【未来に残る時計たち】パテック フィリップ「カラトラバ」Ref.96とA.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク」

2025.12.08

ここ10年で大きく成熟した高級時計市場。牽引の担い手となったのは、2015年頃から始まったラグジュアリースポーツウォッチの一大ブームだった。質的な拡大を経て、いま目利きの時計愛好家たちは、ファッション性よりも未来に残る時計に関心をシフトさせている。ではどんな時計が未来の時計遺産たり得るのか? 著名なジャーナリストによる特別寄稿と、識者たちへの聞き取りで、過去と未来を繋ぐマスターピースの条件を浮き彫りにする。

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星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
カーソン・チャン:文
Text by Carson Chan
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan), Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]


カーソン・チャンが語る「時代を超越し、象徴となる革新的な時計デザイン」

 パテック フィリップの「カラトラバ Ref.96」は1932年に発表され、ドレスウォッチのスタンダードを築いた不朽の名作である。そのミニマルなデザイン、すっきりとしたライン、完璧なプロポーションで、カラトラバはバウハウス美学の原則を体現しており、機能に続く形に焦点を当てている。今日の基準からすると控えめな直径30mmのケースは、エレガンスと洗練さを醸し出し、どんなフォーマルな場にもマッチする。

カーソン・チャン

カーソン・チャン
高級時計財団(FHH)最高顧問。ボナムズの香港代表を経て、2004年にリシャール・ミルのアジア地域のゼネラルマネージャーに就任。14年よりFHHに参加し、20年より現職。時計収集や時計産業についての知見を、各メディアを通じて広めている。趣味は時計のほか、車やカメラなど多岐にわたる。

 当時のスタイルとデザインを反映したRef.96は、20世紀初頭の特徴であるエレガンスと控えめさを表現している。30mm径のケースは、現代の基準からすると非常に小さく感じられるかもしれないが、当時の腕時計としては一般的なサイズであり、慎重さと上品さを強調していた。Ref.96は、当初Cal.12-120、後に信頼性と精度で知られるCal.12-400を搭載した手巻きムーブメントを搭載していた。ゴールドのアプライドインデックスとドーフィン針で飾られたシンプルな文字盤は、余計な装飾を排し、時計の美しさを際立たせている。6時位置に配されたスモールセコンドのサブダイアルが、ヴィンテージの魅力を添えてくれている。

 このモデルの永続的な魅力は、その純粋なデザインと、パテック フィリップの基礎となる作品のひとつとしての歴史的意義にある。カラトラバRef.96は単なる時計ではなく、卓越した時計技術と時代を超越したエレガンスの象徴であり、数十年にわたって数え切れないほどのデザインに影響を与えてきた。この時計は、繊細さと洗練さが最も重要であった時代の証しであり、その意義と美的純粋さにより、コレクターや愛好家の間で崇拝され続けている。

パテック フィリップ「Ref.96」

パテック フィリップ「Ref.96」
カラトラバのみならず、その後の全てのドレスウォッチの規範となった歴史的傑作。初出は1932年。ラグとケースを一体化させることで、懐中時計にラグをロウ付けした当時の腕時計に対してデザイン的な差別化を図った。ケースサイズは現代としては小ぶりな直径30mmだが、今なお、多くの時計愛好家がそのプロポーションを最も理想的と評する。

 2009年に発表されたA.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク」は、時間の表示方法を再定義する現代の驚異的な時計だ。この革命的なタイムピースは、従来のアナログ時計とは一線を画す、ジャンピングアワーとジャンピングミニッツのデジタル表示を備えている。この複雑機構を実現したことは、同社が技術的専門知識と革新性を持っていることの何よりの証明だ。

 41.9mm径のケースに収められたムーブメントは、ドイツの伝統的な時計製造におけるクラフツマンシップと現代的なデザインが融合している。美しく仕上げられたCal.L043.1はケースバックからその姿が見られる。コンスタントフォース機構によって可能になった大型の瞬転式ディスクの時刻表示はパワーリザーブ表示と相まって、ツァイトヴェルクを機能的で見た目にも印象的な時計に仕上げている。

 現代の世界では、時間を知らせたり読み取ったりするための数多くのデジタル機器が存在するため、機械式時計はもはや機能性だけを追求するものではない。その代わりにこれらは芸術の対象となり、クラフツマンシップを鑑賞するものへと進化している。ツァイトヴェルクはこの変化を反映し、時計芸術の神髄を体現した。

 特大の数字と特徴的なタイムブリッジを備えたダイアルレイアウトは、優れた視認性と、従来のタイムピースとは一線を画す独特の美しさを備えている。ツァイトヴェルクの革新性、クラフツマンシップ、デザインの融合は、機械式時計の限界を押し広げる現代の傑作だ。ツァイトヴェルクは、現代の高級時計を象徴する芸術性と卓越した技術をたたえるものであり、その複雑な美しさと製作に携わる深い技術を高く評価する人々にアピールするものである。

A.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク」

A.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク」
定力装置を用いることで実現した2009年初出の瞬転式デジタル時計。22年のアップデートによって、パワーリザーブが延びたほか、日付のクイックチェンジ機構も追加された。手巻き(Cal.L043.6)。61石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径41.9mm、厚さ12.2mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845


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