ドイツ・グラスヒュッテ時計産業180年の伝統を継ぐ意志と技術。グラスヒュッテ・オリジナルとは?

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2025.11.20

激動する時代に翻弄されながらも、強い意志でそれに立ち向かい克服してきた時計ブランドがある。ドイツ・ザクセン州グラスヒュッテのグラスヒュッテ・オリジナルだ。その歴史をたどりつつ、現在の同ブランドの魅力に迫る。廃鉱山の町に生まれた希望は、180年の時を経てなお、その輝きを放ち続ける。

グラスヒュッテ・オリジナル,パノマティックルナ アニバーサリー・エディション

Photograph by Glashütter Uhrenbetrieb GmbH
グラスヒュッテ・オリジナル「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」Ref.1-92-14-01-03-61
ドイツ・ザクセン州グラスヒュッテの時計産業誕生から180周年を迎えた今年、世界限定180本として発表された新作。アヴェンチュリンガラス製の幻想的なダイアルが魅力だ。自動巻き(Cal.92-14)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約100時間。Ptケース(直径40mm、厚さ12.8mm)。5気圧防水。世界限定180本。552万2000円(税込み)。
野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
[2025年11月19日公開記事]


ドイツに時計産業がある? グラスヒュッテの歴史

 フランスやイギリス、アメリカ、そしてスイスに日本など、かつてさまざまな地域に勃興した時計産業。各国の時計産業はその国民性を反映させながら独自に発展、あるいは衰退の道をたどった。中でも第2次世界大戦、そしてその後の東西分断という激動の時代に翻弄されつつも、強い意志でそれに抗い続けてきたのが、ドイツの時計産業である。

 現在では質実剛健なツールウォッチからエレガントなドレスウォッチ、バウハウスデザインを取り入れた機能美の光るモデルを手掛ける、独自性の高いブランドが多く存在するドイツだが、そこに至るまでの道は、決して平坦ではなかった。

 ドイツの時計産業は、東西に分かれて発展した。より古い歴史を持つのが、西のシュヴァルツヴァルト地方だ。この地域は一帯を森に覆われ、人々はその木を用いてクロックを製造し生計を立ててきた。現在でもドイツのからくりクロックは、シュヴァルツヴァルトを代表する伝統的な工芸品として知られている。

 対して携帯用のウォッチによって発展を遂げたのが、東に位置するエルツ山地の町、グラスヒュッテだ。グラスヒュッテは、かつて銀鉱山の採掘が盛んな町であったが、銀の枯渇によって一転、人々は生活の糧を失った。そこに現れたのが、ドレスデンの時計職人、フェルディナント・アドルフ・ランゲだ。もともと銀の採掘のために精密な道具を作り出していたグラスヒュッテの人々にとって、手先の器用さが要求される時計製造は気質にあったものだったのだろう。F.A.ランゲは1845年12月7日、自らの時計工房を開き、時計製造に邁進する。その弟子であるユリウス・アスマンや友人のモリッツ・グロスマン、同僚のアドルフ・シュナイダーらとともに、時計製造をグラスヒュッテの一大産業へと育て上げた。

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グラスヒュッテは、ザクセン州に属する小さな町だ。この町にあるドイツ時計学校グラスヒュッテの噴水には、1世紀にわたって「意志あるところに道は開ける」という言葉が刻まれている。廃坑の町から時計産業を発展させ、戦中・戦後の混乱にあってもその技術やノウハウを守り抜いたこの町の歴史や人々の思いを表す言葉である。

 単なる工房の設立にとどまらず産業として発展させていくため、F.A.ランゲはさまざまな取り組みを行った。そのひとつが、メートル法の導入だ。従来用いていた単位であるリーニュの代わりにメートルを用いて設計や製造を行うことにより、公差(編集部注:基準の大きさから許容される誤差の範囲のこと)を縮小し、より精密な時計作りができるようになった。その精密さを後押ししたのが、100分の1mmの精度を誇る、彼の発明した特殊測定器、カン・マイクロメーターである。

 1878年にはドイツ時計学校グラスヒュッテが開校。より専門的な知識を実習とともに体系的に学ぶ場として、グラスヒュッテの時計産業をさらに盤石なものとする一助となった。

 この盤石さの好例が、フライングトゥールビヨンの開発者として知られるアルフレッド・ヘルヴィグを輩出したことだ。それまでのトゥールビヨンは、キャリッジを支えるために、ダイアル側とムーブメント側にブリッジが設けられていた。しかし1920年、彼はダイアル側でのみ保持することに成功。彼によってトゥールビヨンは、いっそう美観を楽しむことのできるコンプリケーションへと進化したと言える。

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1878年に開校したドイツ時計学校グラスヒュッテ。時計職人の育成と技術革新の推進を目的とした同校は、グラスヒュッテ時計産業を支える重要な基盤となった。

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ドイツ時計学校グラスヒュッテでは、毎週土曜日の午前8時から8時10分まで、ベルリンの天文台から鉱山のモールス信号が送信された。この信号はコインシデンス・クロックの役割を果たしたため、同校では時刻を0.1秒単位で確認できるようになった。この出来事を、アルフレッド・ヘルヴィグが鮮明に記録しており、モールス信号を受信する際は校長と教師が立ち会うほか、毎回数人の生徒が呼ばれ、全校生徒が時報の受信に徐々に慣れるようにしたのだという。

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1920年代に開発された、懐中時計用ムーブメントと同等の精度を発揮しながら、腕時計に収めることを可能としたCal.58。このムーブメントは、腕時計の時代の始まりを告げると同時に、グラスヒュッテ時計産業の技術力を示すものとして好評を博した。

 その運命を大きく変えた出来事が、1945年の第2次世界大戦におけるドイツの敗戦である。ドイツは東西に分断され、グラスヒュッテの時計産業はソビエト占領軍によって解体を命じられることとなる。しかし、職人たちはわずかに残された金型や資料を頼りに独自に時計作りを再開。そのことがソビエト占領軍に容認され、1951年にグラスヒュッテの時計メーカーたちはVEB グラスヒュッター・ウーレンベトリーベ(GUB)として統合・国営化を経て、存続するという道を切り開くことができた。

 東西分断後のドイツ民主共和国の経済が深刻化する中、グラスヒュッテの職人たちは自らの決断力と想像力、そして不屈の精神によって1964年にGUBを象徴する腕時計「Spezimatic(スペシマチック)」を開発し、未来へと歴史をつなぐことに成功した。世界の腕時計が機械式からクォーツ式へと向かう変革期を迎える中、GUBではクォーツ式と並行して機械式の生産を継続。ドイツ民主共和国では彼らによって機械式の製造ノウハウが守られていくこととなる。

 約40年続いた冬の時代は、1989年11月9日のベルリンの壁崩壊とともに、終わりを迎えた。しかしこのことは、ドイツ民主共和国の産業が世界との競争にさらされることと同義であった。VEB グラスヒュッター・ウーレンベトリーベからグラスヒュッター・ウーレンベトリーブ GmbHへと名前を変え、1990年にこの名を商業登記した同社も、不動産やブランド権利の売却や雇用調整を余儀なくされるような、厳しい局面に立たされることとなる。

 そこで同社は、体制の立て直しの一環として、グラスヒュッテ時計産業の伝統を受け継ぐことを決意。1994年より、グラスヒュッテ・オリジナルというブランド名を用いるようになる。このブランド名は、1920年代に同社が確立した品質保証マーク、「Original Glashütte」に由来したものだ。

 グラスヒュッテ・オリジナルはドイツ民主共和国時代に脈々と受け継がれてきた時計製造のノウハウを生かし、独自の装飾や複雑機構を搭載した腕時計を開発。持ち前の技術力と文化を世に問うてきた。しかし半面、その目覚ましい発展は、同社の職人不足と流通経路の弱さを浮き彫りにすることとなる。そこに手を差し伸べたのが、スウォッチ グループ創設者であるニコラス・ G・ハイエックだ。2000年にグラスヒュッテ・オリジナルはスウォッチ グループへ参画し、世界中の愛好家から注目される存在へと変わっていく。


グラスヒュッテ・オリジナルとは?

 銀の枯渇からはじまり、産業の解体命令から一転の国営化、その後のドイツ再統一と民営化によってさらされた厳しい競争など、グラスヒュッテとその時計産業は多くの苦難に直面してきた。しかし、現在もその小さな町に多くの時計ブランドや職人が存在しているのは、彼らの不屈の精神が、激動の時代を乗り越えることを可能としていたからだろう。ここからは、マニュファクチュール、バリエーション展開、価格設定の面から、現在のグラスヒュッテ・オリジナルについて深掘りしていく。

マニュファクチュール

 マニュファクチュールとは、個々の部品から腕時計本体までを一貫して生産できるメーカーのことだ。対となる業態は、特定の部品を手掛ける部品メーカーやムーブメントメーカーから、パーツやエボーシュムーブメントを仕入れて、それらを集めて組み立てを行う水平分業のエタブリスールである。設計やデザイン、機能の自由度、さらには加工・組み立て精度をはじめとする品質管理の面で有利なマニュファクチュールだが、その数は世界的にも限られている。小さな精密機械である腕時計は、数百にも上る部品によって構成されており、そのひとつひとつの製造に高度な専門知識と技術が要求されるからだ。高級腕時計ともなれば、あらゆる部品を非常に高い水準で作り出さなければならず、その維持は簡単ではない。

 そのマニュファクチュールに名を連ねているのが、現在では約95%の部品を内製しているグラスヒュッテ・オリジナルだ。F.A.ランゲの時代では、雇用の創出や地域産業の発展という観点からも、水平分業の面が強かったが、VEB グラスヒュッター・ウーレンベトリーベとしての統合は、奇しくもマニュファクチュールとしての基盤を作り上げるきっかけとなった。

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ムーブメントの開発には、多大なコストが発生するだけではなく、優れた技術が不可欠だ。世界屈指のマニュファクチュールであるグラスヒュッテ・オリジナルは、長い時間をかけて培ってきたノウハウを生かし、現在もムーブメントの自社開発を行っている。

 まず注目すべきは、腕時計の心臓部たるムーブメントだろう。設計はもちろん、部品の切り出しやメッキ処理、さらには硬度を高めるための焼き入れに至るまで、徹底して自社で行われている。そして何よりも注目すべき要素が、グラスヒュッテ様式を取り入れた仕上げだ。4分の3プレートに施された繊細なストライプ装飾と面取り、地板のペルラージュ装飾に加え、ゴールドシャトンとブルースティールのスクリュー、精緻なエングレービングが施されたテンプ受けと、その上に配された優雅な曲線を描くスワンネック型緩急針。そのすべてが時計愛好家の心をとらえて離さない審美性をたたえている。

 加工精度の向上した現代では、ゴールドシャトンに実用的な意味はほぼなく、また、4分の3プレートは組み立て効率を落とす要因となってしまうだろう。しかしこれらは、F.A.ランゲの時代から続く伝統が、今も受け継がれていることが視覚的に分かる、重要なポイントなのだ。過去に敬意を表してこそ、そこまでの手間をかけて時計製造と向き合うことができるのだろう。

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ムーブメントは、100をゆうに超える部品で構成されている。グラスヒュッテ・オリジナルのマニュファクチュールは、プレートなどの大型の部品から歯車、小さなネジに至るまで、そのほとんどを自社で生産している。

 腕時計の部品の中で最も人の目に触れることの多い部品が、ダイアルだ。グラスヒュッテ・オリジナルではダイアルの製造も自社で手掛けており、2025年6月にはグラスヒュッテの町に、新たなダイアルマニュファクトリーを開設するなど、特に注力してきている。その工程は、いくつかのステップによって成り立っている。

 まずはブランク(編集部注:特定の形状に切り出された金属などの材料のこと)の抜き出しだ。同社ではジャーマンシルバーやブロンズ、真鍮、スターリングシルバー、ソリッドゴールドなどの素材を用いており、モデルの特性や色に合わせて最適な素材を選定している。その後、複数の設備を使い分けることでフライス加工、ドリル加工、表面加工を行い、針やインデックスを取り付ける穴、デイト表示やサブダイアル用の窓、あるいは窪みを施す。

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フライス加工やドリル加工によって形作られたダイアルは、シャープさが損なわれないよう丁寧に研ぎ上げられる。

 ここまででおおよその形は仕上がっているが、そこに表情を加えているのが、クリーンルームで行われるガルバニック加工やラッカー仕上げだ。これらによって豊かな色彩が与えられ、さらにパッドプリントを複数回繰り返すことにより、立体感のある印字が施される。アプライドインデックスを採用するモデルでは、職人の手によってひとつひとつ慎重にダイアルへ固定される。同社の一般的なダイアルは最大75の工程を経て完成し、その合間を含め幾度となく検査を繰り返すことで、世界でも指折りのクォリティを実現しているのだ。

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文字盤の色は腕時計のデザインによって異なるため、グラスヒュッテ・オリジナルではモデルに合わせた処理や装飾を行っている。例えば、掲載写真のガルバニックと呼ばれる、電気分解を行うメッキ処理によって文字盤を加工する工程では、金属素材に均一に色付けし、グラスヒュッテ・オリジナルの繊細な装飾を維持している。使われる代表的な色はブルー、ブラック、アンスラサイト、シルバー。ラッカー仕上げの場合は、表面に手作業でカラーコーティングをスプレーしてから、釜で乾燥させるという工程を踏む。マットな白からきめの細かいグレー、鮮やかなグリーンまで、さまざまな色をモデルによって使い分けている。

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星々が描かれた小さなムーンディスク。この後、2カ所に窪みが向けられ、磨き上げられた月が取り付けられる。

幅広い層にリーチするバリエーション展開

 マニュファクチュールとしてのメリットは、グラスヒュッテ・オリジナルの創造性を発揮することにも寄与している。自社でデザインから製造までを行うため、サプライヤーの都合に縛られることなく、細部まで意志を込めたデザインを実現することができるのだ。その結果、現在のグラスヒュッテ・オリジナルでは、「セネタ」「パノ」「スペシャリスト」「ヴィンテージ」「レディース」と、バリエーション豊かな5つのコレクションが展開されている。

 クラシックエレガントウォッチに属しているのが、シンプルなデザインが魅力の「セネタ」だ。スタンダードな3針モデルを基本としつつ、パノラマデイトやムーンフェイズ、クロノグラフ、レギュレーターなど、複雑機構を搭載したモデルも多くラインナップされる。視認性や判読性を重視した実用時計でありながら、ドイツの磁器ブランド、マイセンとのコラボレーションによる「セネタ・マイセン」をはじめとするアーティスティックなモデルも存在し、注目されている。

研修用

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パーペチュアルカレンダーを搭載しながらも、すっきりとしたレイアウトが特徴の「セネタ・エクセレンス・パーペチュアル・カレンダー」。高い視認性は普段使いにもふさわしい。ダイアルには、クラシカルな雰囲気の漂うグレイン仕上げが施されている。

 グラスヒュッテ・オリジナルの顔とも呼べるのが、黄金比を基にしたレイアウトによって、創意あふれるダイアルを備えたパノだろう。アシメトリックなダイアルは、余白にパワーリザーブインジケーターやパノラマデイト、ムーンフェイズなどが配され、詩的なデザインが魅力だ。そのうちのひとつ「パノマティックインバース」は、ムーブメントの表裏を反転させ、4分の3プレートやエングレービングされたテンプ受けをダイアルデザインとして昇華させた、まさに逆転の発想によって誕生したモデルだ。

グラスヒュッテ・オリジナル

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オフセットダイアルがアイコニックな「パノマティックルナ」および「パノルナ・トゥールビヨン」。目盛りがしっかりと振られたムーンフェイズやパノラマデイトなど、実用性にも配慮したデザインが魅力。適度に設けられた余白が優雅さを生む。

グラスヒュッテ・オリジナル

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ムーブメントを表裏で反転させるというユニークな発想の下に誕生した「パノルナ・インバース」。ダブルスワンネック型緩急針やチラネジ付きの大ぶりのテンワが目を引く。本作は2024年にリリースされた、200本限定生産のモデル。3Dレーザーでクレーターが刻印されたリアルなムーンフェイズが、アヴェンチュリン製ディスクを背景に存在感を示している。

 一方で、グラスヒュッテ・オリジナルの懐の深さは、本格的なスペシャリストウォッチからも感じることができる。2019年に誕生した「SeaQ」は、1969年、同ブランドが当時GUBとしてリリースした、初のドイツ製ダイバーズウォッチのひとつ、「Spezimatic RP TS200」をルーツとする。蓄光塗料を塗布したアラビア数字インデックスとバーインデックスで構成されたダイアルに、潜水時間を計測可能な逆回転防止ベゼルを組み合わせた本格的なダイバーズウォッチである一方で、上品さ、そしてレトロ感が漂うコレクションとなっており、同ブランドらしい洒脱さが光る。

グラスヒュッテ・オリジナル SeaQ

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1969年製ダイバーズウォッチをルーツとする「SeaQ」。現行コレクションとしては、2019年登場と比較的新しいながらも、豊富なバリエーションによって新たなファンを獲得するきっかけにもなっている。

グラスヒュッテ・オリジナル

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1969年に製造された「Spezimatic RP TS200」。大きなアラビア数字とバーのインデックス、そして同じく大きなペンシル針とアロー針が組み合わされた文字盤は、判読性が高いだけにとどまらず、SeaQのアイコンとしての役割も担っている。

 GUB時代と重なる1960年代から1970年代のデザインを現代的に再解釈しているのが、ヴィンテージコレクションである。縦に引き伸ばした独特の書体のアラビア数字インデックスとラウンド型ケースを特徴とする「シックスティーズ」と、TVスクリーンのようなノスタルジックなスクエアケースが目を引く「セブンティーズ」は、現代だからこそ新鮮な感覚で楽しめる腕時計と言えるだろう。

グラスヒュッテ・オリジナル シックスティーズ

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1960年代の腕時計から意匠の着想を得る「シックスティーズ」コレクションのうち、6時位置にスモールセコンドを備えた「シックスティーズ・スモールセコンド」。18Kローズゴールドケースにミニマルな文字盤を持つ本作は、ドレスウォッチとして最適な1本である。

グラスヒュッテ・オリジナル

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ストラップとケースがシームレスにつながる1970年代のデザインを取り入れた、「セブンティーズ・クロノグラフ・パノラマデイト」。ブルーやシルバーといった洗練されたカラーのほか、“スイミングプール”や“ウォーターメロン”など、個性的なカラーの文字盤がバリエーションとして用意されている。

 そして、レディースコレクションにも名作は存在する。ラウンド型のすっきりとしたケースを有する「セレナーデ・ルナ」は、煌めくダイアルや豊富なカラーバリエーションなど、遊び心のあるディテールが魅力的で、女性の手元に華やかな雰囲気を与えてくれるコレクションだ。

グラスヒュッテ・オリジナル

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2024年に発表された「セレナーデ・ルナ」。さらに今年はバリエーションが拡充され、より幅広い女性の時計ユーザーにリーチするコレクションとなったと言える。6時位置のマザー・オブ・パール製のムーンフェイズをはじめとするエレガントな装いを持つ一方で、搭載する自動巻きムーブメント、Cal.35-14は温度変化や磁気への耐性を持つシリコンをヒゲゼンマイに使っており、かつパワーリザーブ約60時間を有するなど、実用性にも妥協のないグラスヒュッテ・オリジナルらしいレディースコレクションに仕上がっている。

良心的な価格設定

 高級腕時計の販売価格は、ここ数年で異常とすら思えるスピードで高騰した。その背景には、人件費や材料費の上昇、為替変動など、複数の要因が存在するが、高級腕時計という存在から現実感が薄れ、徐々に夢の世界のものへと変わっていく感覚は、多くの愛好家にとって悲しみを覚えるものであったに違いない。

 そう感じた方にこそ、グラスヒュッテ・オリジナルに一度目を向けていただきたい。由緒正しい歴史を持ち、数々の複雑機構を自社開発し、安定して生産できる技術力を備え、さらに好みに合わせて選べる豊富なコレクションを展開するブランドは、スイスを含めてもそう多くない。それでいながら、「セネタ・エクセレンス」や「パノリザーブ」などの代表作が、100万円台半ばから購入可能なのだ。

 その良心的な価格設定を可能としているものは何であろうか。まずひとつとして、ムーブメントやダイアルを内製化し、無駄なコストを抑えていることが大きいだろう。加えて、同社が世界最大級の時計コングロマリット、スウォッチ グループに属しているということも強く影響している。大規模な研究開発費を基にした新技術の導入、生産設備や工法の改良、多くの腕時計を手掛けることによって培われたノウハウ、グループ傘下に存在する高品質な外装部品のサプライヤー。これらの存在が、高い品質を維持したまま価格を抑えて販売することを実現させているのだ。もちろん、グラスヒュッテ・オリジナルがスウォッチ グループ参画時に欲したワールドワイドな販売網も手伝っていることだろう。

 グラスヒュッテ・オリジナルの腕時計の価格は、昔ながらの職人の手作業を継続しながらも、巨大グループのスケールメリットを享受することによる効率的な経営が成しうる、努力の賜物なのだ。

グラスヒュッテ・オリジナル パノマティック

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内製化を推進する姿勢とスウォッチ グループのスケールメリット。そのふたつが融合することにより、グラスヒュッテ・オリジナルの良心的な価格設定が実現されている。


グラスヒュッテ・オリジナルの現在地が分かる「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」

 現在の同社を知る上で指標となるモデルが、創業180周年を記念した世界180本限定の新作、「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」だ。ベースとなった「パノマティックルナ」は、オフセットされたダイアルとパノラマデイト、そしてムーンフェイズを特徴とするモデルである。

 今回のアニバーサリー・エディションにおける最大の見どころは、アヴェンチュリンガラス製のダイアルだろう。アヴェンチュリンガラスは、17世紀のイタリア・ヴェネツィア、ムラーノ島のガラス工芸職人によって偶然生み出されたと言われており、吸い込まれるような深いブルーと煌めく微粒子がもたらす高い審美性から、高級腕時計のダイアルにも用いられる素材である。

 この素材をアニバーサリー・エディションに使用したのには、理由がある。時計製造史にとって、そしてもちろんグラスヒュッテ時計産業にとって、始まりは「星を見ること」であったためだ。かつて、時間や自身がいる位置を知るには、天体に浮かぶ星々への理解とその観察が必要不可欠であった。やがて、星の観察を凌ぐ、信頼性の高い時計が生み出されていったのは、星が時計職人らを「より高品質な腕時計」へと駆り立てる原動力であったからではないだろうか。グラスヒュッテ・オリジナルは、アニバーサリーにあたって、そんな「星へと挑戦したグラスヒュッテの時計職人」へ敬意を表するために、満天の星を思わせるアヴェンチュリンガラスを採用したのだ。

パノマティックルナ アニバーサリー エディション

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最大の見どころはアヴェンチュリンガラス製のダイアル。まるで本物の夜空のような、幻想的な空間が広がる。

 本作のダイアルは、まさに幻想的な夜空そのもの。星のような輝きを放つゴールド製のインデックスや2時位置のムーンフェイズにのぞく月が、オーナーの心を静まった夜の闇へと誘ってくれる。その詩的なデザイン性もさることながら、割れや欠けのリスクが高いアヴェンチュリンガラスに対し、ムーンフェイズやパノラマデイト用の小窓を切り出し、針やインデックスのための穴を開けるなど、高度な加工を施していることにも注目したい。内製化の恩恵は、素材の自由度も高めてくれるのだ。

パノマティックルナ アニバーサリー エディション

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ケースはプラチナ製。ヘアラインとポリッシュ仕上げで磨き分けされている点や、エッジが作り出すシャープな輪郭などから、加工精度の高さをうかがわせる。

 深いブルーのダイアルにマッチした、硬質感のある銀白色のケースはプラチナ製。一見してシンプルなラウンド型だが、ポリッシュとヘアラインを織り交ぜ、さらに曲線の中にシャープさを取り入れたデザインは、ドイツらしい重厚感と上品さを両立したものである。ゴールドよりも硬く複雑な仕上げを施すことが難しいプラチナでありながら、優れた質感を与えることができるのは、見事と言うべきだろう。

 シースルーバックからは、4分の3プレートとダブルスワンネック型緩急針など、グラスヒュッテ様式を備えた自社製ムーブメントを鑑賞することが可能だ。ムーブメントを鑑賞する上では、ローターが全体を覆い隠す自動巻き式よりも手巻き式が好まれる傾向にあるが、本作の場合は、4分の3プレート内にローターを収めることで、仕上げと動きの両方を一度に楽しむことが可能だ。伝統的な仕上げが際立つクラシカルな見た目ながら、約100時間のロングパワーリザーブや耐磁性に優れたシリコン製ヒゲゼンマイなど、現代的なスペックを備えていることも魅力である。

パノマティックルナ アニバーサリー エディション

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シースルーバックからは、ムーブメントを余すところなく堪能することができる。頑強な4分の3プレートやブルースティールのスクリュー、赤いルビー、ゴールドシャトンなど、いくつもの要素が作り出すコントラストが、オーナーの目を楽しませてくれることだろう。

 ダイアルからケース、ムーブメントに至るまで、グラスヒュッテ・オリジナルの技術を結集したパノマティックルナ アニバーサリー・エディションは、まさにグラスヒュッテの時計産業180周年を祝うにふさわしい名品なのである。

パノマティックルナ アニバーサリー エディション

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両持ち式のテンプ受けにはエングレービングが施されている。ダブルスワンネック型緩急針も、グラスヒュッテ・オリジナルを象徴する意匠のひとつだ。



Contact info: グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 Tel.03-6254-7266

グラスヒュッテ・オリジナル「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」。煌めく幻想的なダイアルと最新ムーブメントを搭載した限定モデル

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