【2025年新作ベスト5】「歴史の歯車が逆に動いた」ことに歓喜する鈴木裕之が選ぶ

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2025.05.03

日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は時計専門誌『Watch Global』編集長であり、『クロノス日本版』の初期から編集に携わってきた鈴木裕之が選出。長年スイスの見本市を現地取材してきた鈴木が「こんな流れをずっと待っていた」と歓喜する、今年の新作時計の傾向分析とともに紹介する。


1位:パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション 」Ref.5370R

パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション」Ref.5370R-001

パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション」Ref.5370R-001
自動巻き(Cal. CHR 29-535 PS)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ13.56mm)。3気圧防水。4571万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109

ブラウンとアイボリーの2トーンダイアルが印象的なスプリット秒針付きクロノグラフ。18KWG製のダイアルベースはすべて手彫りで、シャンルベだから磨きが入るのだけど、磨きすぎないその風情が素晴らしい。脱帽。


2位:アンジェラス「クロノグラフ テレメーター」

クロノグラフ テレメーター

アンジェラス「クロノグラフ テレメーター」Ref.0CHC.SG01A.V010S
手巻き(Cal.A5000)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径37mm、厚さ9.25mm)。30m防水。世界限定25本。352万円(税込み)。(問)アーノルド&サン相談室 Tel.0570-03-1764

旧THA設計のワンプッシュクロノグラフを搭載する「ラ ファブリック」の第3弾。前2作とは異なって、待ってましたの2カウンター仕様で登場。やっぱりTHAのワンプッシュはちょっと寄り目の表情がイイんだよ。


3位:A.ランゲ&ゾーネ「1815」

A.ランゲ&ゾーネ 2025年新作

A.ランゲ&ゾーネ「1815」Ref.220.028
手巻き(Cal.L152.1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。385万円(税込み)。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845

完全新設計の「1815」は、想像の上をいく直径34mm、ケース厚6.4mmで登場。ムーブメント厚はわずか2.9mmで、約72時間のパワーリザーブを確保している。時計自体も素晴らしいけど、今後の拡張性に期待が集まる。


4位:パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」

パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」Ref. PFH952-2010002-300181

パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」Ref. PFH952-2010002-300181
手巻き(Cal.PF733)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径40.6mm、厚さ10.9mm)。30m防水。世界限定50本。9万2000スイスフラン。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com

完全にプライベートラグジュアリーの世界観を確立させたパルミジャーニ・フルリエ。新しい永久カレンダーは、ダイアル表示の粗密のバランスが素晴らしい。微妙な中間色も相変わらず美しいが、そろそろ定番色が欲しい。


5位:カルティエ「タンク・ア・ギシェ」(オリジナル版)

カルティエ「タンク ア ギシェ」Ref.CRWGTA0234

© Cartier
カルティエ「タンク ア ギシェ」Ref.CRWGTA0234
手巻き(Cal.9755 MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYGケース(縦37.6×24.8mm、厚さ6mm)。非防水。759万円(税込み)。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00

歴代カルティエの中でも特に生産本数が少なかった“鉄仮面”(失礼!)がプリヴェの9作目。ギシェの配置に魔法をかけたPtケースの限定版も良いが、やはりオリジナルの小窓配置も捨てがたい。生産数はやはり少なめか。


総評:戻るはずのない歴史が動いた年

 ラージサイズウォッチの普及を受けて、2000〜2010年代にかけて次々と起こった基幹ムーブメントの大径薄型化。設計上の利点を多く備えるこの大流行のおかげで、機械式時計のパフォーマンスが一段高いところに昇華したことも事実だろう。しかし時計に限って言えば大は小を兼ねないわけで、もはや9リーニュの手巻きなんて、完全に過ぎ去った歴史の1ページだと思っていた。それがなんと、歴史の歯車が逆に動いたのだ。

 ラージサイズの揺り戻しもあってか、ここ数年は「40 or less」(直径40mmか、それ以下)のプロダクトも散見されたが、その流れが決定的になったのが今年。某ブランドの担当者が洩らした「ずっと40mmを切りたいってリクエストしてきたけど、今年やっとそれが叶った」という言葉は、業界全体の流れがそちらを向いていることの証左だろう。

 決定打となったのはA.ランゲ&ゾーネの「1815」(直径34mm)と、グランドセイコーの「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」(直径37mm)あたりか。まだ詳細は明かせないが、今年は直径36mmのニュープロダクトがまだ増えるとの裏情報もある。

 スポーツとドレスの境界が曖昧になりつつある近年の開発傾向の中で、現代スペックで磨き上げられた小径ムーブメントが増えてゆくのは、時計好きとしてはやっぱり嬉しい。もうスイス潰しとしか思えないトランプ関税の行方がどうなるのか見当もつかないけれど、今こそ逆風に耐えて、こんなニッチプロダクトにも、もっとリソースを割いていくべきなのだ。だって世界中の時計好きが、こんな流れをずっと待っていたのだから!



選者のプロフィール

イラスト:安堂ミキオ

鈴木裕之

1972年生まれ。バイク雑誌の編集を経て、時計のフリーライター兼エディターへ。時計専門誌『Watch Global』編集長。また、『クロノス日本版』には初期から編集に携わっている。共著に『ALL ABOUT RICHARD MILLE―リシャール・ミルが凄すぎる理由62』。普段愛用している腕時計はモリッツ・グロスマンの「ベヌー・ジャパンリミテッド」。


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