パネライが民間市場デビューを宣言した1993年に同社が製造していたイタリア海軍「マリーナ ミリターレ」隊員専用のモデルが復活を遂げた。細やかなディテールを忠実に再現した手腕は見ものだ。
Text by Shin-ichi Sato
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
パネライ「ルミノール マリーナ ミリターレ」

パネライの歴史展「時の深淵」開催記念モデル。同社が軍用装備品メーカーから世界的な時計ブランドへと変わる転換点となった1993年に注目し、その年に製造されたマリーナ ミリターレ隊員専用モデルを復刻した。手巻き(Cal.P.6000)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径44mm、厚さ13.05mm)。30気圧防水。126万5000円(税込み)。
1993年にイタリア海軍「マリーナ ミリターレ」隊員専用として製造されたRef.5218-202/A。これを現代によみがえらせた新作が「ルミノール マリーナ ミリターレ」PAM05218だ。93年とは、パネライが民間市場デビューを宣言した記念すべき年である。軍用装備品メーカーと世界的な時計ブランドの境界上にあるモデルへのオマージュと言える本作は、オリジナルモデル同様に44mm径のケースを採用する。これは当時の海軍納入品の標準であった直径47mmケースからの脱却を象徴しており、パネライの高い防水性能と大径で視認性の高いデザインというアイデンティティーを保ちつつ、市場が受け入れやすいサイズ感に落とし込まれた結果であった。その後のパネライの快進撃は、ここで語るまでもないだろう。

ケースは、オリジナルモデルを現代的に再現したDLCコーティング仕上げで、ブラックの文字盤も相まって引き締まっている。注目はインデックスが焼け色を思わせるオレンジブラウンであるのに対して、時分針の蓄光塗料には焼け色が見られない点だ。これはインデックスにのみ塗布されたトリチウムとニスの化学反応が生じた93年モデルの特徴である「アンマッチ文字盤」の再現だ。このほか、オリジナルモデルを基にしたフォント、「マリーナ ミリターレ」のロゴ、サンドイッチタイプではなく彫り込みのインデックスと、細かなディテールが再現されている。
さて本作は、パネライの歴史展である「時の深淵」の開催記念モデルでもある。この中では民間市場デビュー前にも踏み込み、イタリア海軍に納入された装備品や、歴史と深く結びつくタイムピースが展示される。本作は、このような企画を記念するのにふさわしい内容と言えよう。



