パテック フィリップ「カラトラバ・トラベルタイム 5224」。これは24時間時計の完成形か?

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2023.04.10

パテック フィリップといえば、泣く子も黙るスイス時計業界の頂点だ。どのモデルも人気だが、それに甘んじることなく、プロダクトの完成度も一層高まった。2023年で注目すべきは、なんと24時間表示のカラトラバだ。文字盤が24時間表示になったことよりも、見るべきは凝った文字盤である。

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2023年4月10日掲載記事

カラトラバ トラベルタイム 5224R


24時間で時針が1周する24時間計の頂点!

 1日を12時間ではなく24時間で表示する24時間時計。当たり前のように見えて、極めて珍しいものだ。理由はいくつかある。ひとつは、24時間表示を行うには、腕時計の文字盤が小さすぎたこと。また、12時間を24時間表示に改めると、しばしば表示ずれが起こったのである。

 使える24時間時計としてお勧めできるのは、グライシンの「エアーマン」、モンブランの「1858 オートマティック 24H」(これは潔く分針をなくした)、それとブライトリングの「コスモノート」ぐらいではないか。そこに挑んだのがパテック フィリップだ。

 2023年の新作「カラトラバ・トラベルタイム 5224」は見たところ、どうってことのないタダの24時間時計である。短針が24時間を、長針が60分を、そして6時位置のスモールセコンドが60秒を示すだけ。加えて、ホームタイムを示すスケルトンの針が備わるのみ。しかし、あのパテック フィリップが作っただけあって、非常によく出来ているのだ。

カラトラバ トラベルタイム 5224R

Photograph by Ryotaro Horiuchi
パテック フィリップ「カラトラバ・トラベルタイム 5224」
自動巻き(Cal. 31-260 PS FUS 24H)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径42mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。771万1000円。

 トラベルタイム 5224の特徴は、2段引き3ポジションのリュウズにある。リュウズを引き上げない状態では巻き上げのみ。1段引くとローカルタイムを示す短針のみの調整が可能となり、さらに1段引くと加えてホームタイムを示すスケルトン針と分針も調整できる。

 またスケルトン針は、時針の下に隠すことも可能だ。普通、リュウズを2段引きにするとストロークが長くなり、感触が甘くなる。しかしパテック フィリップのそれは、ストロークが短い上に感触は良く、ガタも押さえられていた。

 聞けば、3つのポジションを持つリュウズによる時刻調整(スイス特許CH 716383 B1)を盛り込んだ、とのこと。詳細はクロノス日本版で書く予定だが、この仕組みのおかげでトラベルタイム 5224は、ケースサイドに追加ボタンなどを付ける必要がなくなった。

 この時計で驚かされたのは、リュウズを1段引いて回した際の感触の良さだ。リュウズを回すだけで短針を操作できる時計は他にもある。しかし、調整のピッチを12時間から24時間にすると、いきなり難しくなる。間隔が狭くなるので、適度な遊びを持たせつつ、厳密に針位置を決めるのが難しいのだ。

カラトラバ トラベルタイム 5224R 操作方法

リュウズのみで操作できる5224は、もっとも使いやすいデュアルタイムウォッチだろう。操作は図で示したとおりである。

 しかしパテック フィリップは、調整機構をLIGAで一体成形することにより、バネ性と高い精度を両立してみせた(リニア・タイムゾーン・スプリング ヨーロッパEP 3650953 B1)。24時間針を、単独で調整できるというのは当たり前に思えるが、かつて存在しなかったことを思えば、本作の非凡さは明らかだろう。

 また、短針の単独調整だけでなく、針合わせの感触も極めてスムーズだ。2段引きのリュウズに、複雑な時針の単独調整機能を加えたにもかかわらず、正逆方向ともに、リュウズは滑らかに動く(慣性デルタ ヨーロッパ特許EP 3822711 A1、出願中)。個人的な意見を言うと、現行パテック フィリップ最大の魅力は、見た目よりも設計よりも、感触だ。