ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ ラグジュアリースポーツウォッチの新定義

2016.04.03

オーヴァーシーズ、新たなる意匠

 222を始祖とする、ラグジュアリースポーツウォッチのオリジンのひとつ。これが、多くの愛好家が認識するオーヴァーシーズのプロファイルだろう。しかしオーヴァーシーズにはもうひとつ、1996年の第1世代機から貫かれてきた、“エレガントなトラベルウォッチ”としての顔もある。より洗練の度を深めた第3世代機の登場で、再び注目をされる“旅”というキーコンセプトから、ニューコレクションの本質を探ってみたい。

  
Christian Selmoni
1959年生まれ。セールス・アドミニストレーション・マネージャーとして、90年にヴァシュロン・コンスタンタンに入社。2005年の250周年時には、記念モデルの商品デザインや開発を務めた。10年にアーティスティック・ディレクターに就任し、コレクション全般の長期的な定義付けや、今後の商品傾向などを分析する。
1st Generation [1996~]
1996年に発表された第1世代のオーヴァーシーズ。ソリッドバックに帆船のモチーフを刻み込み、旅=エレガントかつヘビーデューティなトラベルウォッチをキーコンセプトとして登場した。3重ガスケットを備えたリュウズ構造を持ち、150m防水を実現。ねじ込みを解除した状態でも60mの防水性能を確保していた。自動巻き(Cal.VC1310)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径37mm)。参考商品。

 ラグジュアリースポーツウォッチというジャンルは1970年代に黎明を迎え、90年代に大成した。その嚆矢となったのはオーデマ ピゲの「ロイヤルオーク」(72年初出)、そしてパテック フィリップの「ノーチラス」(同76年)であった。両者は共にジェラルド・ジェンタをデザイナーとして起用。いずれも当時としては、製造技術の粋を凝らしたスティールケースに、2針の超薄型自動巻きを搭載していた。

 ヴァシュロン・コンスタンタンは、創業222年を迎えた1977年に「222」を発表。デザイナーには当時新進気鋭のヨルグ・イゼックを擁し、超薄型の2ピースケースに、同じく2針の超薄型自動巻き、キャリバー1121(キャリバー1120のデイト表示付き)を搭載。ここに現代へと繋がるラグジュアリースポーツウォッチの〝オリジン〟が出揃うことになった。なお、これら3モデルに採用された2針ムーブメントはジャガー・ルクルトのキャリバー920をベースとする準同型機であり、これを搭載した一連の2ピースケースを、愛好家たちは通称〝ジャンボ〟と呼んだ。222のジャンボは77年に製造された37㎜ケース(SS/500本、SS×18KYG/120本、18KYG/100本)のみで、翌78年にはセカンドモデルに移行。直径34㎜の3針自動巻きと、直径25㎜の〝レディ〟(2針クォーツ)にラインナップが改められている。ロイヤル オークとノーチラスが早い段階でコレクションを確立して命脈を保ち続けたのに対し、本来アニバーサリーモデルを出自とする222の系譜は、ハードブレスレットを搭載した「フィディアス」などに受け継がれていった。

 ヴァシュロン・コンスタンタン流の〝スポーティエレガンス〟が、アイコニックなパーマネントコレクションとして整理されるのは、96年に発表された「オーヴァーシーズ」においてであった。デザインの源流としては222を強く意識させるものの、ケース構造が現代的な3ピースに改められたことで、ムーブメント脱着時に開閉するためのベゼルデザインは不要となった。初代オーヴァーシーズではここに、ブランドの象徴であるマルテーゼクロスを8葉にアレンジして搭載。これは2004年に発表された第2世代オーヴァーシーズにも受け継がれ、コレクションを象徴するディテールのひとつとなっていった。なおこの第2世代オーヴァーシーズから、ブレスレットにも〝ハーフマルテーゼクロス〟のモチーフが導入され、ブランドアイコンとしてのキャラクター性を一層際立たせている。オーヴァーシーズのデザインは、第2世代機で一旦完成に至ったと言えよう。

2nd Generation [2004~]
2004年の完全刷新を経て、第2世代へと進化したオーヴァーシーズ。ラグが分割式に変わり、ブレスレットには“ハーフマルテーゼクロス”のモチーフが加えられた。ヘビーデューティウォッチとしてのオーヴァーシーズは、この第2世代で一旦は完成に至ったと言える。写真は銀座ブティック限定で展開される「オーヴァーシーズ・デュアルタイム」。自動巻き(Cal.1222SC)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径42mm)。限定100本。242万5000円。