2024年に始まった、ルイ・ヴィトンと独立時計師とのコラボレーション。第1弾としてアクリヴィアのレジェップ・レジェピを選んだ同社は、第2弾のパートナーになんと、かのカリ・ヴティライネンを招いた。
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
ルイ・ヴィトンと独立時計師のコラボレーション
現在、ルイ・ヴィトンの時計部門のディレクターを務めるジャン・アルノーは、自他共に認める時計好きだ。そんな彼は同社の時計のコレクションを整理し、「時計好きたちに選んでもらえる」コレクションを展開するようになった。その象徴が独立時計師とのコラボレーションである。2024年のアクリヴィアに続き、新たなパートナーに選んだのは、カリ・ヴティライネンだった。完成したのは時針を単独調整できるGMTウォッチ「LVKV-02 GMR 6」である。
「ルイ・ヴィトンとの話が始まったのは3年前だった。そして何ができるかを検討した結果、旅に使う時計がいいとなった」とヴティライネンは説明する。
外装のベースに選ばれたのは、ルイ・ヴィトンのトランクをモチーフにしたケースを持つ新型エスカル。そこにヴティライネンは、6時位置にホームタイム表示を備え、リュウズのプッシュで時針を単独調整できるムーブメントを搭載した。
すでにヴティライネンは第2時間帯表示のムーブメントを持っているが、これは完全な別物だ。設計に携わったヴティライネンのスタッフは「そもそもスペースがないため、GMT機構をモジュールとして載せられなかった」と語る。Vingt-8のベースムーブメントを転用したとはいえ、わざわざ限定5本のために新規設計の一体型ムーブメントを起こしたのだから気合いが入っている。
コラボレーションを感じさせるのは、文字盤や角穴車に施されたミニチュアペインティングだ。前者は28色を用い、1本あたり約32時間、後者はペイントだけで約16時間、5回の焼成には約8時間が費やされる。傑作「エスカル ワールドタイム」を思わせる色合いは、確かに本作を〝旅時計〞と思わせる要素だ。
ディテールもさることながら(ヴティライネンとルイ・ヴィトンが組んだのだから当然ではあるが)、驚かされたのは腕時計としての非凡な完成度である。ベースとなったエスカルは、高級時計らしい重みを打ち出したコレクション。ケースに重いタンタルを選んだ本作では、いっそうその個性(重み)が強調された。触ればこの腕時計が、ヴティライネンではなく、ルイ・ヴィトン製であることが、きっと分かるはずだ。
残念ながら、世界限定5本の本作は即完売。参考価格で8052万円もするが、わざわざムーブメントやケースを起こしたことを思えば妥当に思える。しかし関係者曰く「このプロジェクトはあくまでルイ・ヴィトンのスタンスを示すためのもの」とのこと。
願わくば、この素晴らしくも野心的なプロジェクトが、今後も続きますように!

ルイ・ヴィトンと独立時計師によるコラボレーションの第2弾。ヴティライネンのVingt-8をベースに、時針の単独調整機構とホームタイム表示が追加された。仕上げもさることながら、腕時計としてのまとまりも傑出している。手巻き(Cal.GMR 6)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約65時間。タンタル×Ptケース(直径40.5mm、厚さ12.54mm)。30m防水。世界限定5本。参考価格8052万円(税込み)。完売。