ハカセこと時計専門誌『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、傑作ムーブメントについて2024年に記したコラムを5回分、webChronosに掲載する。第2回は、クォーツを作り続けてきたシチズンが2021年に打ち出した、機械式ムーブメント「Cal.0200」を取り上げる。
[ムーブメントブック2024 掲載記事]
シチズンの高級機を支える機械式ムーブメント

1995年以降、一貫してクォーツと光発電エコ・ドライブムーブメントを搭載してきたザ・シチズン。同社がこれらの技術に長けていることを考えれば当然だが、使える自動巻きがミヨタの8200系しかなかったことを考えれば、やむを得ない選択だったとも言える。
対してシチズンは、2009年に新しい自動巻きのミヨタ9000系をリリースした。これは安価な8200系とは異なり、ETA2892A2の代替機となるようなスペックを備える高級機だった。パワーリザーブは8200系に同じ約42時間だが、振動数が2万8800振動/時に上げられたほか、地板や受け、歯車などの仕上げも改善された。この優れた自動巻きから生まれたのは、2010年の「ザ・シチズン メカニカル」である。これは9000系の仕上げをさらに改良し、高級機に仕立て直したものだったが、ヒット作とはならなかった。
シチズンの機械式への取り組みが加速したのは、2012年以降のこと。この年にはムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレ、そして完成品メーカーのアーノルド&サンなどを擁するプロサーホールディングを買収。翌年には時計本体の製造関連部門を一本化し、時計製造を担う「シチズン時計マニュファクチャリング」を設立した。スイスとの協業、そしてマニュファクチュールとしての進化は、2021年のCal.0200に結実した。

ムーブメントの設計と基本的な部品の製造はシチズン、そして地板と受けは、ラ・ジュー・ペレによるものだ。シチズンはその理由を「ラ・ジュー・ペレが培ってきた仕上げのノウハウを活かしたかったため」と説明する。その一方で、シチズンはCal.0200の設計を物堅く留めた。自動巻きはミヨタで採用する片方向巻き上げ。結果としてこのシンプルな自動巻きは、デスクワークでも十分巻き上がるだけの高い巻き上げ効率をもたらした。また輪列の配置も、あえて中心に4番車を持たないシンプルなスモールセコンド輪列だ。
もっとも、完成度が高い故にCal.0200には高い拡張性を期待できなかった。しかしシチズンは、文字盤側の設計をやり直した日付表示付きのCal.0210をリリース。このムーブメントは今後間違いなく、シチズンの高級機を支える基幹キャリバーになっていくだろう。




