現代的なダイバーズウォッチのオリジンであり、数多くの逸話を持つ「フィフティ ファゾムス」。今季新たにリリースされたモデルは、ツールウォッチとしての来歴を象徴するステンレススティール仕様だ。しかしながら磨き抜かれたそのケースは、ハイエンドウォッチにふさわしい艶もまとっている。剛健かつエレガント。誰もが知る傑作ダイバーズウォッチが、さらなる高みへ到達した。

Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
長谷川剛:文
Text by Tsuyoshi Hasegawa
加瀬友重:編集
Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
歴史的ダイバーズの最新形
深海を目指すダイバーたちから厚い支持を得るブランパン。高機能なダイバーズウォッチをいち早く打ち出した先駆者であり、今なお着実に進化を続ける真の実力派である。そのアイコンが1953年に誕生した「フィフティ ファゾムス」だ。頑丈な二重シールのリュウズ、ロック機構付き回転ベゼルなど、その装備は現代的なダイバーズウォッチのお手本となっている。モデル名は当時の潜水限界深度である50ファゾム(約91.45m)に由来する。開発にまつわる数々のエピソードは、すなわちこの腕時計のロマンであり、ファンを魅了し続ける大きな要因となっている。

この傑作ダイバーズの名を世に知らしめたのは、海洋探検家にして映画監督であるジャック=イヴ・クストーである。56年に公開された記録映画「沈黙の世界(Le Monde du Silence)」において、クストーと製作スタッフが選んだ腕時計が、このフィフティ ファゾムスだったのだ。「沈黙の世界」は、この年のカンヌ国際映画祭においてグランプリを獲得。作品中の登場人物の手元にも、多くの注目が集まったというわけだ。
フィフティ ファゾムスを認めたのはダイバーたちだけではない。フランス海軍、米国海軍のネイビーシールズ、ドイツやスペインの軍隊に納入された経歴からも、その非凡な実力が推し量れる。デビュー当初から約100mの防水性能を備えていたフィフティ ファゾムス。現在ではその能力を300mまで進化させている。また現行ムーブメントのCal.1315は耐磁性能に優れたシリコン製ヒゲゼンマイを搭載し、現代のライフスタイルに対応。そのスタミナも特筆すべきポイントで、直列配置の3バレルにより約5日間のパワーリザーブを実現する。

すでに万全の態勢を整えている〝海の守護神〞だが、2025年の新作にはさらなるアップデートが加えられている。ケースにはステンレススティールを採用し、ツールウォッチのオリジンを強く感じさせるパッケージとなった。重厚かつソリッドな〝鉄〞ならではの持ち味は、冒険に連れ出す相棒として抜群の安心感につながり、ズシリと手首に伝わる重みが所有する喜びをもたらしてくれる。

仕上げに関しても念入りだ。全体的にポリッシュがかけられたケースは鏡面のようにクリアな輝きを発し、単なるツールウォッチ以上のきらめきを有する。緻密なサンバースト仕上げの文字盤上には、蓄光塗料を塗布した太めのインデックスや時分針をセット。太陽の下でも暗所でも、確かな視認性をもたらしてくれる。見どころは裏面にもある。シースルーバックからは、個性的にデザインされた自動巻きローターが確認できる。始祖となる1953年モデルの意匠を再現したローターだ。NAC処理によるマットな質感ながら、そのエッジや文字部分はあえて18Kレッドゴールドの素地を露出。ダイバーズのオリジンとしての歴史をアピールしながら、リッチなアクセントを効かせているのだ。

かつて軍隊も認める高機能ダイバーズとして世に出て、21世紀の現在まで進化の道を歩み続けたフィフティ ファゾムス。本作は原点となるプロツールの出自にコミットしつつ、オートオルロジュリーとしてのエレガンスも追求した意欲作なのだ。特にステンレススティール製ブレスレットのモデルは、重厚かつハイエンドなルックスの完成形と言えるだろう。堂々たる美丈夫に進化を遂げたフィフティ ファゾムス。その〝神話〞は確実に次のチャプターに入っている。
歴史的傑作ダイバーズウォッチの最新版。高級腕時計としての美観も備える点に要注目。ベルトのバリエーションとして、ステンレススティール製ブレスレットのほか、オリジナルを彷彿とさせるトロピックラバー(写真左)のほか、セイルキャンバスやNATOストラップも用意される。自動巻き(Cal.1315)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径42.30mm、厚さ14.30mm)。30気圧防水。(右)268万4000円(税込み)。(左)250万8000円(税込み)。