耐磁時計として誕生した「インヂュニア」やパイロットウォッチ、高精度モデルを起源とする「ポルトギーゼ」といった、実用性の高いツールウォッチのイメージが強いIWC。そんな同ブランドにラインナップされる、18Kゴールド製モデルに注目して紹介する。人類史上、由緒ある“貴重な金属”であるゴールドは特別なモデルへの採用が多く、そこに注目することでコレクションを深く知るきっかけとなれば幸いである。

Text by Shin-ichi Sato
[2025年10月21日公開記事]
金無垢時計も良いぞ! IWCの腕時計
今回は、IWCのラインナップの中でも18Kゴールド製モデルをピックアップする。パイロットウォッチや耐磁時計を出自とする「インヂュニア」といったツールウォッチのイメージが強いIWCであるが、ゴールドを用いたエレガントな懐中時計や、それを元にした腕時計、独自機構を持つ複雑時計を製作してきた歴史を持つ。このような背景から、現在でもIWCはゴールド製モデルをラインナップしている。今回は、IWCの18Kゴールドに注目することで、IWCの幅広いコレクションを深く知ることが趣旨となる。
時計にゴールドが用いられてきた歴史と現在
ゴールド。元素記号Au、元素番号79であるこの金属は、磨けば金色の輝きを放ち、変質しない特性や稀少性から、古来より富や権力の象徴とされ、貨幣や装飾品に珍重されてきた。すなわち、ゴールドは人類史上、由緒ある“貴重な金属”である。
クロックや懐中時計を含めた時計は、ステータスシンボルや貴重な工芸品、装飾品として発展した歴史がある。そこに貴重な金属であるゴールドが用いられるのは自然な流れであり、現代でも特別なモデルへ採用されている。また、ゴールドは加工がしやすい特性を持ち、ケースのための複雑な形状への成形や、そこに微細な細工を施すことができる点も、時計に用いられる要因となったと考えられる。
さて、純度の高いゴールドは非常に柔らかく、合金にすることで用途に応じた特性に調整されてきた歴史がある。また、その配合によって色調も調整され、イエローゴールドやホワイトゴールド、ローズゴールドが生み出されてきた。現代では、特別な色調や強度などの特性をもたせるべく、各時計ブランドが独自の合金を提案している。
IWCの18Kゴールド製モデル5選
それではここからは、IWCの現在のラインナップの中から18Kゴールド製モデルを5つ紹介しよう。
「インヂュニア・オートマティック 35」Ref.IW324903

自動巻き(Cal.47110)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRGケース(直径35mm、厚さ9.4mm)。10気圧防水。628万6500円(税込み)。
最初に紹介するのは、2025年にケース径35mmの新サイズとして追加された「インヂュニア・オートマティック 35」の18Kレッドゴールド製モデルである。現在の「インヂュニア」は2023年にフルモデルチェンジされており、当初はケース径40mmの展開であった。
2023年の刷新に当たって、1976年にジェラルド・ジェンタがデザインした「インヂュニア SL(Ref.1832)」に回帰するデザインコンセプトに改められた点がトピックスであった。全体のシルエットに加えて、ケースサイドとブレスレットをつなぐなだらかなラインや、ベゼル上のネジに、オリジナルの特徴が見て取れる仕上がりである。また、2025年に追加されたインヂュニア・オートマティック 35では、ケース直径35mmへのサイズダウンに合わせて、より薄く仕立てつつ、デザインコードやスタイリングを維持するようにすべてのパーツ、すべてのディテールの見直しが行われている。
ピックアップするRef.IW324903は、18Kローズゴールド製の外装に合わせて、文字盤とインデックス、針、日付ディスクもゴールドで統一されたゴージャスな仕立てとなっている。特徴的なケースシェイプを18Kローズゴールドで表現し、サテン仕上げを基調としてエッジ部やブレスレットの中ゴマにポリッシュを施すことで、ゴールド特有の輝きを加えている。

自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ10.4mm)。10気圧防水。735万9000円(税込み)。
また、ケース径40mmの「インヂュニア・オートマティック40」にも、18Kローズゴールド製モデルのRef.IW328702が2025年新作として追加されている。こちらは文字盤がブラックで、より引き締まったデザインとなっている。
「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43・トゥールビヨン “プティ・プランス”」Ref.IW329502

自動巻き(Cal.82905)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18K Armor GoldⓇケース(直径43mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。要価格問い合わせ。
次に紹介するのが、18K Armor GoldⓇ製の「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43・トゥールビヨン “プティ・プランス”」Ref.IW329502だ。プティ・プランスとは、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる世界的な名作小説『星の王子さま』を指す。IWCはこれまでも、偉大なパイロットであり、作家であるサン=テグジュペリと、その作品への敬意を表したモデルをラインナップしてきており、本作もそのひとつだ。IWCがプティ・プランスをテーマとするモデルをラインナップしている経緯は、過去の記事(https://www.webchronos.net/features/77847/)を参照いただこう。
本作は、プティ・プランスのラインナップに共通する、サンレイ仕上げのブルーの文字盤と、ブラウンのカーフスキンストラップを組み合わせたスタイリングである。また、ビッグ・パイロットの名の通り、存在感のある直径43mmのケースと大きなダイヤモンド型リュウズを備える。
そしてケースは、IWCの独自合金である18K Armor GoldⓇ製である。18K Armor GoldⓇは、2019年、「ビッグ・パイロット・ウォッチ・コンスタントフォース・トゥールビヨン “プティ・プランス”」とともに発表されたもので、従来の18Kゴールド合金に比べて硬度が高く、耐摩耗性にも優れている点が特徴だ。近年では本作以外にも、IWC「ポルトギーゼ・ トゥールビヨン・レトログラード・ クロノグラフ」Ref.IW394009に採用されており、IWCの中で特別なモデルへ採用されている。

本作には、6時位置に時刻修正時の秒針停止機能付きフライングトゥールビヨンを備える自動巻きムーブメントCal.82905が搭載される。これまでのプティ・プランスモデルでは、ケースバックに『星の王子さま』が描かれているモデルが多かったが、本作ではトランスパレントバックとなっており、『星の王子さま』が故郷の小惑星に立つ姿を象った自動巻き錘が採用されている。
「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」Ref.IW359002

自動巻き(Cal.32150)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径41.0mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。348万7000円(税込み)。
次に取り上げるのが、IWCの中で最もドレッシーなコレクションである「ポートフィノ」の18Kレッドゴールド製モデルである。ポートフィノの名は、北イタリアに位置し、風光明媚な景観からリゾート地として知られる港町のポートフィノにちなんでいる。それを反映して、ポートフィノコレクションは、シンプルかつエレガントなドレスウォッチコレクションとして展開されており、人気を集めている。
今回取り上げるのは「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」Ref.IW359002である。本作の文字盤6時位置には、同軸による月表示と日表示を備え、12時位置にも同軸による曜日表示とムーンフェイズ表示を備える。
ポートフィノは、多機能化した懐中時計用ムーブメントを、懐中時計を思わせるラウンドケースに収めたコレクションとしてスタートした経緯がある。また、時計の歴史においては、暦や月の満ち欠けといった森羅万象を時計上で表現することがステータスを象徴するものとして重要な意味を持つとされ、このような機構を持つ特別なモデルにゴールドが多く用いられてきた。この観点で本作は、ポートフィノと時計の歴史に根差したモデルと言えるだろう。
「ポルトギーゼ・オートマティック 40」Ref.IW358402

自動巻き(Cal.82200)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径40.4mm、厚さ12.4mm)。5気圧防水。275万円(税込み)。
続いては、「ポルトギーゼ・オートマティック 40」Ref.IW358402を紹介しよう。本作は、これまでのイエロー系の色調とは異なる18Kホワイトゴールド製モデルである。
「ポルトギーゼ」は、1930年代にポルトガルの商人による「マリンクロノメーター級の高精度な腕時計が欲しい」という要望に応えて誕生したモデルが起源だ。オリジナルモデルでは、高精度の実現のために懐中時計用ムーブメントを採用し、懐中時計のデザインを引き継ぐアラビア数字インデックスや、リーフ型の針が組み合わされていた。そしてこれは、現在のデザインコードとして受け継がれている。また、オリジナルモデルでは懐中時計用ムーブメントを使用していたことから、それを引用したスモールセコンドを備えるモデルも多い。
取り上げる「ポルトギーゼ・オートマティック 40」は、6時位置にスモールセコンドを配し、オリジナルモデルのデザインを色濃く反映したデザインである。Ref.IW358402の文字盤カラーにはホライゾンブルーが採用され、18Kホワイトゴールド製ケースの色調と、ホライゾンブルーのストラップの組み合わせも相まって、明るく、爽やかな仕上がりで、クラシカルかつモダンなテイストが本作の魅力であろう。また、18Kホワイトゴールドに由来する上品な輝きが、エレガントなドレスウォッチの趣きを加えている点にも注目だ。
「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371625

自動巻き(Cal.69355)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ13.1mm)。3気圧防水。267万3000円(税込み)。
最後に紹介するのが、18Kレッドゴールド製の「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371625である。ポルトギーゼの出自は先に述べた通りだが、懐中時計に由来する大型のケースとデザインを、クロノグラフモデルへ落とし込んだポルトギーゼ・クロノグラフが長年人気を集めており、ポルトギーゼと聞いて本作のスタイリングをイメージする方も多いかもしれない。
かつてのポルトギーゼ・クロノグラフは、ETA社製ムーブメントにIWCオリジナルのカスタマイズを加えた自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載していたが、2020年のリニューアルで、デザインはそのままに、本作にも搭載される自社製造のCal.69355へ改められた。IWCはムーブメント開発を得意とするブランドであり、実用性の高いクロノグラフムーブメントを多く擁することから、ケースバックからCal.69355の作動の様子を鑑賞できることは現行コレクションの魅力のひとつとなる。
今般取り上げるRef.IW371625は、18Kレッドゴールド製ケースに黒曜石の文字盤を組み合わせたモデルだ。18Kレッドゴールドの落ち着いた上品な色調をブラックが引き締め、ブラックのアリゲーターストラップの組み合わせによって、シックな仕上がりとなっている。クロノグラフ機能を支える細かなスケールやインダイアルによるスポーティーさと、素材由来のシックなカラーコーディネートと質感によって、本作はコレクションの中でも特にエレガントな仕上がりと言えるだろう。