2025年に発表された、新作コンプリケーションウォッチ5本を紹介する。今年も各社より、あっと驚くような超絶技巧を詰め込んだ新作が発表された。技術を磨き、その限界に挑戦し続ける職人たちの努力の結晶を見ていこう。
Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月9日公開記事]
まだまだ時計の進化は終わらない、超絶技巧が光る傑作たち
毎年新作が発表される腕時計。その中には、全く新しいデザインのモデルや新素材のケースを採用したモデル、あるいは既存モデルのカラーバリエーションなど、さまざまな方向性の新作が存在するが、中でも一際注目されるのは、機械式のコンプリケーションウォッチではないだろうか。主ゼンマイの解ける力をもとに、歯車やレバーなどを使って、思いもよらない動きを実現する。技術者の叡智を結集させたコンプリケーションウォッチは、時計好きの知的好奇心をそそるジャンルだ。
特に興味深いのは、毎年のように新開発の機構が登場する点だ。もはや限界にまで突き詰められたと思われた機構が、数年後にさらに改良されているということも珍しくはない。基礎的な技術が成熟した現在、耐衝撃性や耐磁性、防水性などの基本的なスペックは、エントリークラスの腕時計でも十分なものを備えている。腕時計は、実用品としてほぼ成熟しきったと言っても過言ではないだろう。だからこそ、コンプリケーションウォッチには、時計が日々進化し続けているということを味わえる醍醐味がある。おいそれと手に届くものではないが、そこには夢とロマンが詰まっているのだ。
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」Ref.26674SG.OO.1320SG.01

リュウズだけで全ての操作を行うことができる、新開発のパーペチュアルカレンダームーブメントを搭載したモデル。外装のカラーリングは、サンドゴールドカラーで統一されている。自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
創業150周年を迎えたオーデマ ピゲより発表された、新開発のムーブメントを搭載した画期的なパーペチュアルカレンダーウォッチ。その特徴は、カレンダーの調整全てをひとつのリュウズで完結できる点にある。多くのパーペチュアルカレンダーウォッチでは、ケースの側面などにプッシュボタンやコレクターを設け、リュウズとこれらを併用することでカレンダーの調整を行う。しかしその場合、ケースの審美性が損なわれてしまうことや、コレクターを押下するためのピンなどが必要であるなど、懸念すべき事項が存在する。本作では、4段階ものポジションを設けたリュウズによって、それらからの解放に成功しているのだ。
ヘアラインとポリッシュに仕上げ分けたケースとブレスレットの素材は、柔らかな色合いが特徴の18Kサンドゴールド。それらと同色のダイアルには、ロイヤル オークを象徴するグランドタペストリー模様が刻まれている。カレンダーの判読性も高く、ブラックの目盛りと針によって、それぞれの表示を示している。6時位置に輝くのは、リアルなデザインのムーンフェイズだ。
パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション」Ref.5308G-001

レギュラーモデルとして登場したグランドコンプリケーションウォッチ。スプリットセコンドクロノグラフには、2つの独自の特許が採用されている。自動巻き(Cal.R CHR 27 PS QI)。67石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ17.71mm)。非防水。1億9588万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、小窓表示による瞬転式パーペチュアルカレンダーを搭載した、グランドコンプリケーションウォッチ。スプリットセコンドクロノグラフには独自の特許を採用した、LIGAプロセスと電鋳を用いたクラッチシステム、そしてムーブメントの安定した駆動に貢献するスプリット秒針レバー隔離機構が組み込まれている。
クロノグラフはワンプッシュ式だ。2時位置のボタンでスタート、ストップ、リセットを行うことができる。4時位置のボタンはスプリットセコンド機能で使用する。クロノグラフ起動中に押下するとスプリットセコンド秒針が停止し、再度押すことで先行したクロノグラフ秒針に追い付く仕組みだ。9時位置のスライドボタンでは、ミニッツリピーターを起動させることができる。
ダイアルはソレイユ仕上げのアイスブルーカラー。18Kホワイトゴールド製ケースに調和した上品で涼しげな色合いだ。ケースバックは、サファイアクリスタルをセットしたシースルー仕様のものと、ソリッドバックのものが付属し、交換することができる。
ブランパン「グランド ダブル ソヌリ」

ブランパン史上最も複雑な腕時計。4つのゴングによってふたつのメロディを奏でることができる。手巻き(Cal.15GSQ)。67石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケースあるいは18KWGケース(直径47.0mm、厚さ14.5mm)。10m防水。年間2本。(問)ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233
グランドソヌリ、ミニッツリピーター、フライングトゥールビヨン、レトログラード式によるパーペチュアルカレンダーを搭載した、ブランパン史上最も複雑な腕時計。4つのゴングを設けることによって、ミ、ソ、ファ、シの4音を使い分けることが可能であり、ウェストミンスターの鐘の音と、ロックバンド「KISS」のドラマーであるエリック・シンガーが書き下ろした楽曲「ブランパン」を奏でる。
音響効果を高めるため、本作にはふたつの独自機構が搭載されている。そのひとつが、ノイズをなくし、安定した駆動を実現させる磁気式静音レギュレーター。もうひとつが、ゴールド製の音響膜を組み込んだベゼルだ。
それぞれの複雑機構の動きは、オープンワークのダイアルとシースルーバックから鑑賞することができる。ブランパンを象徴するダブルステップベゼルを備えたケースは、18Kゴールド製。ケースサイドには、プッシュボタンとともに、奏でるメロディを切り替えるためのスライダーが設けられている。
ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ」Ref.VCARPERV00

ロマンティックなオートマタ機構を搭載した新作。深夜のフランス・パリを舞台に、男女がそっと口づけるシーンを楽しむことができる。自動巻き。パワーリザーブ約36時間。18KWGケース(直径38mm)。30m防水。2772万円(税込み)。(問)ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク Tel.0120-10-1906
2010年に登場した「ポン デ ザムルー」の続編として製作されたオートマタウォッチ。昼の12時と深夜0時にアニメーションが開始し、中央の男女が体を引き寄せ合い、そっと口づけを交わす。
幻想的な雲や、19世紀のフランス・パリで流行したダンスを楽しめる河辺のカフェであるギャンゲット、石畳など、グリザイユエナメルなどの技法を駆使した背景にも職人技が込められている。アニメーションは、プッシュボタンによってオンデマンドで起動することもできる。
時刻は、ダブルレトログラードで示されている。時は10時から12時位置にかけて、分は12時から2時位置にかけて、星の場所によって読み取ることが可能だ。
ケースは18Kホワイトゴールド製。ベゼルとラグ、リュウズトップにはダイヤモンドがセットされている。ケースバックには踊る男女の姿とパリの街並みがエングレービングされており、その立体的な仕上がりを楽しむことが可能だ。
ベルトは、シャイニーブルーのアリゲーターストラップ。18Kホワイトゴールド製のピンバックルが装着されている。
大塚ローテック「9号」

ジャンピングアワー、リワインディングミニッツ、トゥールビヨン、アワーストライキング、パワーリザーブインジケーターを搭載したコンプリケーションウォッチ。デザインのモチーフは電力メーターである。手巻き(Cal.SSGT)。30石+5ボールベアリング。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦48×横30mm、厚さ13mm)。日常生活防水。1760万円(税込み)。(問)大塚ローテック https://otsuka-lotec.com
快進撃を続ける日本のマイクロブランド、大塚ローテック。同社の新作「9号」は、電力メーターをモチーフとしたコンプリケーションウォッチだ。ぎっちりと詰まったケースには、様々な機構が搭載されている。
時刻は、ジャンピングアワーと、透明なディスクが回転し、レトログラード式に帰零するリワインディングミニッツによって表示される。トゥールビヨンは、ブリッジが支える軸と回転の軸をオフセットすることで、ダイナミックな動きを楽しむことが可能だ。
その横に配されたパワーリザーブインジケーターは、棒の伸縮によって主ゼンマイの残量を表現するというユニークな仕様。さらに、ケース内をうねるように配されたゴングとハンマーによって、毎正時に音を鳴らすアワーストライキング機構も搭載されている。
本作には、ミネベアミツミの開発した外形2.5mmのルビーボールベアリングと、外形1.5mmの世界最小のボールベアリングが採用されており、精密な動きと正確な作動に貢献している。









