パートナーシップの締結から2年目にして、H.モーザーとアルピーヌ・モータースポーツとのコラボレーションモデルは、早くも円熟の域に到達した。単にロゴやキーカラーを配しただけの腕時計とは異なり、今年発表された2本の新作は、何よりもパートナーにとっての有用性を考慮して製作されたコラボレーションモデルの理想形である。
Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
H.モーザーとアルピーヌ・モータースポーツのコラボモデル
アルピーヌ・モータースポーツとのパートナーシップ締結がアナウンスされたのは、さかのぼること1年前の2024年。それまでにも数々のブランドとコラボレートしてきたH.モーザーの実績を鑑みれば、パートナーシップの締結そのものに意外性はない。だが、常にサプライズを提供し続けてきたH.モーザーだけに、このとき発表された「パートナーシップは、両ブランドの各活動領域のイノベーションと技術を原動力とする共通の製品と体験を目的とした、これまでにないプラットフォームとなる」というステートメントが、その後の展開を大いに期待させるものであったことは間違いない。そして、この画期的なプラットフォームから生まれたタイムピースを手にする機会は、パートナーシップ締結の発表からわずか1年ほどで訪れた。

コラボレーションモデルとして発表されたのは、H.モーザーが「精度とパフォーマンスを追求するアルピーヌF1チームと耐久レースチームをいかにサポートできるか」を自問した末に完成させた、「ストリームライナー・アルピーヌ ドライバーズエディション」と「ストリームライナー・アルピーヌメカニックエディション」の2モデル。前者はチームのF1マシンに匹敵するスタイリッシュな腕時計を身に着けたいという、ドライバーの要望を具現化したルックスを持ち味とした自動巻きクロノグラフモデルで、後者は、レースを陰で支えるメカニックたちの本格的な作業ツールとして設計された、H. モーザー初のコネクテッドウォッチである。
両モデルの製作にあたってはドライバーのピエール・ガスリーやレースチームマネージャーのロブ・チェリー、ピットクルーと綿密なコミュニケーションを図り、チームにとって意味のある何かを提供することや、ロゴデザインのみにとどまらないコラボレーションモデルの可能性が模索された。こうして導き出された方向性の中でも、とりわけ驚きを与えたのがメカニックエディションだろう。
このモデルには「ハイエンドな基準がH.モーザーの哲学とブランドの価値に合致していた」ことから、スイスのコネクテッドウォッチメーカー、シークエントのモジュールを採用。同社のプロダクトはコネクテッドウォッチでありながらローターを備えた自動巻き機構を搭載するユニークな内容で知られるが、メカニックエディションではこのモジュールではなく、シークエントがH.モーザーのために新規に開発した機構が取り入れられたという。
しかも本作は、去る4月11日〜13日に開催されたF1バーレーン・グランプリにおいてストレステストを実施。レースの準備やピットストップ、ブリーフィングといった状況下で、チームスタッフがその操作性や視認性、フィット感などを実際に確認したというから、その有用性も保証済みだ。
時計製造、モータースポーツとジャンルこそ異なるものの、ともに限界に挑む姿勢を貫く両社がタッグを組んだからこそ生まれ得た2本のタイムピース。パートナーの要望を見事に具現化したこの作品こそ、コラボレーションモデルのあるべき姿ではないだろうか。

肉抜きされたローター(回転錘)をダイアル側に配置したスケルトンデザインを採用。表示は通常の時分針とクロノグラフ用の積算分秒針のみにとどめ、視認性にも配慮している。自動巻き(Cal.HMC 700)。55石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径42.3mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定200本。1097万8000円(メカニックエディションとの2本セット販売)。

コネクテッドCal.DI0搭載。iOSおよびAndroid対応。パワーリザーブ約12カ月(時刻表示のみ)。SSケース(直径42.6mm、厚さ14.4mm)。12気圧防水。世界限定500本。ドライバーズエディションとの2本セット販売。ただし、2024年発売の「ストリームライナー・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン アルピーヌ」を購入しており、メカニックエディションの単品購入を希望する場合は、本社まで要問い合わせ。