ユリス・ナルダンが2023年より展開する「OPS」コレクション。「フリーク」に続き、今年は「ダイバー」の新作2種がラインナップに加わった。各モデルに与えられたミリタリーグリーンと先端素材を用いた外装から、OPSコレクションに託された“任務”を探る。
Photographs by Eiichi Okuyama, Text by Tsubasa Nojima
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
ミリタリーグリーンがそろい踏み。「OPS」コレクション
ブラックDLC加工を施したチタン製ケースと、カーボニウム製のベゼルを組み合わせた外装が、ツール感を醸し出す。リュウズは存在せず、中央にはフライング カルーセルムーブメントが鎮座する。自動巻き(Cal.UN-240)。15石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.37mm)。30m防水。1054万9000円(税込み)。
(右)フリーク X OPS
ケースサイドのマーブル模様の外装パーツ
は、ブラックのカーボンファイバーとグリーンのエポキシ樹脂を組み合わせたオリジナルの合成素材、マグマ製。ファブリックストラップがスポーティーな雰囲気を演出する。自動巻き(Cal.UN-230)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径43mm、厚さ13.38mm)。50m防水。553万3000円(税込み)。
2023年、ユリス・ナルダンは「OPS」コレクションと銘打ったふたつの「フリーク」を発表した。OPSが意味するのは、“Operation(任務)”。その特殊性を示すように、これらのモデルにはミリタリー調のグリーンとブラックを組み合わせたカラーリングと、カーボン複合材を用いた外装が与えられていた。今年、同社はOPSコレクションを拡充させ、新たに2種の「ダイバー」をラインナップに加えた。フリークとダイバーをベースとし、それぞれに個性を宿すOPSコレクション。同ブランドは、そこにどんな任務を託したのだろうか?
ユリス・ナルダンの独自性を最もよく体現するコレクションが、フリークだろう。中央に配置された構造物はムーブメントであり、それ自体が回転するセンターカルーセル機構を特徴とする。01年に登場した初代フリークは、ダイアルと針、リュウズを持たないことに加え、シリコンパーツを採用した初の機械式腕時計として、時計史におけるひとつのマイルストーンに位置付けられている。
「フリーク X OPS」は、従前のフリークにはなかったリュウズを備え、直径43mmへとサイズダウンしたケースを採用する「フリーク X」をベースとしたモデルだ。ケースサイドに取り付けられた外装パーツは、ブラックのカーボンファイバーにグリーンのエポキシ樹脂を混ぜ合わせることで製作されたものである。軽量なうえに、個体ごとに異なるマーブル模様が、唯一無二の魅力を放つ。
シンプル化されたフリーク Xと対極に位置するのが、フリークの革新的技術をふんだんに盛り込んだ腕時計である「フリーク ワン」だ。独自のグラインダー自動巻き機構やダイヤモンシルを用いた脱進機を搭載し、23年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)にてアイコニックウォッチ賞を受賞したことも、まだまだ記憶に新しい。
ミドルケースには95%リサイクルステンレススティール、ケースサイドとケースバックには、漁網をアップサイクルしたナイロとカーボニウムなど、環境負荷への配慮を体現した。ラバーストラップモデル。自動巻き(Cal.UN-118)。50石。パワーリザーブ約60時間。2万8800振動/時。SSケース(直径44mm、厚さ15mm)。300m防水。209万円(税込み)。
(右)ダイバー X スケルトン OPS
ダイバーズウォッチでありながらも、大胆なX型のスケルトンダイアルを採用した意欲作。ベゼルと12時位置の香箱カバーには、航空機の翼や胴体にも使用される軽量かつ高強度な素材、カーボニウムを使用している。自動巻き(Cal.UN-372)。23石。パワーリザーブ約72時間。2万1600振動/時。Tiケース(直径44mm、厚さ15.70mm)。200m防水。434万5000円(税込み)。
OPSコレクションには、これをベースとした「フリーク ワン OPS」もラインナップする。6時位置のロックを解除後、回転させることで時刻調整が可能なベゼルには、強度と軽量さを両立させるカーボニウムを採用。航空機を製造する過程で生じる端材を用いたカーボニウムは、機能性に優れるだけではなく環境負荷の低減にも寄与する現代的な素材だ。
同社のサステナビリティへの姿勢をさらに強く感じさせるのが、「ダイバー ネット OPS」だ。本作は、20年に発表されたコンセプトウォッチ、「ダイバー ネット」の系譜に連なるモデルであり、ストラップにはアップサイクルした漁網、ケースには95%リサイクルステンレススティール、ケースサイドにはポリアミドであるナイロとカーボニウムを採用している。
「ダイバー X スケルトン OPS」も、同様に環境負荷に配慮した素材を多用する。基本的な素材構成はダイバー ネット OPSに同じだが、大胆なX型のスケルトンダイアルは、プロフェッショナルツールたるダイバーズウォッチを、オートオルロジュリーに昇華させている。
ユリス・ナルダンを象徴するフリークと、ダイバーズウォッチをベースとしたOPSコレクション。ユニークな構造もさることながら、カーボン複合材を用いた革新性やリサイクル素材を多用したサステナビリティへの姿勢など、同社の大切にする価値観が凝縮されている。OPSの持つ任務とは、時計製造の歴史と豊かな自然環境の両方に対し、明るい未来を切り開く鍵となることなのかもしれない。