ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」にディープレッド文字盤が登場。老舗ブランドの新たな試みは“色”

2026.05.13

良質な外装と優れたムーブメント、そして高い汎用性をアイコニックなデザインに接ぎ木した「オーヴァーシーズ」。大ヒットは当然だろう。加えて、ヴァシュロン・コンスタンタンは、外装での新しい試みをこの傑作でも行うようになった。といっても、変わったのは形ではなく色だ。新作「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」のディープレッド文字盤は、決して他社には真似のできない仕上がりを誇る。

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」

奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]


個性と品格を両立させた
ジュネーブの老舗の非凡な審美眼

 時計で最も難しい表現のひとつは、文字盤の色ではないだろうか? ただ色を付けるだけなら、決して難しくはない。コストをかけて、凝った表現を選ぶのも同様だ。しかし、優れた表現を目指すならば、良いサプライヤーと十分なノウハウ、そして「目利き」の存在が欠かせない。現時点でそういった時計メーカーを探すなら、その最右翼は間違いなく、ヴァシュロン・コンスタンタンである。

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」

 そもそもこの老舗は、時計の外装でいち早く、新しい試みを続けてきた。アルミニウム製のケースを持つ懐中時計に、ダイヤモンドを全面にあしらった「カリスタ」、今のユニセックスウォッチの先駆けとも言える「フィディアス」などなど。他にもドレスウォッチなのにあえてマッシブなラグを強調した1990年代の「マルタ」や、ベゼルに強いインパクトを与えた「222」など、その試みは枚挙にいとまがない。しかもそのいずれもが、ジュネーブ最古のメゾンにふさわしい格調を備えていたのだから、ヴァシュロン・コンスタンタンは、デザインでも非凡と言うほかない。

 そんな同社の新たな試みが色である。長らく、造形に遊び心を加えてきた同社は、現行オーヴァーシーズを発表したあたりから、文字盤の新しい色表現にも取り組むようになった。最初はブルー、そしてグリーン、そしてピンクにゴールドなど。ここで紹介する「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」の文字盤には、なんとディープレッドが選ばれた。安価な価格帯ではしばしば見られる色だが、ヴァシュロン・コンスタンタンほどの老舗が、あえて採用するとは誰が想像しただろう? スタイル&ヘリテージ ディレクターのクリスチャン・セルモニは色を採用した理由を「ディープレッドは、その優雅で力強い色合いがこのビジョンに調和しています」と語ったが、これは決して簡単な試みではない。

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」
傑作「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」の構成はそのままに、ディープレッド文字盤にチタンケースを合わせた試み。発色の難しい色にもかかわらず、文字盤の質感は極めて良い。また強く施された外装の筋目仕上げも強い色の文字盤とうまくマッチしている。他社にはまねできない時計だ。自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径42.5mm、厚さ10.39mm)。5気圧防水。ブティック限定モデル。2618万円(税込み)。

 文字盤のディープレッドは、荒らした下地の上にクリアラッカーを吹いたもの。製法自体はオーソドックスだが、これほどの完成度を得るのは、他社では難しいのではないか。そもそも本作の文字盤に使われるような透明度の高いラッカーは、注意深く塗装をしても、色むらが起こりやすい。ディープレッドのような、濃い中間色ならなおさらだ。薄いラッカーを何度も重ねると、均一な発色と歪みのない面を得られるが、乾燥に時間がかかるため生産性は悪化する。今回、ヴァシュロン・コンスタンタンが、あえて難しい色に挑み、成功を収めたことは、写真の文字盤を見れば明らかだろう。筆者の知る限り、こういった仕上げを持てる時計は決して多くはない。理由は、良いサプライヤーと十分なノウハウ、そしてセルモニとそのチームのような目利きを擁するメゾンは、数えるほどしかないからだ。質を落とせば可能だろうが、個性と引き換えに品格は失われるだろう。

 面白いことに、ヴァシュロン・コンスタンタンは、このとびきりの文字盤をあえてチタンケースに合わせた。普通ならば、チタンケースは誰もが好むような、売れ線の色に添えるだろう。しかし外装で新しい試みを続けてきたこの老舗は、チタン素材をステンレススティールのように磨き上げ、それをディープレッドの文字盤に合わせたのである。さらに言うと、搭載するムーブメントはペリフェラルローターを持つトゥールビヨンである。今さら説明の必要もないが、搭載するキャリバー2160は、キャリッジの外周からトゥールビヨンの動力を取り、筒カナを小型化することで、トゥールビヨンの存在をぎりぎりまで強調した傑作だ。時計としては極めてオーセンティックだが、色と素材とムーブメント選びに遊び心を入れたところに、ヴァシュロン・コンスタンタンらしさが見て取れよう。

 もっともこの時計は、このメゾンの全モデルがそうであるように、独特の品格をたたえている。正直、他社ならば色物に終わったように思う。しかし強い個性を合わせてなお、まったくの破綻を見せない手腕は、老舗の審美眼があればこそ、である。



Contact info:ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」に、華やかなディープレッドダイアルモデルが登場

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