1980年代後半の時計業界に衝撃を与えたルイ・ヴィトン初の腕時計が、現代によみがえった。最高峰のサヴォアフェールを駆使することでメゾンのエスプリがより濃厚に香る仕上がりだ。

今なおコレクターに熱烈な人気を博すメゾン初の腕時計を、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の匠の技で復刻。オリジナルのデザインコードを保ったダイアルはグラン フー エナメル製となり、自社製自動巻きムーブメントを搭載する。Cal.LFT MA01.02。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KYGケース(直径39mm、厚さ12.2mm)。50m防水。限定188本。850万3000円(税込み)。
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
ルイ・ヴィトン初の腕時計が復活
パリで開催されたルイ・ヴィトンの2025秋冬ウィメンズ・コレクションのランウェイショーで、アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエールは、プレタポルテに大胆なデザインの時計でアクセントを添えていた。来場客の注目を大いに集めたそのモデルの名は「LV Ⅱ」。1988年に、メゾン初の腕時計コレクションとして、「LV I」とともにリリースされたものだ。
デザインしたのは、当時、パリの駅舎をオルセー美術館に改築する大プロジェクトを完遂したばかりのイタリア人建築家兼デザイナー、ガエ・アウレンティ。独創的なペブルシェイプのケースは、ワールドタイム機能を搭載した「LV I」が18KWG、もしくは18KYG製。アラーム機能を搭載した「LV Ⅱ」はブラック、もしくはグリーンのセラミックス製で、ともに懐中時計から着想して12時位置にリュウズを配していた。

とびきりアバンギャルドにしてどこか愛らしいデザインは、感度の高い人たちをたちまち魅了。以後も「モントレ」(仏語の腕時計を意味するmontreのアメリカ英語発音)の愛称でコレクターの間で熱烈に支持され、最近では影響力あるトレンドセッターの着用も目立つ。先のランウェイに登場したのもそんな人気の高まりが背景にあるからだろう。
そんなモントレが、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」に結集する匠の技によって復刻された。それがご覧の「ルイ・ヴィトン モントレ」だ。同工房のアーティスティック・ディレクター、マチュー・エジが「クリエーションの再解釈とは、そのデザインとエスプリをリスペクトすること」と語る通り、直径39mmのイエローゴールドケースは、オリジナルのフォルムを忠実に再現する。これはケース製造部門の「ラ・ファブリク・デ・ボワティエ」の職人が手作業で製作したもの。丹念な磨きにより光を受けて優美に輝き、クル・ド・パリ装飾が施されたリュウズとのコントラストも美しい。


ダイアルもオリジナルのグラフィックコードを維持するが、伝統的なウォッチメイキングをたたえるという意味で、本作は新たにグラン フー エナメルで製作された。光沢と輝きに加え、どこか温かみある色調が、ペブルシェイプのケースと最高の相性を見せている。実はこうしたホワイトのエナメルは完璧に仕上げるのが最も難しい色合いのひとつ。本作ではそこにさらにインデックスや目盛りをエナメルで精密にスタンピングしている。ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンの高度なエナメル技術を改めて知らしめる仕上がりといえよう。
搭載するムーブメントは、オリジナルのクォーツに代わり、自社製自動巻きの「LFT MA01.02」を採用。クローズドケースバックゆえ簡単に鑑賞できないが、メゾンのモノグラムを連想させるV字型の切り込みを施した18Kピンクゴールド製ローターをはじめ、ディテールの隅々まで外装と同じレベルの精度と職人技で仕上げられているそうだ。
往年の名作の復刻は時計界のトレンドだが、ルイ・ヴィトン初となるそれは、やはり別格のオーラを放つ。80年代を象徴するペブルシェイプの時計は、40年近くを経て、時代を超越する普遍の魅力を備えた時計としてよみがえったのだ。