ついに登場! 35mmの小径自動巻きモデル、ティソ「PRX」を実機レビュー!

FEATUREインプレッション
2023.12.30

ティソ「PRX」を実機レビューする。対象のモデルは、直径35mmケースにホワイトマザー・オブ・パールダイアル、自動巻きムーブメントを採用した個体である。PRXに共通するシャープな外装や実用性の高いムーブメントを受け継ぎつつ、コンパクトで装着感にも優れたモデルであった。

ティソ PRX

野島翼:文・写真
Text and Photographs by Tsubasa Nojima
[2023年12月30日公開記事]


1年越しに発表された、35mmケースの自動巻きモデル

 今回は、ティソ「PRX」の自動巻きモデルをレビューする。対象は2023年の新作であり、直径35mmのケースとマザー・オブ・パールダイアルを組み合わせた1本だ。

 現行のPRXは、1978年に誕生した同名のモデルに着想を得たコレクションだ。ブレスレット一体型のケースとシンプルなデザインのダイアル、10気圧防水を備えていたオリジナルモデルの特徴を取り入れ、現代的にブラッシュアップしている。

ティソ PRX

待望の35mmケース自動巻き仕様の「PRX」。手首回り約16.5cmの筆者にもジャストフィットする。自動巻き(Cal.パワーマティック 80)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径35mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。11万3300円(税込み)。

 現行のPRXが登場したのは2021年。最初に40mmケースのクォーツモデルが発表され、その約半年後に同径の自動巻きモデルが追加された。翌22年に35mmケースのクォーツモデルと42mmケースの自動巻きクロノグラフモデルが発表された。この時点で、3針自動巻きモデルの選択肢は、40mmケースのみに限られていた。

 直径40mmという大きさは、数字だけを見れば一般的なメンズサイズである。しかし、これは手首回り約16.5cmの筆者の感想だが、実際に腕に載せると、その数字に反して若干大きく感じることが否めなかった。恐らくこれは、ケースの直径というよりも縦の長さを大きく感じたためであろう。ブレスレットのひとコマ目が固定されているため、その分縦に張り出して見えるのだ。筆者のような成人男性であっても、40mmケースを少し大きく感じる場合がある。よりコンパクトなサイズを待ち望んでいた方も少なくないはずだ。

 その願いが叶ったのが今秋。クォーツモデル登場から1年が経ち、ようやく35mmケースに自動巻きモデルが追加された。さらに今回、そのインプレッションをする機会に恵まれたのだから、こんなにうれしいことはない。


“ラグジュアリー”な仕上がりのケース

 ブレスレット一体型のケースにシンプルな3針ダイアルとくれば、本作はいわゆる広義でのラグジュアリースポーツウォッチ(“ラグスポ”)に属すると考えて良いだろう。ラグジュアリーというからには、外装はもちろんのこと、完璧に仕上げられた自社製ムーブメントを搭載し、それに伴って値が張るものであるべきという意見もあるだろうが、それはいったん脇に置いておく。重要なのは、本作にしっかりと“高級感”が宿っていることである。

 ケースのデザインは、全体に直線基調だ。ラウンド型のベゼルに合わせ、ケースサイドの膨らんだラインを持つが、ラグはケースバックに向かってスッと断ち切ったように落ちている。本作のような直線基調のケースには、自ずと多くのエッジが生まれる。これがいかに立っているかによって、見た目のシャープさが決まってくる。本作ではエッジにダレた印象はなく、しかしながら指でなぞっても痛みを感じない程度に、極わずかに角が落とされている。

ティソ PRX

ケースは全体的にサテン仕上げを基調としつつ、ベゼルやケースサイドのエッジにポリッシュを与え、立体感を作り出している。シャープなケースラインは、指でなぞっても痛くないよう処理されている。

 ケースはサテンとポリッシュに磨き分けられており、光の動きを巧みに捉え、立体感を出すことに成功している。全体はサテン仕上げを主体としているが、ベゼルやケースサイドの稜線にはポリッシュが与えられている。一般的な時計は、ダイアルから4本のラグが突き出た形状であるため、上面から見るとラグが目立つ。対してブレスレット一体型のケースでは、ラグの突き出しがないため、平面が目立つ。磨き分けは、この平面がもたらす“のっぺり感”を排除し、立体感を出すことに貢献している。

 磨き分けの効果は、ブレスレットにも見られる。こちらもほとんどがサテン仕上げであるが、コマとコマの隙間にポリッシュが施されており、同様に立体感が醸成されている。


ほんのり上品なマザー・オブ・パールダイアル

 ダイアルは、完全なホワイトではなく、赤や緑の光が入り混じっている。これは、マザー・オブ・パールを採用しているためだ。白蝶貝を薄く切り出し、ベースに貼り付けることでダイアルを作り上げている。天然素材ゆえに、色味や輝き方には個体差が生じる。つまり、同じ型番の時計であっても、1本1本に個性が宿り、その違いを楽しむことができるというわけだ。

 筆者はマザー・オブ・パールダイアルに対し、どうしても華やか過ぎる印象を持っており、これまで食わず嫌いをしてきた。だが、本作はそんな思い込みを払拭してくれるものであった。実物を見ると、想像していたよりも派手さを感じなかったためだ。恐らく、ダイアルそのものが小径であることに加え、格子状のパターンが光の反射を抑えているためだろう。

ティソ PRX

今回のレビュー対象は、ホワイトマザー・オブ・パールダイアルとステンレススティールブレスレットを採用している。マザー・オブ・パールは、光の当たり具合によって様々に表情を変える。

 ダイアルのレイアウトは至ってシンプルだ。インデックスはバータイプを採用し、12時位置のみダブルインデックスとなっている。時分秒針は、いずれもストレートに伸び、3時位置には、日付窓が配されている。インデックス、針、日付窓と、キズ見を使って子細に確認したが、バリやエッジの潰れが認められなかったことには驚いた。その中でも特に注目したいのは、時分針と日付窓だ。

 時分針はインデックスに対して若干幅広の形状を持つ。これは視認性を確保するためだろう。中央に段差を設け、そこにサテン仕上げ、その両サイドにポリッシュを与えることで、強い光源下ではサテン仕上げの部分が浮き上がり、逆に薄暗い場所では、ポリッシュがわずかな光を拾う。スーパールミノバが塗布されているため、暗闇でも針が存在を主張する。ただし、スーパールミノバはインデックスにも塗布されているが、面積が非常に狭いため、暗所で正確な時刻を知ろうとすると難儀する。また、分針の先端が尖っていないため、何分を指しているのかが瞬時に分かりにくい点も気になった。

 日付窓は、奥に向かって斜めのカットが与えられ、サンドブラストのようなざらついた処理が施されている。これによって、窓の輪郭をはっきりと捉えることが可能だ。デイトディスクはホワイトをベースにブラックの印字を組み合わせており、ダイアルとディスクとの距離も詰められているため、明瞭に視認することができる。


ロングセラームーブメントをベースとしたCal.パワーマティック 80を搭載

 裏蓋はシースルー仕様であるため、内部のムーブメントを確認することができる。本作が搭載するのは、同社ではおなじみのCal.パワーマティック 80である。その名の通り、約80時間のパワーリザーブを持つこのムーブメントは、ETAのCal.2824-2をベースとする。Cal.2824は、基本設計を1970年代にまでさかのぼる、オーソドックスな機械式自動巻きムーブメントだ。現在はスウォッチグループ外への供給が絞られているため、その役目はセリタCal.SW200をはじめとする代替機に任されているが、以前はブランドを問わず多くのモデルに搭載された業界標準機であった。

 Cal.パワーマティック 80は、そんな実績を持つCal.2824-2をベースに、耐磁性に優れたニヴァクロン製ヒゲゼンマイを搭載し、振動数を落とすことで、パワーリザーブを標準機の2倍以上にあたる、約80時間まで延伸している。特筆すべき仕上げを与えられていないため、目の肥えた愛好家を満足させる見た目ではない。しかし、その背景には約50年間をかけてブラッシュアップされてきた信頼性が宿っているのだ。

ティソ PRX

Cal.パワーマティック 80を搭載する。約80時間のパワーリザーブと、耐磁性に優れたニヴァクロン製ヒゲゼンマイを備える。ブレスレットの付け根にはレバーが配されており、これを操作することによって、ケースから簡単にブレスレットを取り外すことができる。


高級感と装着感を両立

 画像では地味な印象のPRXだが、実際に着用すると、その認識が全くの誤りであることに気付かされる。1連タイプのフラットなコマが連なるブレスレットは、手首の回転に合わせ、ひとコマひとコマに順々と光が当たって輝き、コマとコマの間のポリッシュ部が煌めく。チープな表現だが、分かりやすく“良い時計をしている”という気持ちにさせてくれる。

 高級感を醸し出すもうひとつのポイントが、程よい重量感だろう。あくまで個人的な意見だが、拍子抜けする軽さの時計には高級感を感じにくい。35mmというコンパクトなサイズでありながら、確かに手首に感じる手応えは、ずっしりという程ではないにしろ、心地よさを与えてくれる。ブレスレット一体型のケースがもたらす凝縮感によることもあるだろうが、ムーブメントとケースとの間に設置されるスペーサーが、プラスチックではなく金属製である点も要因のひとつだろう。

ティソ PRX

ケースの厚さは10.9mm。汎用ムーブメントを搭載した自動巻き3針モデルとしては、標準的か若干薄いくらいだろうか。程よい重量感がありつつも、長時間着用しても負担になることはない。

 装着感は良好だ。40mmケースで感じていた縦の長さは、35mmケースでは全く気にならず、手首に自然になじむ。男女とも違和感なく使用できるサイズ感なのではないだろうか。両開き式のバックルを採用しているため、手首への当たりも滑らかだ。バックル開閉時の操作もスムーズに行える。微調整機構は備わっていないが、ブレスレットが大小のコマで構成されているため、好みのサイズに調整しやすいだろう。

 クイックリリース機構が採用されているため、レバーを操作することで、簡単にブレスレットをケースから取り外すことができる。レバーがラグと裏蓋の隙間にあるため、爪を切りすぎるとレバーを引きにくくなってしまう点には注意したい。特殊形状のラグであるため、汎用品のベルトへの付け替えは望めないが、純正のレザーやラバーのストラップが豊富に用意されているため、買い揃えて付け替えを楽しむことが可能だ。

ティソ PRX

ブレスレットは、ひとコマが短くクネクネと良く曲がる。しなやかに手首に沿い、コマの内側はサテン仕上げで統一されているため、サラリとした装着感を持つ。

ティソ PRX

バックルはプッシュボタンで開くタイプの両開き式。プッシュボタンで開くときや、押し込んで閉じるときのどちらもスムーズに操作できる。

 リュウズの操作に関しては、特別なことは何もない。ねじ込み式ではないため、そのままのポジションで手巻き、1段引いて日付のクイックチェンジ、2段目で時刻調整ができる。リュウズを引き出す際に、爪をかける部分が少なく苦労したが、その他に気になることはなかった。強いて言えば、時刻調整時のトルクが少し重いことだろうか。リュウズ自体がそこまで大きくないため、しばらく回していると指が痛くなってしまう。


末永くラインナップし続けてほしい、高い完成度を誇る1本

 昨今、時計の価格は高騰していると言われているが、過去しばらく振り返ってとしても、本作のようなクォリティをこの価格で実現しているブランドは貴重だ。高級感のある外装はもちろん、10気圧防水を備えたケース、しなやかに動くブレスレット、シンプルなダイアル、実用性に優れたムーブメントなど、実用機械式時計に求められるおおよそを十分に満たしたモデルだ。最初の1本として間違いのないチョイスであるだけでなく、高級時計を何本か買い揃えた愛好家にとっての普段使いの1本としてもふさわしい。

 2021年の登場以来、着々とバリエーションを増やしていったPRXだが、この35mmケースの自動巻きモデルは、手首の細い男性や女性にとっては、ぴったりのはずだ。かつて40mmケースモデルを試着し、違和感を覚えて諦めてしまった人がいたならば、是非もう一度時計店に足を運び、リベンジして欲しい。


Contact info: ティソ Tel.03-6254-5321


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