オメガのダイバーズウォッチの歴史。ブランド初のダイバーズと「シーマスター」コレクション

FEATUREWatchTime
2023.04.05

1932年の「マリーン」から始まる、オメガのダイバーズウォッチの歴史。これまで発表されてきたタイムピースは、堅牢な外装よりもエレガントな外観が印象的なものばかりだ。今回は、1932年から1971年までのマイルストーンを紹介しながら、その進化を辿る。

Originally published on watchtime.com
Text by Jens Koch
2023年4月5日掲載記事


1932年、オメガ初のダイバーズウォッチ「マリーン」が誕生

マリーン

1932年に作られたオメガ初のダイバーズウォッチ「マリーン」。二重構造のケースやサファイアクリスタル製風防、耐塩水性を保持するレザーストラップを備えた。

 オメガのダイバーズウォッチの歴史は、堅牢かつ優美な外装を備えたタイムピースから始まった。最初に発表されたのは、1932年に発表されたレクタンギュラーケースの「マリーン」だ。当時はアールデコの時代であり、長方形の時計が主流だった時代背景を考慮するとこの形状になんら不思議はない。

 マリーンは、誕生当時からケース構造に革新的なアプローチを試みている。二重構造のケースは、テンションレバーで内殻をレザーパッキンに押し付けることで適切な防水性を確保するものだ。風防は、当時はまだ珍しかった傷のつきにくいサファイアクリスタルである。ケース素材はステンレススティールに加え、ゴールドも用意されていた。レザーストラップは耐塩水性を備え、フォールディングクラスプでストラップの長さを調節することができた。

 1936年、オメガにより3本のマリーンがスイス・レマン湖の水深73mに沈められ、防水テストが行われた。さらに厳しい状態にするため、3本の時計は事前に85℃のお湯に4分浸されていた。その後、水温5度の湖に30分ほど浸された。

 この過酷なテストの後も、3本のマリーンはすべて完璧に動作し、内部に水滴の痕跡は見られなかった。翌年、ニューシャテルのスイス時計研究所(LSRH)は、1本のマリーンをテストしている。14時間ものあいだ、時計は水深135mと同じ環境下におかれたが、このテストの後も、時計内部に浸水は見られなかった。

 1900年代後半は、ダイビングの技術が大きく進化した時代だった。フランス海軍の将校であり、1926年に自給式水中呼吸装置を発明したイヴ・ル・プリウールは、後にマリーンを使用している。1936年に太平洋で水深14mに到達した水中探検家ウィリアム・ビービも、マリーンを着用した。

 マリーンは時代を先取りしたモデルだった。防水性が高いにもかかわらず、巻き上げのために外箱を外す必要があったため、一般ユーザーには受け入れられなかったのだ。2007年、オメガは135本という限定数でマリーンを復刻した。ホワイトゴールドのインナーケースは、レッドゴールドのアウターケースに収められた。オリジナルと同様、この復刻モデルのも手巻きムーブメントが搭載された。しかし、コーアクシャル脱進機を備えたCal.2007は、ケースを開けるとシースルーバックから鑑賞が可能であった。


1948年発表の「シーマスター」コレクションで商業的に成功

初代シーマスター

1948年に誕生した「シーマスター」。写真右が自動巻きムーブメントを搭載した3針モデル、左がスモールセコンド搭載のモデル。

 1948年、オメガは防水性能を備えた「シーマスター」を発表した。オメガは軍用時計で培った経験を生かして防水性を高め、シーマスターコレクションにはねじ込み式ケースバックや、最初は鉛製、次にゴム製となった革新的なOリングが備えられていた。

 その堅牢さに加え、初期のシーマスターは自動巻きムーブメントを搭載していたことも成功の要因だった。オメガは1943年に、初の自動巻きムーブメントCal.28.10を世に送り出していたのだ。

 巻き真が限られた範囲でしか動かないハンマーオートマチックを採用したことで、ムーブメントの厚さが4.8mmと薄くなり、フラットな時計に仕上げることができた。シーマスターの堅牢性と高い視認性は、オメガの評判に大きく貢献した。


1957年、オメガ初の本格ダイバーズウォッチ「シーマスター 300」を発表

シーマスター 300

20気圧防水を備えた、1957年製の「シーマスター 300」。

 オメガは1957年に、初の本格的なダイバーズウォッチとなる「シーマスター 300」を発表した。シーマスター 300は潜水時間を計る回転ベゼルを備えていたため、見た目においても現代的なオメガのダイバーズウォッチの時代の到来を告げるものとなった。

 プロフェッショナルなダイバーのために開発されたこの自動巻き時計は、モデル名とは異なる200mの防水性能を保持しており、圧力がかかるとさらに強くケースに密着する二重のリュウズパッキンと、テンションリングを装備した通常の3倍の厚みを持つ風防を備えていた。マットブラック文字盤のインデックスや秒針は、暗所でも見やすいものであった。ラチェット式の回転ベゼルにも、蓄光性のマーキングが施された。

 シーマスター 300は、潜水前に分針を合わせれば、現時点の潜水時間はいつでも回転ベゼルのミニッツスケールで確認ができる。興味深いことにダイビング用のカウントダウンスケールを備えたモデルも存在した。これは潜水前に予定潜水時間をセットする必要があり、水中では浮上まで何分が残されているかを確認することができた。

 この時計は、ドックの修理や水中パイプの敷設など、あらゆる負荷に問題なく耐え抜いた。水深45mで数日経過した後でも、シーマスターは何の問題もなく再スタートすることができた。海面で緊急着陸を余儀なくされたパイロットが、無事生還した後に漂流物からシーマスターを拾い上げ、オメガに感謝状を送った事例もある。

 1958年以来、シーマスターの裏蓋には防水性のシンボルとしてシーホース(ギリシア神話に登場する半馬半魚の生き物)が描かれている。現在でも有名なこのマークは、装飾家のジャン=ピエール・ボルレがヴェネツィアで見たネプチューンの像が、シーホースに引かれた戦車だったことから考えられたものだ。そのため、オメガのシーホースも手綱が付けられている。

シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ

2022年発表の「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」の裏蓋にあしらわれたシーホース。

 1960年、シーマスター 300の次世代モデルが市場に投入される。以前のモデルに続き、3時、6時、9時、12時のインデックスにはアラビア数字が採用されたが、菱形の先端の時針とバーシェイプの分針というように、針の形状が変更された。搭載されたCal.28 RA SC-501は、Cal.552の後継機である。また2年後には、長方形のインデックス、12時表記の代わりに大きなトライアングルというように、仕様が変更されている

 1964年には、より大きなアラビア数字インデックスと鮮明なトライアングルが導入された。この時計は、正式発表の1年前、海洋探検家ジャック=イヴ・クストーがスーダン沖の水深11mと水深25mへ潜水したときに用いられた。また、英国海軍のダイバーたちもこのモデルを着用した。1966年以降、シーマスターは軍用仕様のためねじ込み式リュウズが採用された。

 シーマスター 300は、今もオメガのコレクションに欠かせない存在だ。オメガの他の時計と同様、コーアクシャル脱進機を備えたムーブメントを搭載し、特殊素材による高い耐磁性を備えている。クロノメーター精度と耐磁性は、スイス連邦計量・認定局(METAS)の厳格な検査により、個々に確認されている。

シーマスター 300 ブロンズゴールド

現行モデルの「シーマスター 300 ブロンズゴールド」。自動巻き(Cal.8912)。38石。2万5200振動/時。ブロンズゴールドケース(直径41mm)。300m防水。177万1000円(税込み)。