腕時計ストラップを革新するジャン・ルソー。鮭革、耐水アリゲーター、そして再生素材

FEATUREWatchTime
2025.07.23

フランス・ブザンソン発祥の老舗レザーブランド、ジャン・ルソー。伝統的な高級レザーストラップ製造に革新を重ねるこの工房では、アリゲーターやサーモンといった多様な素材を用い、耐水性など従来の枠を超えた機能性を追求している。世界的ブランドとのコラボやサステナブル素材の活用にも積極的な彼らのもの作りから、ストラップの未来が見えてくる。

ロレックス「コスモグラフ デイトナ」を愛用するユーザーのために特別にオーダーメイドされたジャン・ルソー。ストラップはケースとの隙間が開かないように特別に設計されている。
Originally published on watchtime.com
Text by Martin Green
[2025年7月23日公開記事]

歴史の街ブザンソンが育んだもの作り精神

 フランス東部の都市ブザンソンは、中世の面影を色濃く残す街だ。歴史的な街並みを見下ろすように、丘の上には巨大な要塞が構え、荘厳な大聖堂には、この街にとって何が重要な産業だったのかを象徴する逸品がある。70個のダイアル、11のムーブメント、月齢や潮汐、さらには1万年先まで表示する永久カレンダーなど、122の機能を備えた独自の時計だ。

 スイスとの国境近くに位置するブザンソンは、フランスにおける時計製造の歴史的中心地である。現在では、伝統的な時計産業の一部が精密工学やバイオメディカル分野の先進企業に置き換わり、異なるリズムで時を刻んでいる。


レザーブランド、ジャン・ルソーとは

 それでもこの地には、数少ないフランス時計ブランドや、高級時計業界を支えるサプライヤーが今も拠点を構えている。そのひとつが、ジャン・ルソーだ。ラグジュアリーなレザーグッズを専門とし、著名な時計ブランドへの供給に加え、パリ、ロンドン、ニューヨーク、東京といった都市に自社ブティックを構え、一般顧客にも商品を提供している。

ストラップ製作中

ジャン・ルソーにてストラップを製作中の様子。

 1954年の創業以来、ジャン・ルソーが歩んできたストラップの世界は大きく変化してきた。かつては伝統的な色と素材が主流だったが、現在は質感、カラー、素材、そして加工技術においてルネサンスとも呼ぶべき時代に突入している。ジャン・ルソーにとって革新は、競争力を保つ手段であると同時に、「好奇心」「情熱」「限界への挑戦」が原動力だ。試行錯誤は付きものだが、粘り強い探求の先には、顧客に新たな可能性を提示する成果が待っている。

ロレックス愛好家のためのオーダーメイド対応

 こうした独創的な取り組みは、個人顧客の要望にも活かされている。あるコレクターは、父親から譲り受けたロレックス「コスモグラフ デイトナ」Ref.6241を大切にしていたが、純正のゴールドブレスレットでは使用感が好みに合わず、既製のレザーストラップではラグに隙間ができてしまう点を懸念していた。

設計中

顧客が愛用するデイトナのために、ストラップ用インサートパーツの設計を行なった。

 ジャン・ルソーでは、この問題を解決すべく時計を三次元スキャンし、ロレックスがオイスターフレックスベルトに用いる手法に倣って専用インサートを作成。その上からアリゲーターレザーでストラップを製作。1/10ミリ単位で調整されたプロトタイプをもとに、顧客の求めるフィット感やデザインを検証し、最終的にブルーアリゲーター製のストラップが完成。特製ストラップと組み合わせることで、この貴重な腕時計を、オーナー自身のスタイルで楽しめるようになったのである。

環境配慮と高品質の両立

 ストラップというと完成品だけを見て評価しがちだが、実際には素材の選定から製造技術に至るまで、熟練の技が求められる。なかでも近年重要視されているのが、サステナビリティである。ジャン・ルソーでは、すべての原材料をトレーサブルな供給元から調達し、ワシントン条約(CITES)およびEUのREACH規則に基づき、サプライヤーに対する監査も自社で徹底している。

廃棄される魚皮に新たな命を吹き込む

サーモンレザーストラップ

サーモンレザーを用いたストラップ。あの鮭の皮が、これほどまでに魅力的なストラップとなるとは驚きである。

 その一方で、食用として処理された動物の皮を再利用する取り組みも進めている。特にサーモンやチョウザメの皮は、エキゾチックな質感と十分な強度を兼ね備えており、ストラップ素材として非常に有望だ。通常なら廃棄されるこれらの素材に植物タンニンでなめし加工を施すことで、ユニークな風合いを持つ耐久性の高いレザーへと変貌を遂げる。

 チョウザメはキャビア産業の副産物であり、天然の突起(スピキュール)があるため、まずは滑らかにするためにサンディングを行う必要がある。染色工程は多くが手作業で、微細な色調や味わいを引き出すには不可欠だ。こうして生まれたストラップは、環境負荷の低さとともに、美しく経年変化していく点でも高く評価されている。

海洋プラスチックがデニム調ストラップに生まれ変わる

 リサイクルも近年の重要テーマだ。とくにストラップ製造では、革のリサイクルに課題が残る一方で、「シークアル・イニシアチブ」による再生素材が注目されている。この団体は、海や浜辺に投棄されたプラスチックごみを回収し、繊維として再生する取り組みを通じて、国際的な海洋生態系の保護に取り組んでいる。毎年約800万トン以上のプラスチックが海に流出している現状を鑑みれば、その意義は極めて大きい。

シークアルストラップ

シークアルを使用したファブリックストラップ。幅や長さを指定してオーダーできる。公式サイトからオーダー可能だ。

 ジャン・ルソーではこの糸から作られた布地をストラップに使用している。35%の再生ポリエステル、35%の再生コットン、30%のシークアルポリエステルを配合し、デニム調の風合いとラグジュアリーな仕上がりを両立。かつて海に漂っていた廃棄物が、時計を引き立てる上質なアクセサリーへと昇華しているのだ。

植物由来素材が生む新たな表現

 さらに、パイナップルの皮といった植物性素材の活用も進められている。これらは単に環境負荷が低いというだけでなく、新たな質感やカラーの選択肢を広げるという意味でも価値がある。パイナップルはワイルドなその質感が特徴的だ。

耐水レザーストラップという新常識

アトランティス

アリゲーターレザーという素材を用いつつも、特殊処理で防水性を与えたジャン・ルソーの「アトランティス」シリーズ。

 ストラップの品質は耐久性にも表れる。レザーストラップでは「水濡れ厳禁」が常識だったが、ジャン・ルソーはこの分野にも挑戦。2021年には、アリゲーターレザーに特殊処理を施した耐水性ストラップを発表した。最大60分の水没にも色や形状、着用感に変化が生じず、着用後に水道水で汚れや塩分、塩素を洗い流せば、通常の革よりも速乾性があり、劣化も抑えられるという。

アトランティス

なお、「アトランティス」シリーズには、ファブリック調の表情をしたラバーストラップもラインナップされている。これからの季節に持ってこいだろう。

進化を続けるストラップの未来へ

 個人の時計愛好家にも、世界的ブランドにも。ジャン・ルソーは、あらゆる顧客に向けて、極限まで選択肢を広げようとしている。経験と技術革新、そして課題に挑む姿勢をもって、ストラップ製造の未来はますますエキサイティングなものとなっていくだろう。



Contact info: アトリエ ジャン・ルソー Tel.03-6280-6721


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