“古典的サブ”の最終形? ロレックス サブマリーナー デイト 126610LVを着用レビュー!

2024.06.11

筆者はロレックスと縁がない。スポーツモデルはなおさらだ。一時期、「エクスプローラーI」の114270は好んで使ったが、いつでも手に入るだろうと思って手放した。ところがもう入手は不可能だ。最新版のスポロレをどうにか試せないかと思っていたところ、なんと現行サブマリーナーである「126610LV」を借りることに成功した。大きく重くなったが、さすがロレックス。そしてひょっとして本作は、古典の味わいを残す“最後のサブ”になるかもしれない。

ロレックス サブマリーナー 126610LV

広田雅将(クロノス日本版):文・写真
Text & Photographs by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[2024年6月11日公開記事]

 

ロレックス、いたちごっこの歴史

 歴代ロレックスの自動巻きは、巻き上げ効率を高めるために重いローターを載せてきた。そのため裏蓋の中心部が大きく盛り上がり、腕との接触面積は小さくなってしまう。つまりは、構造的に良い着け心地を得にくい。

 というわけで筆者は、一昔前の、いわゆる4桁から5桁あたりのロレックス「オイスター」を好んできた。現行品に比べるとケースもブレスレットもちゃちいが、ヘッド(時計部分)が軽く、テール(ブレスレット部分)も軽いため、相対的な着け心地は悪くないのである。この中で個人的な好みを挙げるならば、プラスティック風防を載せたモデルだ。「デイトジャスト」の1601や16013(これはオタク向けだ)あたりは、気負わず使えるロレックスのベスト、と今なお思っている。サファイアクリスタル製風防となった16233はいっそう良い時計だが、筆者からすると、若干ヘッドが重い。

 サファイアクリスタル製風防を採用して以降のロレックスはヘッドが重くなり、この重さに対応してブレスレットを頑強にし、それが落ち着いたと思ったらケースが大きくなり、対処すべくさらにブレスレットを剛直にする……といういたちごっこを続けてきた。ヘッドとテールのバランスを保とうとするロレックスの姿勢は見事だが、その結果、時計自体はえらく重くなってしまった。これはいわゆる“スポロレ”でいっそう顕著で、比類ないほどの出来映えを持つ反面、例えば「サブマリーナー」5513や「エクスプローラー」1016などが持っていた軽快さは損なわれた。完成度を取るか、取り回しの良さを取るかは、めいめいの好みだろう。

 

ロレックスが重くなる理由とは?

 ロレックスが「ヘッドとテールのバランス」でいたちごっこを続けてきた最大の理由は、ユニークなケースにある。普通、オイスターケースというと、私たちはねじ込み式のリュウズと裏蓋をイメージする。しかし、オイスターがオイスターたるゆえんはそれに限らないのである。

 一般的な時計は、ムーブメントを中枠(ムーブメントホルダー)でくるみ、それをケースに機留めしている。対して、少なくとも1950年代以降のロレックス オイスターは、そのほとんどが、ムーブメントを直接ケースに固定するという構造を持っている。中枠がなければケースは頑強になり、高い水圧でも歪みにくくなるが、ケースを分厚く抜くには、プレスのノウハウが必要だった。他の時計メーカーがオイスターそのものを模倣できなかった理由である。もっとも、プレスではなく切削技術の普及により、各メーカーはロレックスに倣って、ムーブメントをケースに直付けするようになった。ブルガリの「オクトフィニッシモ」やグランドセイコーの通称“ハイビート手巻き”が好例だろう。ケース構造ひとつ取っても、ロレックスは他社に先駆けていたわけだ。

 もっとも、ムーブメントをケースに直付けする設計には弱点もある。現在、多くのメーカーがこの構造を選べるようになった理由は、ムーブメントの直径が大きいため。対してケースに比してムーブメントが小さいと、時計のヘッド部分が重くなってしまうのである。サイズを大きくした近年のロレックス オイスターが、サイズ以上の重みを感じさせる理由だ。

 

新型サブとは、古典的なアプローチの集大成である

ロレックス「オイスター パーペチュアル サブマリーナー デイト」Ref.126610LV
自動巻き(Cal.3235)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm)。300m防水。

 ロレックスのサブマリーナーは、長らく直径40mmというケースサイズを維持してきた。対して2020年発表の126610LVは、ケースサイズが1mm大きい41mmとなった。もっとも、ロレックスはそのサイズを感じさせないよう、わずかにラグを絞ってみせた。重量にせよ、見た目にせよ、微妙なバランス取りを入れるのはロレックスらしい。

 搭載するムーブメントは、最新版のCal.3235。Cal.3000系を改造したCal.3100系のさらなる魔改造版であり、ひとつの集大成だろう。もっとも、直径約28mmというムーブメントサイズは従来に同じで、つまりはケースに比して、ムーブメントはいっそう小さくなった。もちろんロレックスはヘッドの重さを気にしたに違いない。

 理論上は、ブレスレットが太くなれば、時計の重さを散らすことができる。というわけで、新しいサブマリーナーは、ブレスレットの幅を1mmm広げて腕との接触面積を拡大してみせた。合わせて、ブレスレットのコマもわずかに大きくされている。装着感を良くするにはコマを小さくするのが定石だが、ロレックスは全体の重量バランスを考えたのだろう。事実、コマは大きくなったものの、微調整が可能なバックルのおかげで、装着感は悪くない。

ロレックス サブマリーナー 126610LV

ケース、ブレスレットともにオイスタースチール製。上面にはヘアライン仕上げ、サイドにはポリッシュ仕上げが与えられている。
ロレックス サブマリーナー 126610LV
ロレックス サブマリーナー 126610LV
バックルは微調整機構である「ロレックスグライドロック エクステンション システム」が搭載されている。コマを外したり、工具を使ったりせずとも、バックル部分で約2mm単位、最大約20mmまでの調整が可能だ。

 大きなヘッドとバックルを持つ本作は、決して軽い時計ではない。しかしロレックスは、頑強さが求められるスポーツウォッチなればこそ、ヘッドとテールを重くするという従来のパッケージをあえて採用したのだろう。筆者からすると、ラグ側21mm、バックル側16mm(実測値)のブレスレット幅は、スポーツウォッチ用としてはテーパーが強すぎる(これは一部のオメガにも言えることだ)。しかし、微調整機構付きの重いバックルを合わせることを考えれば、これぐらい絞った方が重量バランスを取りやすいのだろう。ブレスレットをストレートに改めたら装着感はさらに改善されるはずだが、バックルは信じられないほど重くなるに違いない。

 筆者が思うに、このパッケージとは、オイスターケースという大きな制約の中で、重さと装着感の狭間で試行錯誤を続けてきた、ロレックスの集大成ではないだろうか。ちなみに現在はケースとムーブメントの間に、軽いセラミックス製のミドルケースを挟んだ「ディープシー」のようなモデルもある。しかし、これは耐圧性を高めるための試みであって、普通のオイスターに転用されるとは考えにくい。

ロレックス サブマリーナー 126610LV

リュウズのブランドロゴの下に配された3つのドットは、トリプロックを示す。三重の密閉システムを備えた、堅牢なケース構造だ。

 

広田が予測する、ロレックスムーブメントの“これから”

 筆者の憶測を許されたい。ロレックスは傑作ムーブメントCal.3000系を魔改造し、果たしてCal.3200系を完成させた。ただし、ケースが拡大傾向にあることを考えれば、28mmというムーブメントサイズは小さすぎる。となれば、将来出るであろうロレックスの新世代機は、直径30mm以上で、今より薄いムーブメントになるのではないか。仮にそういうムーブメントを載せられれば、とりわけサブマリーナーのようなスポーツモデルは、ヘッドの重量を大きく減らせるに違いない。つまり、バランスはそのままに、より装着感の良い時計になるのではないか。

Photograph by Yu Mitamura
2015年にリリースされた、Cal.3235。Cal.3100系の後継期ではあるものの、約90%が新規に製造されたパーツであり、さらに特許も新規に14件が取得された。

 このサブマリーナーが搭載するCal.3255は、おそらくは、古典的なロレックスの設計を受け継ぐ最後のムーブメントになるだろう。ベースとなったのは名機の誉れ高い31系。しかし大改造を経て、全く別物になった。そのポイントは多岐にわたる。脱進機に軽いクロナジーを採用するなどでパワーリザーブを約70時間に延長。リバーサー式の自動巻きを肉抜きして慣性を下げ、加えてローターをベアリング保持(やっとロレックスもベアリングを使うようになった!)に改めることで、巻き上げ効率をさらに改善した。性能は掛け値なしに現行品でも第一級だが、基本設計の古さを考えれば、これ以上の拡張、そして進化は難しいのではないか。

 

結論:ケース構造もムーブメントも古典的な、ロレックスの最終形

 オイスターというケースを使って、非凡な防水時計「サブマリーナー」を完成させたロレックス。ケースサイズを拡大し、しかし重さのバランスを微妙に取った本作とは、従来の手法を継承する、最後のサブマリーナーになるのではないか。搭載する古典的なムーブメントの32系も同様である。正直、このモデルは決して軽くはない。しかし、重量バランスの良い時計がそうであるように、筆者は3日着けたら慣れてしまった。煽るつもりは全くない。しかし、古典的なロレックスの良さをギリギリ留めた本作は、時計好きならば、間違いなく手に入れるべき時計のひとつだろう。もしあなたが、この重さを許容できるならば、だが。


取材協力: クロノドクター
https://www.chronodoctor.com/


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