『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2025。「ジュネーブで輝いた新作時計 キーワードは“カラー”と“小径”」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は、2023年に復活したことで話題になったユニバーサル・ジュネーブ。復刻した「ポールルーター」を解説するとともに、かつてロジェ・デュブイで活躍したグレゴリー・ブルタンへインタビューしている。
Photographs by Yu Mitamura, Ryotaro Horiuchi
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
静かに本格始動を始めるユニバーサル・ジュネーブ

かつて同社を率いたラウル・ペレのモットーが「技術は美のために」。時計の仕立職人を標榜する新生ユニバーサル・ジュネーブは第1弾として、アイコンの完全な復刻をリリースした。自動巻き(Cal.1-69)。28石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約57時間。18KRGケース(直径35mm、厚さ9.95mm)。5気圧防水。
2023年12月に、ブライトリングの傘下に収まったユニバーサル・ジュネーブ。すでに製品は発表されていたが、ジュネーブでそのお披露目が行われた。最初にリリースされたのは、オリジナルのCal.1-69を搭載する完全な復刻版。なおブライトリング率いるジョージ・カーンは、初代モデルのケースを、ジェラルド・ジェンタが手掛けたことを確認したうえで、ユニバーサル・ジュネーブを買収したという。従って、最初のモデルにオリジナルのポールルーターが選ばれたのは当然だろう。もっともこれは、序曲に過ぎない。今や同社を牽引するのは、ロジェ・デュブイでマイクロローターを設計した、かのグレゴリー・ブルタンなのだ。

グレゴリー・ブルタンをインタビュー
ロジェ・デュブイで辣腕を振るったグレゴリー・ブルタン。彼は今、なんと新生ユニバーサル・ジュネーブでマネージングディレクターとなっている。ブルタンの才能は知っているし、前職で数多くのマイクロローターを手掛けたことも分かっている。しかしユニバーサル・ジュネーブに転職したのは意外だった。「ユニバーサル・ジュネーブは1894年にル・ロックルで創業し、1919年にジュネーブへ移転しました。特に50年代、ミスター・ホルトが会社を率いた時期が黄金期です。その歴史を未来へつなげていくことが今の目標ですね」。彼が見せてくれたのは、2024年に発表されたポールルーターの復刻版だ。
私が本当に魅せられたのはマイクロローターだった

1977年、スイス生まれ。ヌーシャテルのエンジニアリング・スクールで時計製造の理論を学んだ後、エコール・アークで修士号を獲得。2002年にロジェ・デュブイに入社し、自動巻きムーブメント、ミニッツリピーター、スケルトンムーブメントの開発などに携わる。同社で開発責任者、プロダクト・ストラテジー・ディレクターを務めた後、2024年から現職。
「ユニバーサル・ジュネーブには、他のブランドとは異なり多数のアイコンが存在します。例えばポールルーターはジェラルド・ジェンタが初めてデザインしたモデルで、1954年のSASコペンハーゲンーロサンゼルス直行便就航記念に作られました」。そもそもこれはハーフローター自動巻きを載せていたが、後にマイクロローターのキャリバー215に、66年にはさらに薄いキャリバー1-66に置き換わった。後者の厚さはわずか2.5mm。2024年のお披露目で、同社がこのアイコニックなモデルを公開したのは妥当だった。
「腕時計の仕立て職人」を標榜するユニバーサル・ジュネーブ。その姿勢を示すのが、ポールルーターのブレスレット付きモデルだ。同社の人間が説明するには、これは世界でも数少ない職人が手作業で製作するもの。ひとつのブレスレットを作るのに3〜4カ月かかり、その収益はジュネーブにあるチェーン製作技術を教える学校に寄付されるとのこと。なるほどその「仕立て」は極め付きに良い。
もっとも、彼の話の本題は、やがて追加されるであろう新コレクションと、新しい自社製ムーブメントである。ちなみに同社は、香港資本だった時代に、UG-100という新世代のマイクロローター自動巻きを完成させている。それをリバイバルさせるのかと聞いたところ「いや違う」とのこと。筆者はあのムーブメントを実際見たが、今の基準からするとパワーリザーブは短く、ムーブメントも厚い。「ですから私たちが現在開発しているのは、全く新しいムーブメントなのです」。詳細は明かせないが、その内容を聞けば、マイクロローターの開発で辣腕を振るったブルタンが携わるのは納得だ。少なくともこれほどのムーブメントを作るとは全く予想もしていなかった。
帰り際、彼はなぜ今の会社に加わったのかを語ってくれた。「実は学生時代に、ユニバーサルのマイクロローターに惚れ込んだのです。私の時計製作への情熱はそこから始まっています。いつか新しいモデルで『クロノス日本版』の表紙を飾れたら光栄ですね」。隠れマイクロローター愛を吐露したブルタン。彼が率いる新生ユニバーサル・ジュネーブは、きっと面白いメーカーとなるに違いない。



