。SSケース(直径38mm、厚さ9.9mm)。100m防水。28万6000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030
上手いなあと感心させられたモデル。オリジナルモデルの造形を生かしつつ、光発電クォーツを搭載し、外装の質感を高めることで、時代に合ったアップデートに成功した。全長は短く、時計は軽くという仕立てのため、装着感も良好だ。また、昔懐かしい通称「カマボコブレス」も質感は悪くない。なお鳴り物入りで登場した光発電クォーツは、シチズン傘下にあるラ・ジュー・ペレとの共同開発。つまり、受光性能は悪くないはずだ。その証拠に、文字盤の発色は、光発電時計らしからぬほどはっきりしている。いわゆる高級時計に飽きた人には間違いなく刺さるはず。
5位:ロレックス「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 40」

自動巻き(Cal.7135)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約66時間。Ptケース(直径40mm)。100m防水。942万7000円(税込み)。(問)日本ロレックス Tel.0120-929-570
面白くないかもしれないけど、これは加えなきゃダメでしょう。新しいダイナパルスエスケープメントで、際だった高性能を実現した新作。3万6000振動/時に約66時間という長いパワーリザーブは、ロレックスらしからぬ程野心的だ。また、ナチュラル脱進機に付きものだった、初期起動性の悪さも完全に解消されている。個人的に評価したいのは、パッケージの上手さ。ケース厚を9.5mmに留めることで、最近のロレックスが好むテーパーを強調したブレスレットにもかかわらず、ヘッドヘビーな印象が全くない。これがロレックスの、来るべきパッケージとなることを期待したい。なお文字盤の意匠はうるさく見えるが、実物はそうでもなかった。もっとも、普通の筋目仕上げならば、なお良かっただろう。
総評:ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025のベスト5を選ぶ!
昨年以上に地味、という声もあった2025年のウォッチズ&ワンダーズ。しかしよく見ると、各社の新製品は着実に質が向上していた。具体的には文字盤である。もっとも、力のあるメーカーとそうでないところの差は出来つつあるように思う。単なる色違いの文字盤でも、一ひねり加えられるメーカーはやはり強い。
選者のプロフィール

広田雅将
1974年、大阪府生まれ。2ちゃんねるのコテハンとして活躍した後、脱サラして時計ジャーナリストに転身。いつの間にやら業界ご意見番に。多くの時計専門誌に寄稿する傍ら、『クロノス日本版』では創刊2号から主筆を務める。2016年より編集長に就任。