アルミニウム&ラバーという常識にとらわれない素材使いと、ソリッドでモダンなデザインによって幅広い世代のファンを獲得してきたブルガリの代表的コレクション「ブルガリ アルミニウム」。メカニカル化の大規模リニューアルから5年目を迎えた2025年、ブロンズ製ケースをまとった2種類の新作モデル「ブルガリ ブロンゾ GMT」と「ブルガリ ブロンゾ クロノグラフ」が登場した。新素材の採用にあたってどのようなアレンジが加えられたのかを、筆者が所有する「ブルガリ アルミニウム クロノグラフ」との比較も混じえながら紹介していきたい。

自動巻き(Cal.B192)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。ブロンズケース(直径40mm、厚さ9.7mm)。100m防水。73万1500円(税込み)。
(右)ブルガリ「ブルガリ ブロンゾ クロノグラフ」
自動巻き(Cal.B381)。パワーリザーブ約42時間。ブロンズケース(直径41mm、厚さ12.35mm)。100m防水。91万3000円(税込み)。
Photographs by Masanori Yoshie
渡邉直人:文
Text by Naoto Watanabe
[2025年12月25日公開記事]
現代的なデザインと経年変化する素材の風合いがもたらす、ブルガリの伝統的なコントラスト
真円と直線を基調とした造形のアルミニウム製ケースに、ブランドロゴが刻まれたラバー製ベゼルを組み合わせたデザインが特徴的な「ブルガリ アルミニウム」の初登場は1998年。しかし、そのデザインルーツは1960年代にまでさかのぼる。
第二次世界大戦後の好景気の波に乗り、鮮やかな色使いと繊細な職人技を活用したハイジュエリーによって、世界的な認知度を高めつつあったブルガリは1966年、ブルガリ家3代目として家業を引き継いだ3兄弟のひとりであり、熱心なコインコレクターでもあったニコラ・ブルガリの指揮の下、初のコインジュエリー「モネーテ」を発表する。

現代的なデザインのジュエリーにアンティークコインを合わせた革新的なモネーテは発表からすぐに大きな反響を巻き起こし、一躍ブルガリの定番コレクションとなった。その主力モチーフとして採用されていた古代ローマコインは、外周に皇帝名やその業績などを示すラテン語の銘文が刻まれており、1977年にはジャンニ・ブルガリも古代ローマコインからインスピレーションを得てベゼルにブランド名を彫り込んだ腕時計、「ブルガリ・ブルガリ」を発表。その特徴的なベゼルや、12時と6時にのみアラビア数字を配した文字盤の意匠はその後、ブルガリの腕時計の基本デザインコードとなり、最新のブルガリ アルミニウムにも引き継がれている。
このように、ブルガリの伝統的なインスピレーション源を象徴するモネーテコレクションは、その多くが銀貨や青銅貨などエイジングの生じやすいコインを採用してきた。結果、硫化や緑青によって古代からの時の流れを感じさせる独自の風合いが、ポリッシュされたゴールド製フレームとのコントラストを生み、世界中のジュエリー愛好家から人気を博しているのだ。そんなモネーテを系譜に持つブルガリ アルミニウムコレクションに2025年、「ブルガリ ブロンゾ」が新設されたのは、「経年変化を楽しめるラグジュアリー」というブルガリの伝統を尊重した、当然の帰結と言えるのかもしれない。

ブルガリ アルミニウムの意匠を引き継ぎながら細部にアレンジを加えたデザインと仕上げ
ブルガリ アルミニウム最大の特徴であった円柱型のミドルケースと直線的なラグを一体成型したケース、ブランドロゴを彫り込んだラバーベゼル、円柱型メタルリンクを持たせたラバーブレスレットなどの基本デザインはブルガリ ブロンゾでも踏襲されており、2モデルともに外寸は従来モデルと変わらない。しかし、ケースはマットなブロンズ、ベゼルはブラックラバー、文字盤やデイトディスクはマットブラックにホワイトプリント、針は全てマットなピンクゴールドという配色に統一され、色数が3色に整理されたため、モダンでカジュアルなデザインでありながら、よりエレガントな印象に感じられるようになった。

また、クロノグラフモデルの各種スモール針はスーパールミノバ®が塗布された太目のバトン針に変更され、従来モデルで見られたインダイアル内の同心円状レコード溝は排除されている。さらに、文字盤外周にタキメーターが追加されたことで一段と凝縮感の高いレイアウトへと変化。これらのアレンジによって、筆者が所有する「ブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデル」同様、精度とスピードを求めるプロフェッショナル向けツールとしてのイメージも獲得している。

ケースやブレスレットリンク、バックル部の仕上げは一見すると従来モデル同様に見えるが、筆者所有のブルガリ アルミニウムと比較すると、サンドブラストによる梨地がだいぶ粗めに変化しているのが分かる。特に顕著なのがケース側面であり、もともとはうっすらと視認できていたヘアラインが、本作では完全に打ち消されているのだ。あくまでも推測だが、経年変化素材によって悠久の時の流れを表現したい本作にとって、現代的な表面仕上げは適合しないと判断したのではないだろうか。

また「ブルガリ ブロンゾ」では、針にも粗めのサンドブラスト加工を施してからピンクゴールドメッキをかけているため、全ての針の質感にブロンズケースとの統一感がもたらされている。結果、表面のザラつきが強められたブロンズケースの酸化による絶妙な色味の濃淡とも相まって、古代遺跡のような独自の雰囲気を醸し出しているのが本作ならではの特徴だ。

重量配分を改善した面ファスナーによる着脱システムと各部の滑らかな操作感触
ブロンズ製リンクが備えられたラバーブレスレットは、12時側6時側ともに2コマ目までは従来同様のヒンジ構造だが、終端が面ファスナー素材付きのロングストラップとピンなしバックルに置き換えられている。これにより着脱が容易になったのはもちろん、時計本体とブレスレットのバランスが改善しているため、ブロンズ素材の採用によって重量が大幅に増しているにもかかわらず、ホールド性は極めて良好だ。

GMTモデル・クロノグラフモデルともに、搭載されるムーブメントは汎用エボーシュをベースに独自のアレンジを加えたもの。しかし、針合わせは非常にスムーズかつ一定の重さで、不快な雑味や振動はほとんど感じられない。また、クロノグラフモデルのプッシャーの押し心地も非常に滑らかで嫌な擦れ感がなく、まるで高級機のような感触だ。Cal.B381から搭載された新型クロノグラフモジュールがよく練られた設計なのだろう。

何を生かし何を変えるべきなのか 絶妙な調整によってコンセプトを一新したコレクション
時計の設計・意匠デザインというのは非常に難しいもので、文字盤、針、ベゼル、ケース、ラグ、ブレスレットなどの要素が相互に影響を与えあった結果、全体の印象を決定付けてしまう。そのため、高度にまとめ上げられている作品ほど、局所的なデザインや配色をわずかに変更しただけで、時計全体のバランスが成立しなくなってしまうという事象が往々にして発生するのだ。
ブルガリ アルミニウムは20年以上の長い歴史を持ち、マテリアルとデザインの相乗効果によってその地位を確立してきたコレクションだ。だからこそ、ブルガリ ブロンゾの発表を見た時は、アルミニウムという素材らしいモダンさとカジュアルなイメージで若年層のファンを獲得してきた同コレクションにとって、ブロンズ素材の採用は最適解なのか? という疑念を抱いてしまったのが正直なところだ。しかし、そこはさすがブルガリと言うべきか、紀元前から続く美術大国ギリシャとイタリアが生んだジュエラーの新作ブルガリ ブロンゾは、同社ならではの色使いと細やかな技によって全体を調和させながら、全く新しいコンセプトを表現していた。

結果的に、「ブルガリ アルミニウム」が元来持っていた軽快さは若干息を潜め、上品さと色気を感じさせるコレクションへと変貌を遂げた本作。特に筆者のようなゴールドジュエリーを好む時計愛好家にとっては、非常に使いやすい時計となっているはずだ。これまでのブルガリ アルミニウムがカジュアルすぎると感じていた方もぜひ、手にとってみてほしい。



