セイコーウオッチ本社で行われた新作撮影会に参加したライター 佐藤しんいちが、注目の新作としてグランドセイコー「エボリューション9 コレクション テンタグラフ」Ref.SLGC006を紹介する。本作のテーマは“朝の陽光に輝く岩手山” だ。文字盤に岩手山の岩肌から着想を得たパターンを施し、カッパーピンクを基調とするカラーリングで朝の岩手山を表現している。また、ベゼルやプッシャー、リュウズには18Kピンクゴールドを採用しており、岩手山が朝日に輝く様を取り込んでいる。

自動巻き(Cal.9SC5)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。BTiケース(直径43.2mm、厚さ15.4mm)。10気圧防水。世界限定300本(うち国内200本)。302万5000円(税込み)。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2025年12月22日公開記事]
朝の陽光に輝く岩手山をテーマとした「テンタグラフ」の限定モデル
セイコーウオッチ本社で行われた新作撮影会で、文字盤カラーと18Kピンクゴールドによって華やかさが際立っていたのが、グランドセイコーのメカニカルクロノグラフモデルである「エボリューション9 コレクション テンタグラフ」Ref.SLGC006だ。
本作の文字盤には、グランドセイコーのメカニカルモデルを製造する、岩手県の「グランドセイコースタジオ 雫石」から望むことができる岩手山を、鳥瞰で臨むその尾根筋から着想を得たパターンが施される。このランダムなパターンは、光の入射で陰影を生み出すため非常に立体的で、文字盤上に荒々しさや自然の力強さを表現している。
グランドセイコー初のメカニカルクロノグラフとして誕生した「テンタグラフ」のおさらい
2023年発表の「テンタグラフ」のモデル名の由来は、「Ten beats per second, Three days, Automatic chronograph」すなわち、毎秒10振動、クロノグラフ作動状態で約3日間のパワーリザーブを備える自動巻きクロノグラフという特徴である。これらの性能を達成するのが、自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.9SC5であり、そのキーパーツとなるのが、2020年に新世代の自動巻きムーブメントとして発表されたCal.9SA5に搭載の「デュアルインパルス脱進機」だ。作動および伝達効率が高い点が特徴であり、安定した十分な動力を伝達しながら、エネルギーを無駄にしない点が、性能向上に大きく寄与している。

さて、セイコーはクロノグラフ技術に長けたブランドのひとつであるが、意外なことに、グランドセイコーにおいてメカニカルクロノグラフというと、テンタグラフが初であった。そのため、グランドセイコーにふさわしい「正確な計測と操作性、耐久性」をテーマに、指針ずれや針飛びの抑制、コラムホイールや三叉ハンマーによる計測開始/停止、リセットの操作感の向上など、細やかな改善が行われたことが注目を集めた。さらに本作を機に、従来の「新グランドセイコー規格」の試験に加えて、クロノグラフを作動させた状態かつ3方向の姿勢で精度評価を行うメカニカルクロノグラフのための精度規格が設定されたこともトピックスであった。
型打ち文字盤だけではない本作の注目点
本作の文字盤のテーマは、朝の陽光に輝く堂々とした岩手山である。文字盤に岩手山の岩肌から着想を得たパターンを施し、カッパーピンクを基調とするカラーリングで朝の岩手山を表現している。また、ベゼルやプッシャー、リュウズには18Kピンクゴールドを、インデックスにはピンクゴールドカラーを採用しており、朝日に輝く様を取り込んでいる。

そして、本作に採用された新たな文字盤表現は、異なるカラーで仕上げられたインダイアルである。テンタグラフは、センターに時分針とクロノグラフ秒針、3時位置にスモールセコンド、4時半位置に日付、6時位置に12時間積算計、9時位置に30分積算計を配している。時刻に関連するスモールセコンドを朝日に染まる雲のような明るいオレンジ、クロノグラフに関連する積算計を、朝日を受けた岩肌を思わせるダークなレッドとしている。
このようなデザインの本作の文字盤は、尾根筋のパターンを施した最上段のパーツと、3つのインダイアルが描かれたプレートの2層構造となっている。本作のようなカラーの異なるインダイアルに仕立てる場合は、それぞれのインダイアルを別パーツとすることが多いが、本作では1枚のプレートを色分けしている。

この構造を採用することで、パーツ構成は単色を使用していた従来モデルと同じになり、プレート製造時、組み立て時の誤差を管理しやすくなる。また、使用中の振動による位置ズレを防ぐ効果も期待できると筆者は予想している。優れた実用時計を基軸とするグランドセイコーらしい取り組みではないだろうか。
ケースやブレスレットにもグランドセイコーの技術力が光る
ケースやブレスレットは軽量かつ外観品質に優れるブライトチタン製である。セイコー独自のブライトチタンは、くすんだ印象になりやすい一般的なチタンに対して明るい色調を持ち、研磨を施しやすい点が特徴だ。

着用してみると、ケース径43.2mmで厚さ15.4mmと大ぶりであるが、チタンによる軽量さの恩恵でフィット感も良い。大きいケースに大型ムーブメントを搭載しているため、一般的なチタン製時計のように超軽量というわけではないが、しっかりとした存在感が楽しめるレベルに抑えられている。これは、ラグを短く、手首に沿うようなケース形状としつつ、重心を下げている「エボリューション9スタイル」である点も効果を発揮しているのだろう。
「THE NATURE OF TIME」のフィロソフィーを反映した新作に来年も期待
グランドセイコーは、フィロソフィーとして「THE NATURE OF TIME」を掲げており、これを反映して時の本質と日本の自然や季節の移ろいを時計で表現している点が特徴だ。高い技術による型打ちの文字盤パターンが素晴らしいのと同時に、筆者が注目するのは調色のうまさである。
日本の自然をテーマとしているからか、日本人の心に響く色合いが多く採用されており、しっかりとした主張がありながら、なじんでくれる色調が魅力だ。型打ちパターンと相まって、海外のファンに対しても文字盤デザインに日本らしさが伝わって、それが現在のグランドセイコーの人気の理由のひとつとなっているのではないだろうか。日本人の美的感覚を世界に伝えるような新作を来年も期待したい。



