2017年、シチズンから1000m防水に対応した「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナル ダイバー 1000m」が登場。生身の人間が1000mまで潜ることは、ない。とはいえ、この高度な防水性能を実現させるための安全性と操作性に卓越した設計は、人が潜ることのできる水深において大きな安心を与えるだろう。1000mまで潜らなくても必見だ!
“極限”を標榜するツールウォッチ
「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナル ダイバー 1000m」は、直径52.5mm・厚さ22.2mmという巨大なスーパーチタニウム製ケースと、深海へのツールとしての妥協のない外観で注目を集めた。この腕時計のボディの目的は袖口に収めることではない。極端な水圧下でも、潜水時間を安全に計測するという「道具」としての本来の目的を果たすための設計だ。
2002年に発表された、初代1000m防水対応モデル、通称“オートジラ”の系譜を継ぎつつ、着脱式ベゼルの代わりにベゼルロック機構を採用。ケース外周の7時位置に、オレンジのインジケーターが現れているときには、120クリックのベゼルは反時計回りに回転できる。加えて、4時位置のリュウズにも、開閉の状態を視覚的に示す工夫が施されている。
「過剰」さが信頼になる。操作性と安全性
そもそも論として、逆回転防止ベゼルそのものが、「ベゼルをあらぬ方向に動かしてしまわないようにする」安全装置だ。それに加えて、ベゼルの回転をオンオフする、ベゼルロック機構まで追加したのである。オーバーエンジニアリングとさえ感じる「過剰」なまでもの安全性が、この腕時計の持ち味だ。
また、厚手のグローブでも確実に操作できるように、ベゼルには“のこ歯”を連想させる、6つの大型突起のみが配されている。深海での操作性に配慮した、質実剛健さには実に感銘を受ける。
プラスチック製のボックスには、ドライスーツ対応の延長ストラップも同梱されているところも実際の深海での使用を考慮していると言えるだろう。なお、ベゼルの0〜20分、および30と45にはやや大きめのフォントが配されており、初動20分を強調する視覚設計を採用する。
ヘリウム排出バルブと一体型ラグ
飽和潜水環境では、ヘリウム分子がケース内部に侵入し、減圧時に内圧差で風防が外れる恐れがある。10時位置の自動式ヘリウム排出バルブは、そのリスクを低減するための装備だ。ケースは通常のラグやバネ棒を持たず、ストラップをケースと一体化して裏蓋で固定。装着感を高めつつ、偶発的な脱落をほぼ排除する。一方で、独自のラグアダプターゆえに汎用ストラップへの交換は難しい。裏蓋は4本ビス留めで、刻まれたダイビングヘルメットは常に正位置になる。
エコ・ドライブ Cal.J210、それは深海でも途切れない安心
駆動は光発電エコ・ドライブCal.J210。フル充電で約1.5年駆動し、月差±15秒の精度を誇る。深度200〜1000mの無光帯では光は乏しいが、実務上ダイバーが300mを超える深度で長時間活動することは稀だ。加えて、満充電の持続力が実用性を担保する。ちなみに、1995年以来、エコ・ドライブは電池廃棄の大幅削減にも寄与してきたと言えるだろう。
やや小ぶりな文字盤の上に、大型の時分針(分針はオレンジだ)、日付、パワーリザーブ表示、ビッグインデックスがレイアウトされている。暗所や水中でも読み取りは容易だ。シチズンによれば、採用する蓄光は5時間後でも従来比2倍超の残光輝度を保つそうだ。
JAMSTEC協業の実地検証とISO準拠
ISO 6425準拠の本機は、ヘリウム・酸素(あるいは100%ヘリウム)環境で15日間の加圧試験後、高速減圧で大気圧へ復帰する試験をクリアしている。さらに海洋研究開発機構(JAMSTEC)と連携し、実運用条件下での検証も実施。プロフェッショナル・ツールとしての信頼性を裏付ける。
真剣という価値

エコ・ドライブ(Cal.J210)。フル充電時約1.5年駆動。スーパーチタニウムケース(直径52.5mm、厚さ22.2mm)。1000m防水(飽和潜水対応)。33万円(税込み)。
装着すれば圧倒的な存在感を覚えつつも、意外なほど快適だ。水深1000mという人間が潜ることのできない水深にも対応するという、過剰とも言える設計は安心感に直結する。唯一無二のデザインと操作性、そして飽和潜水に耐える堅牢性。深く潜るという方向性において、実に真剣なダイバーズだ。そして価格もそれにふさわしいものである。