時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2025。「ジュネーブで輝いた新作時計 キーワードは“カラー”と“小径”」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は、編集長の広田雅将が「これほどの安定感は他社にはちょっと見られない」と評する、巧みなパッケージの新作時計を打ち出した、パテック フィリップだ。

パテック フィリップのコレクションにあって、常にエナメル文字盤でも新しい試みが行われるモデルのひとつがRef.5370だ。今回は1枚の文字盤に2トーンと、3層のレイヤーを設ける。価格を考えれば当然だが、仕上げは傑出している。手巻き(Cal.CHR 29-535 PS)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ13.56mm)。3気圧防水。
Photographs by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
パテック フィリップの2025年新作時計を振り返る
今のパテック フィリップはプロダクトとしての安定感に加えて、まとまりのあるパッケージと外装での新しい試みが際立っている。とりわけ文字盤での取り組みは、いわゆるメティエダールと異なり、新たな表現を目指すもの。王道過ぎて面白くない、という声も聞いたが、これほどの安定感は他社にはちょっと見られない。
巧みなパッケージに老舗の底力を見る
個人的なW&WGのベストは、パテック フィリップの新しいクロック。しかし、それ以外のプロダクトもさすがに抜けがなかった。5370に新しく加わったのは、2トーンエナメル文字盤。別部品ではなく、2色のエナメルを一体で焼き上げるという難しい試みに挑んだのは、おそらく文字盤の厚みを抑えるためだろう。そもそも5370は、2015年にブラックエナメル文字盤付きでリリースされた。エナメル文字盤を載せることが前提のケースとはいえ、インダイアルを別部品にすると厚みが増してしまう。そこで1枚の文字盤に複数のレイヤーを設ける手法が採用された、と推測できる。写真が示す通り、面の歪みは極端に小さく、発色も極めて良好だ。分かりやすいメティエダールではないが、この文字盤はひとつの偉業といっていい。

今の時代にフィットしたドレスウォッチ。5196のムーブメント違いと思いきや、厚さを6.8mmから9.33mmに増して立体感を加えたほか、ラグを短くし、取り回しを良好にした。薄型から正統派のドレスウォッチに回帰する試み。価格は高いが、内容を見ればやむなし。手巻き(Cal.30-255PS)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ptケース(直径38mm、厚さ9.33mm)。3気圧防水。

カラトラバ 5196の後継機が6196Pだ。ケースサイズは1mm拡大されたほか、新規設計のキャリバー30-255PSが搭載されている。変わったのはスモールセコンドの位置のみと思いきや、あえてケースの厚みを増すことで、平板さを狙った5196から、一転して立体感が強調された。加えて薄さを強調する、伸びていたラグが短く切られ、わずかに軽快となった。個人的には、ここ数年のカラトラバで本作は最も好ましい。
2000年発表のCal.28-20/REC 10J PS IRMは今もって同社を代表する傑作のひとつ。今年は丸型に改めたうえでお披露目された。安くないが、内容を考えれば本当に魅力的。自動巻き(Cal.31505 8J PS IRM CI J)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約192時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ10.52mm)。3気圧防水。
傑作6159には、なんと外周に向かって色の濃くなるグレー・メタライズ・サファイアクリスタルを追加。新表現に取り組むパテック フィリップらしい試みは、品質とユニークさを高度に両立する。自動巻き(Cal.26-330 S QR)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径39.5mm、厚さ11.49mm)。3気圧防水。
意外だったのは、8日巻きムーブメントのリバイバルだ。8日巻きカラトラバ5328が搭載する手巻きムーブメントは、かつてのものの地板と受けを成形し、ラウンドに仕立て直したもの。パルミジャーニ・フルリエの8日巻きと張り合った傑作が、まさか復活するとは予想もしていなかった。しかも極めて深い面取りや、現行品では珍しい精緻な巻き味といった特徴も、そっくり受け継がれている。
そして最後は、小さくなったCUBITUSだ。10時から4時位置の直径を40mmに縮小したこのモデルは、時計としてのまとまりが非常に良い。小径化により、ヘッドとテールのバランスはより改善され、腕に載せた感じはなお良好だ。個人的な好みを言うと、現行ブレスレットウォッチの中でも、小さなCUBITUSの着け心地はトップクラスではないか。「ノーチラス ロス」に悩む時計愛好家でなくとも、本作は腕上に載せる価値は十分にある。ただし、パテック フィリップの常で、価格は決して安くないし、入手も難しそうだ。
大ヒット作に加わった小径版。フル無垢のため、かなり重いが、ヘッドとテールのバランスは秀逸のひとこと。実際のサイズはかなりコンパクトに見える。自動巻き(Cal.26 330 S C/434)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KRGケース(10~4時位置の直径40mm、厚さ8.5mm)。3気圧防水。
こちらは18KWG版。腕に置いたときの印象は、完全にドレスウォッチだ。適度なクリアランスを持つブレスレットも、唯一無二の感触を誇る。自動巻き(Cal.26 330 S C /434)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(10~4時位置の直径40mm、厚さ8.5mm)。3気圧防水。



