ドルチェ&ガッバーナ 〝手作り精神〟と高級時計作りが交わる

2023.12.07

イタリア・ミラノを拠点とするドルチェ&ガッバーナのウォッチメイキング。一見してブランドを認識できる荘厳にして圧倒的な個性を、イタリア伝統の金細工をはじめとする装飾技巧を駆使することで、外装のみならず、内蔵された複雑ムーブメントの隅々にまで刻み込む。その「ファット・ア・マーノ」の精神によってアートピースにまで昇華されたユニークピース「アルタ オロロジェリア」は、同メゾンの神髄と言える。

アルタ オロロジェリア アトランティコ

アルタ オロロジェリア アトランティコ
レオナルド・ダ・ヴィンチの直筆ノート『アトランティコ手稿』に描かれた膨大なメモとデッサンをモチーフとして、時を記録するクロノグラフに結実させたユニークピース。文字盤側にワンプッシュクロノグラフ機構を配したフライングトゥールビヨン。コラムホイールで制御されるクロノグラフの動力連結の水平クラッチの動きと、クロノグラフ駆動時の輪列をオープンワークした文字盤から鑑賞できる。手巻き(Cal.DG23.03)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。18KYG(直径46mm)。世界限定1本。6050万円(税込み)。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama,Courtesy of Dolce&Gabbana 
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


〝ファット・ア・マーノ〟への招待状

 ドルチェ&ガッバーナのウォッチメイキングのハイライトは、イタリア伝統の「ファット・ア・マーノ」=「手作り」を尽くした内外装の装飾とその独創的な意匠にあるが、決して忘れてはならないのは、その優美な外装に内包されたコンプリケーションの実力だ。ここで紹介する2モデルは、特に注目に値する。 ひとつは、ワンプッシュクロノグラフ機構を搭載したフライングトゥールビヨンである「アトランティコ」。もうひとつは、ミニッツリピーターを併載するフライングトゥールビヨン「モンレアーレ」だ。豪奢に装飾されたケースや文字盤に目を奪われるが、いずれも外装に比肩する独創性を備えた複雑機構である。

アトランティコ

 前者の「アトランティコ」は、2時位置に秒積算計、10時位置に30分積算計を備えるワンプッシュクロノグラフである。クロノグラフ機構の制御をコラムホイールで行い、動力の伝達もキャリングアームによる水平クラッチを採用している点は伝統的なクロノグラフのメカニズムに則っているが、通常は裏側に配されることが多いクロノグラフ機構を文字盤側に持ってきたうえに、文字盤を大きくオープンワークにすることで、コラムホイールをはじめ、クロノグラフ輪列をつぶさに見られるように配慮した点に独自性がある。

アルタ オロロジェリア アトランティコ

(左)クロノグラフ機構を文字盤側に配したため、トランスパレントバックからは、全体に手彫りの彫金が施された大きな地板を見ることができる。ケースは18Kイエローゴールド製で、ベゼルと裏蓋は18Kホワイトゴールド製。
(右)ミラノ北西部の小都市レニャーノに拠点を置くドルチェ&ガッバーナのハイジュエリー&ハイエンドウォッチの工房において、熟達した職人が実際に地板に彫金を施している様子。

 加えて、クロノグラフの動力を通常の(秒針が付く)4番車ではなく、6時位置のトゥールビヨンキャリッジから取っている点もユニークだ。4時位置に見られる中間車が動力伝達のクラッチになっており、コラムホイールから大きく伸びたアームがコラムホイールの回転によって水平方向に動くことで、中間車とトゥールビヨンキャリッジの歯車との連結・解除が行われ、クロノグラフのスタート→ストップ→リセットという一連の流れが繰り返される。その過程において、コラムホイールによるブレーキレバーやリセットハンマーの動きも文字盤側から見られるのは、機械式時計愛好家にとっては、この上ない愉悦だろう。

モンレアーレ

アルタ オロロジェリア モンレアーレ

アルタ オロロジェリア モンレアーレ
世界一のモザイク装飾面積を誇るシチリアのモンレアーレ大聖堂からインスピレーションを得た、壮麗にして精緻なモザイク文字盤と、ベゼルとケースに施された瀟洒な彫金が目を釘付けにするが、内包するムーブメントも特筆に値する。ケースサイド8時位置の、ダイヤモンドがセットされたレバーを引くことで時を音で知らせてくれるミニッツリピーターとフライングトゥールビヨンを併載した超複雑ムーブメントを搭載。手巻き(Cal.DG13.03)。29 石。2 万1600 振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KYG(直径46mm)。世界限定1本。9350万円(税込み)。

 後者の「モンレアーレ」は、シチリアのモンレアーレ大聖堂のモザイク装飾をモチーフにした荘厳かつ精緻なモザイク文字盤がひときわ目を引くが、アトランティコ同様に、6時位置にフライングトゥールビヨンを配するばかりか、時刻を音で知らせてくれる複雑機構であるミニッツリピーターも搭載した、視覚だけでなく、聴覚までも刺激するユニークピースである。

(左)モンレアーレ大聖堂の壮大なモザイク装飾をモチーフに、その荘厳さを腕時計の文字盤という限られたスペースに表現するため、象徴的なモザイクのデザインが作成され、それにしたがってマイクロモザイクをひとつひとつピンセットで文字盤に組み付けていく様子。その素材は、金箔、マザー・オブ・パール、ジャスパー、ガラスなど、多種多様。
(右)イエローゴールド製のベゼルに手作業で彫金を施す様子。

 装飾においても機構においても「ファット・ア・マーノ」精神が息づいたドルチェ&ガッバーナのハイウォッチメイキング。視覚、聴覚、そして触覚を駆使して堪能すべきアートピースである。

アルタ オロロジェリア モンレアーレ


Contact info: ドルチェ&ガッバーナ ジャパン Tel.03-6833-6099


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