ゼニスが得意とするクロノグラフ搭載モデルに注目して、40代男性にお勧めするモデルを紹介しよう。ゼニスは、伝説的なムーブメントのひとつであるエル・プリメロの開発を通じて、自動巻きクロノグラフの実用化に大きく貢献した歴史を持つ。その歴史的背景の下、現在でもハイスペックなクロノグラフムーブメントをラインナップしているのだ。

Text by Shin-ichi Sato
[2025年5月22日公開記事]
ゼニスのクロノグラフ搭載モデルに注目
今回のテーマは、40代男性に向けたゼニスのクロノグラフ搭載モデルの紹介である。最初に、ゼニスの誇る自動巻きクロノグラフムーブメントであり、アイコンとも言えるエル・プリメロについて振り返ろう。
エル・プリメロとは、1969年に発表されたCal.3019PHCに付けられた正式な愛称である。スペイン語で「No.1」を意味しており、世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントであることを強調するものだ。実際には、Cal.6139(セイコー)やCal.11(ホイヤー・レオニダスをはじめとした4社共同開発)が発表されており「どれが世界初か?」という点には議論の余地があるのだが、時計技術の向上に大きく貢献した自動巻きクロノグラフの祖のひとつであることは間違いない。
今回は、エル・プリメロの系譜を引く最新ムーブメントについて取り上げつつ、魅力的なモデルに注目して紹介してゆこう。
「クロノマスター スポーツ ブルー」Ref.03.3114.3600/51.M3100

自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。148万5000円(税込み)。
Cal.3019PHCを受け継ぐエル・プリメロの特徴は、毎秒10振動であること、そしてクロノグラフの制御を水平クラッチによって行っていたことだ。ケースバック側の輪列が、水平クラッチの動きと合わせて作動を鑑賞しやすいという美点もある。
現在のゼニスの主軸となる自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.エル・プリメロ3600は、毎秒10振動(3万6000振動/時)をはじめとした特徴を引き継ぎつつ、新たな魅力が加えられていることが注目点だ。トピックスは、センタークロノグラフ秒針が10秒に1回転することである。一般的なクロノグラフムーブメントでは、60秒で1回転となるため、10分の1秒を読み取る難易度が高いが、本作ではそれが容易となっている。また、シリコン製のガンギ車とアンクルの採用によって耐磁性を高めるとともに、作動効率を上げてパワーリザーブを約60時間に延長している。こういった点から、伝統を引き継ぎ、機能の追加で魅力を高め、基本性能を高めたムーブメントと評することができるだろう。
このCal.エル・プリメロ3600を搭載するのが、「クロノマスター スポーツ」であり、10分の1秒を測り取ることができる機能にフォーカスしたモデルとなっている。その中で、今般紹介する「クロノマスター スポーツ ブルー」は、モダンなスタイリングを持つモデルで、3つのインダイアルはブルー、ライトグレー、ダークグレーに塗り分けられており、これはエル・プリメロのファーストモデル「A386」を引き継いだものとなる。クロノグラフ秒針の特徴的な作動を反映して、3時位置には60秒積算計が配され、6時位置に60分積算計、9時位置にスモールセコンドが配される。ステンレススティール製のベゼルインサートはスポーティーな印象を生み出すのと同時に、10分の1秒のスケールによって測時をサポートしている。
「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」Ref.03.3400.3610/39.M3200

自動巻き(Cal.エル・プリメロ3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース( 直径38mm)。5気圧防水。191万4000円(税込み)。
次に紹介する「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」は、ここまでに紹介したゼニス、およびオリジナルのエル・プリメロ(Cal.3019PHC)の歴史に深く結びついたモデルだ。先に踏まえておくべきは、Cal.3019PHCは、その開発段階からトリプルカレンダーとムーンフェイズの組み込みを想定したムーブメントであったという点である。後の拡張性を想定して設計される例は少なくないが、技術が確立されておらず、各機構のためのスペース確保が命題となっていた登場初期の自動巻きクロノグラフムーブメント開発の中で、機能拡張を想定していたことは注目に値する。
その上で、クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーは、Cal.3019PHCを搭載した初期モデル「A386」の意匠を復刻し、エル・プリメロの最新バージョンであるCal.エル・プリメロ3600にトリプルカレンダーとムーンフェイズを追加したCal.エル・プリメロ3610を搭載しているという点が、これまでの歴史と深く結びついているということが分かっていただけるだろう。
本作の文字盤はスレートグレーで、シルエットのスポーティーさにシックなテイストを加えている。このトリプルカレンダーは、2時位置に月表示、4時半位置に日付表示、10時位置に曜日表示で構成される。Cal.エル・プリメロ3610独自の配置として、3時位置は60秒積算計、6時位置には60分積算計とムーンフェイズ表示が同軸で配され、9時位置がスモールセコンドとなっており、文字盤外周部には10分の1秒の測定をサポートするスケールが刻まれている。
「デファイ エクストリーム」Ref.97.9100.9004/02.I001

自動巻き(Cal.エル・プリメロ9004)。53石。時刻表示:3万6000振動/時。クロノグラフ機能:36万振動/時。パワーリザーブ約50時間(時刻用)。Tiケース(直径45mm、厚さ15.4mm)。20気圧防水。254万1000円(税込み)。
クロノマスター スポーツはモダンでスポーティーなモデルであったのに対して、ゼニスのコレクションの中で最も前衛的でスタイリッシュなスポーツモデルは「デファイ エクストリーム」であろう。本作は、文字通り“エクストリーム”な機能を有している。
本作は、クロノグラフ機能によって驚きの100分の1秒単位での計測を可能とするモデルだ。2時位置のプッシャーを押すことでセンターのクロノグラフ秒針が勢い良く動き出し、1秒で1回転し、1周を100分割したスケールによって100分の1秒を測り取る。
ここで疑問が生じる。1秒を100分割できるということは、内部の機械はそれと同等の周期で作動していなければならないが、どのように実現しているのか?
答えは、3万6000振動/時で作動する時刻を表示するための輪列と、クロノグラフ機能のために36万振動/時という超ハイビートで作動する輪列を独立して設けているのだ。共用しているのは巻き上げ機構と地板程度であり、テンプも香箱もそれぞれに設けられていることから、完全に独立していると言ってよいだろう。なお、時刻用の主ゼンマイは自動巻きローターで巻き上げ可能であるが、クロノグラフは手巻きのみとなる。
このあまりにも特徴的なムーブメントは、デファイコレクションのアイコンとなる12角ベゼルに呼応するようなエッジの効いたシェイプのチタン製ケースに収められる。文字盤はサファイアクリスタル製であり、ムーブメントの機構を鑑賞可能としていることもポイントだ。
「デファイ スカイライン クロノグラフ」Ref.03.9500.3600/21.I001

自動巻き(Cal.エル・プリメロ3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm)。10気圧防水。183万7000円(税込み)。
先に紹介したデファイ エクストリームは、さすがにエクストリームすぎるモデルであった。では、現在のデファイコレクションで中核を成すモデルというと「デファイ スカイライン」がこれにあたり、クロノグラフモデルもラインナップされている。
現在の「デファイ スカイライン」コレクションのデザインは、1969年の「デファイ Ref. A3642」の8角形のフォルムから着想を得て、現代的に再解釈したものだ。その特徴は、建築的な立体感のあるケースと、12角のベゼルを組み合わせたシルエットとなり、エッジの効いたディティールとマッチするブレスレットが用意される点にも注目である。
「デファイ スカイライン クロノグラフ」の文字盤デザインも12角形と直線を基調としており、バー型の時分針とバーインデックスが時刻表示を担う。それとは対照的に、円形で構成された3時位置の60秒積算計、6時位置の60分積算計、9時位置のスモールセコンドが配されており、コントラストを成している。
また、文字盤には1960年代のゼニスの「ダブルZ」ロゴから着想を得た星形のパターンが等間隔に配されており、文字盤に表情を加えつつ光の反射を抑えて視認性を確保している。
「パイロット ビッグデイト フライバック」Ref.03.4000.3652/21.I001

自動巻き(Cal.エル・プリメロ3652)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42.5mm)。10気圧防水。161万7000円(税込み)。
最後に、ゼニスを語る上で忘れてはならないのが「パイロット」コレクションである。ゼニスは航空機産業での時計の活用が広まることをいち早く察知し、1888年にフランス語でパイロットを意味する「Pilote」、1904年に英語の「Pilot」の商標を出願した歴史を持ち、長きにわたってパイロットモデルがラインナップしてきた。
2023年に刷新された現在のパイロットコレクションは、ラウンドケースになだらかな直線を描くラグによってクラシックとモダンが調和したケースシェイプに、過去の航空機の外装に使われたメタルシートを思わせる水平方向の凹凸が文字盤に与えられている点がデザインコードとなっている。
今回取り上げる「パイロット ビッグデイト フライバック」は、パイロット用クロノグラフでは重要なフライバック機能を搭載しているモデルだ。フライバック機能とは、クロノグラフによる計測中にプッシャー操作をすることで瞬時に帰零し、時間の再計測が始まる機能である。
これによるメリットについて説明しよう。その代表例は、高速で飛行する航空機でA地点をスタートし、B地点を経由、C地点へ到達する時の各地点間の所要時間を計測するシーンだ。A地点で計測を開始し、通常のクロノグラフであればB地点で計測停止した後にリセットして再スタートする必要がある。しかしこれでは、再スタートまでにタイムロスが生じ、高速で飛行する航空機では誤差が大きくなりすぎてしまう。そこで、リセットと再スタートを同時に行うフライバック機能が必要となるのだ。
フライバック機能は「誤差なく」計測するための機能と言うことができる。そして本作にはこの他にも、「誤差なく」 日付を表示するビッグデイトを備える。本作のビッグデイトの特徴は、動き始めから0.03秒以内に表示が安定する機構によって、日付の切り替わり前後での読み間違いの可能性を極限まで抑えているのだ。また、その名の通り6時位置に2枚のディスクで大きく表示されている点も、視認性にとって優位である。