2025年に刷新された、ブライトリングの「スーパーオーシャン ヘリテージ」。1957年のオリジナルモデルから受け継がれる「シティダイバー」としてのスタイルを、同じく1950年代生まれであり、30年以上にわたって時計業界を取材してきたジャーナリストの菅原茂氏が横浜や都心で味わいつつ、その細部をレビューしていく。
Photographs & Text by Shigeru Sugawara
[2025年7月22日公開記事]
海にも歴史博物館にも合う「シティダイバー」を着用レビュー
日本の夏と言えば、ダイバーズウォッチ。このところの異常な高温、加えて高湿度を乗り切るのに頼もしい時計はもうこれしかない。ここ数十年、何本かダイバーズを使ってきたが、出番はもっぱら夏である。本格的なマリンスポーツとか、水辺のアクティビティとかで使用することはまずないから、技術的なハイスペックよりも、デイリーユースでの使い勝手や、見た目のかっこ良さに惹かれるほうである。日焼けした腕に「オレ、茅ヶ崎でサーフィンなんかやったりして」みたいな感じで本格ダイバーズウォッチを着けている男たちを湘南界隈、あるいは都心で見かけることがかつてあったが、自分にはそうした趣味はない。
さてこの夏、レビューで着用するのは、ブライトリングの2025年最新作「スーパーオーシャン ヘリテージ B31 オートマチック 40」である。このモデルを手にするのは初めてなので興味津々だ。なによりデザインが自分の好みにぴったり。1957年発表のオリジナルモデルを再現するヴィンテージルックがいい。“節度ある若見え”スポーツウォッチというか、過度な主張がないところが好ましく思える。1960年代の「スーパーオーシャン スローモーション」からインスパイアされた、あのカラフルで楽しい近年の「スーパーオーシャン オートマチック」もまた別の意味で魅力的なのだが。新作のほうによりいっそう親近感を覚えるのは、たぶん同じ1950年代生まれだからなのかもしれない。

自動巻き(Cal.B31)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約78時間。SSケース(直径40mm)。200m防水。90万2000円(税込み)。
ちなみに1957年のオリジナルがもともと「シティダイバー」の雰囲気をもっていたことは、ブライトリング公式ページの説明からも明らかだ。「当時の他のダイバーズウォッチとは一線を画すアプローチをとっていました。Ref.1004(洗練された3針モデル)とRef.807(世界初の本格的なダイバーズ・クロノグラフ)は、単に水中探検のためのツールではなく、スタイルも重視したデザインでした」。

2日目に海が見える港に出かけて、数時間を過ごした。横浜大桟橋で海に向かって時計をかざしたところ、ダイアルの視認性は概ね良好だ。あえて「概ね」というのは、サファイアガラスに無反射コーティングが施されているとはいえ、角度によっては光が映り込んでダイアルが見づらい場面もあったからだ。このような現象は、オープンエアの自然光だけでなく、室内の照明の下でも生じた。逆に暗所での夜光は抜群だった。そのほか、都心に着けていくこと2回。時計にファッションを合わせて楽しんだ。ちょっと時計通でオシャレに見えるのは「シティダイバー」のおかげか?
ステンレススティールのケース径は40mm。他に36mmや42mm、44mmなどもラインナップされているが、40mmの投入は初という。最近の小径化やジェンダーレスのトレンドを意識したのか詳しくは知らないが、着けやすさの点では間違いなく程よいサイズ。ちなみに自分が購入する際もこれまで40mmを限界としてきたので、すんなり受け入れられる。また、ダイバーズウォッチにしては約10mmと薄く、重量もステンレススティール×ラバーストラップ仕様で100g(キッチン秤で計測。公式には約83gとある)で、これまた程よい重量感。メタルのメッシュブレスレットのパターンを模したラバーストラップはしなやかで、35℃の猛暑の下での外出で汗ばんだ際にも、不快なベタつきはなかった。両側にプッシュボタンを装備したデプロワイヤントバックルもよく出来ていて使いやすい。つまり、装着感に関してのトータルな評価は非常に良好なのだ。
ケースバックを見て、感動した理由とは?
この最新作はまた、新開発の自社製ムーブメントも注目ポイント。3針デイト付きのブライトリングCal.B31は、既存の「スーパーオーシャン オートマチック」に搭載されたブライトリングCal.17のパワーリザーブが約38時間なのに対し、2倍の約78時間へと大幅に向上しているのが特徴。今や新世代の自動巻きムーブメントでは、約3日の連続駆動、例えば時計を金曜の夜に腕から外して翌週の月曜の朝も変わらず動いていることが標準になってきたが、これもそうした実用的要件にマッチする。今回着けた5日間でそうしたパワーリザーブの検証は特にしなかった(自動巻き腕時計を連続着用した場合は難しいが)。ただ、スペックにCOSC認定クロノメーターとあるので、標準電波時計と見比べて歩度を観察したら、毎日10秒ほど進む傾向が見られた。個体差があるとは思うが、参考程度に。
ブライトリングCal.B31でちょっと感動したのは、サファイアケースバックから見えるムーブメントの装飾仕上げだ。長年さまざまなムーブメントを見てきた者も、この洗練された仕上げを目にして「おお、そうきたか」と感嘆するにちがいない。パターンは、高級ムーブメントのシグネチャーと呼べるクラシカルなコート・ド・ジュネーブ。ルーペで見ると、このオーセンティックな模様が非常にていねいに施されていることが分かる。加えて畝に刻まれた螺旋状の曲線が、フリースプラングのテンプ受けや両方向回転ローターなどにも施され、全体として美しいハーモニーを成している。ダイバーズウォッチを単なるツールウォッチと割り切るならここまでやる必要はないが、そこにスタイルとエスティティックを重視するブライトリングの意図が読み取れた。
菅原茂のプロフィール

1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。時計専門書の翻訳も手掛ける。