オリエントスター「M34 F7 セミスケルトン」を着用レビュー。手の込んだオリジナルダイアルが所有欲をくすぐる

FEATUREインプレッション
2023.12.24

2023年、オリエントスターが新たに打ち出した「Mコレクションズ」のうち、「M34 F7 セミスケルトン」を着用レビューする。見るべきは審美性の高いダイアル、ストレスフリーな装着感である。

菅原茂:文
Text by Shigeru Sugawara
[2023年12月24日公開記事]

オリエントスター「M34 F7 セミスケルトン」

 試着したのは、今や海外でも評判の国産機械式時計、オリエントスターが2023年に発表した最新作「M34 F7 セミスケルトン」である。

インプレッション オリエントスター

腕に着け、いろいろな角度からダイアルの見栄えを確かめた。明るい自然光での印象はやっぱり青の洞窟だろうか、しかし夕暮れの残照ではオーロラのように見える瞬間がある。

 まずは新しいネーミングの印象について。ブランドに親しみのあるファンであっても、いきなりアタマに登場する「M34」って何? と戸惑うであろう。自分も実はそうだった。モデルの再編と体系化にともない最近誕生したこの「Mコレクションズ」、オリエントスターの冊子を見ると「M、それは星団・星雲を表す一文字。悠久の時を紡いできた星々のごとく、永きに渡って変わらない価値を届けたい」との説明がある。それにしても18世紀フランスの天文学者シャルル・メシエが作成した天体カタログにおける分類記号のイニシャル「M」を引き出すとは、「星」に関連付けるのがオリエントスターのお約束とはいえ、発想のスケールが桁外れに大きいのには驚くばかりだ。

 さてそのメシエ天文カタログのM34とは、宇宙におよそ千億個も存在するとされる星団の中でペルセウス座の散開星団を指し、地球から1430光年もの彼方にある。この時計がM34に分類されるのは、ギリシア神話の英雄ペルセウスのストーリーを時計のデザインに具象化する一種のアレゴリーのようなのだが、話が長くなりそうなのでひとまず割愛する。

 続くF7は、約50時間パワーリザーブを備える自社製の自動巻きムーブメント、Cal.F7F44のこと。そしてセミスケルトンは、とりわけセイコーエプソン時代になってから力を入れてきた、9時位置のオープンワークからテンプが見えるようにしたおなじみのデザインだ。ケースからラグにかけてシャープなラインが連続するスタイリングは、旧コンテンポラリーコレクションのモダンスケルトンやスリムスケルトンに通じる。ダイアルの表示要素と配置もそれらと同じながら、新しいモデルのディテールは似て非なるものがある。

M34 F7 セミスケルトン

オリエントスター「M34 F7 セミスケルトン」
自動巻き(Cal.F7F44)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40mm、厚さ13mm)。10気圧防水。14万3000円(税込み)。


ダイアルの第一印象は「青の洞窟」

 さて本題のインプレッションに移ろう。試着して最初にチェックしたのはダイアルだ。最大の特長はダイアルに他ならない。素材は白蝶貝で、グリーンのベースに縦にブルーのグラデーションを施したもの。イメージはこれまた宇宙の神秘的な現象のひとつ、オーロラだ。しかし、透明感のあるブルーグリーンの私的な第一印象は、失礼ながらオーロラというより「青の洞窟」なのだった。書斎の室内光でも屋外の自然光のもとでも輝き、光の当たり方で見え方がさまざまに変化するダイアルにオーロラを発見しようとしたが、しだいに美しければそれで充分じゃないか、海でも宇宙でも自由に想像して楽しめばいいという気分になった。そんなある日、夕暮れの散歩道でダイアルに目をやると、一瞬オーロラが現れたように思えた。隠れた神秘を発見したみたいで嬉しくなった。

 虹彩を放つマザー・オブ・パールとグラデーションのカラーリングによる絶妙なニュアンスは、プレーンな単色ダイアルではけっして味わうことができない。オリエントスターでは、同様の手法によるカラーダイアルをクラシカルな「M45」にも導入しているが、この「M34」のようにステンレススティールによるスポーティルックのブレスレットウォッチに組み合わせる例は、世界でも極めてレアではないだろうか。しかも10万円代半ばという、ふつうに考えればありえないコストパフォーマンス。手の込んだ審美性の高いオリジナルダイアルは、それだけでも価値ありのスペシャリティーだ。

オリエントスター M34 F7 セミスケルトン

グリーンのグラデーションが施された白蝶貝のダイアルは、オーロラが表現されている。なお、本作には色違いでブラウングラデーションカラーのモデルもラインナップされている。


ストレスフリーな装着感

 続いては装着感。直径40mmのケースに組み合わせたブレスレットにピッチが従来より細かなHコマを採用し、フィット感が向上したのは高評価ポイント。今回は、1日フルで着用したのが合わせて3日だが、装着感に関してはストレスフリーだった。またコマ側面の縁をエッジが立たないように丸めて仕上げ、滑らかな手触りを実現しているところもいい。細かいところまで配慮が行き届いていることがわかる。試しに自分が所有する旧規格のオリエントスターのブレスレットを比べてみたところ、その差は歴然、新型のほうが断然上だ。ただ欲を言えば、コマの連結ピンの穴は見えないほうが好ましい。穴の無い平滑なポリッシュ面を形成すればワンランク上の高級感が生まれるに違いない。期待を込めてそう要望したい。

Photograph by Eiichi Okuyama
Hコマのブレスレットはサテンとポリッシュで仕上げ分けされている。コマの連結はピン式。バックル部分で微調整が可能だ。


オリエントスターに垣間見る“諏訪のDNA”

 最後にひと言。オリエントスターをスターに再生したのは諏訪のセイコーエプソンだ。歴史をさかのぼればグランドセイコーをはじめ、クォーツ、スプリングドライブ、GPSウォッチの開発で時計技術をリードしてきた偉大な存在である。モノづくりに特別なこだわりも持つ現在のオリエントスターにそのDNAをチラリと垣間見る瞬間があるのは、筆者だけではないだろう。最近話題のシリコンガンギ車もそうだが、これからますます面白くなる予感がする。


Contact info:オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380


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