H. モーザー「パイオニア・センターセコンド・オートマティック」/ Overview H.Moser & Cie. シャフハウゼンが育んだ進取の気概【第3回】

2017.07.04
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki

2015年に登場した“第3のコレクション”は、モダナイズされたスポーティケースを纏って登場した。各部のマテリアル(このモデルではDLC加工されたチタンと18KRG)を替えて組み合わせる“マルチプル構造”のほか、ドーム状のサファイアクリスタル風防を持っていた。

第3回 ニューモデルが象徴する現代の開拓者精神
[パイオニア・センターセコンド・オートマティック]

 スイス北東部の小都市シャフハウゼンに生まれ、時計師としての成功を得た後には、生まれ故郷の工業化と地域振興に尽力したハインリッヒ・モーザー。そのポートフォリオについては、この連載でも繰り返し述べてきたが、ひとつ付け加えるならば、企業家としての彼は“開拓者精神”にあふれた人物であった。連載第1回目でも述べた、ライン川の豊富な水力を利用した動力プラントなどは、その象徴的な事例のひとつであろう。

 現代のH.モーザーにおいて、創業者の開拓者精神を受け継ぐコレクションが「パイオニア」である。2013年にメイラン・ファミリー率いるMELBホールディングスに参画して以降、基幹ラインナップの再編に着手した同社。「エンデバー」「ベンチャー」に次ぐ第3のコレクションとして、2015年に初登場したのが「パイオニア」であった。本来は2016年に投入予定だった新作を1年繰り上げて市場投入した背景には、波に乗るH.モーザーの勢いが感じられたものだ。

「パイオニア」を象徴するのはモダナイズされたケースデザインである。DLC加工されたチタン製のミドルケースに、18KRG製のサイドピースとベゼルを組み合わせる“マルチプル構造”は、H.モーザーのラインナップの中では特にスポーティな装いを持っていた。ラグの中心線で組み合わさるサイドピースは、ラ・ショー・ド・フォンのケースサプライヤー「ギヨー・ギュンター」の高い切削技術があればこそ。同様に、ケースサイドに設けられた窪みに嵌め込まれるインサートプレートのチリ合わせも完璧だ。

ラ・ショー・ド・フォンのケースサプライヤー「ギヨー・ギュンター」が手掛ける“マルチプル構造”のケース。Ti製のミドルケース、18KRG製のサイドピースとベゼル、そしてケースサイドにインサートされる合計4枚プレートで構成されている。各部のチリ合わせは完璧だ。

「パイオニア・センターセコンド・オートマティック」。自動巻き(Cal.HMC 200)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti×18KRG(直径42.8mm、厚さ15.0mm)。スレートグレーフュメダイアル。235万円。