【広田が選ぶ2025年を象徴する腕時計】グランドセイコーU.F.A.はケースとブレスレットもすごいんです!

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2025.12.19

ああ、1年が早い。今年も例年よろしく『クロノス日本版』/webChronos編集長広田雅将が2025年を象徴する腕時計を選出。記憶に残る新作腕時計は数多くあれど、その中から選び抜いた1本はグランドセイコーのU.F.A.だった。確かに、超高精度なムーブメントも素晴らしい。だが、ケースやブレスレットといったパッケージ、要するに外装も考え抜かれているのだ。

広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2025年12月19日公開記事]


2025年の「ベスト」を挙げろ、と言われた

 今年も年末のお題として、2025年のベストを挙げろとオーハシに指示された。昨年選んだのはチューダー「ブラックベイ 58 GMT」。時針の単独調整機能と日付の瞬時送りを組み合わせ、しかもケースサイズが39mmしかない本作は掛け値なしに傑作だった。

 今年も選択肢は山ほどある。オーデマ ピゲのRD#5、ブレゲの「クラシック スースクリプション 2025」、カシオの「サ時計」、A.ランゲ&ゾーネの「1815」の34mmモデル、そしてグランドセイコーのU.F.A.などなど。いずれもずば抜けた腕時計だが、2025年12月の時点で筆者が欲しいと思ったのはグランドセイコーになる。 ジュネーブ・ウォッチ・グランプリで部門賞を得られなかったのが不思議なほど、これは良い腕時計だし、筆者は好きだ。

ゼンマイ駆動ながら超高精度。装着感も良好

 グランドセイコーのU.F.A.については、本誌および『webChronos』で散々語ってきたので、今さら多くを述べる必要はないだろう。ゼンマイ駆動の腕時計にもかかわらず年差±20秒を実現、しかも温度補正機能が付いているため、極寒でも酷暑でもその精度は変わらない。

 さらに言うと、軽いブライトチタンケースのおかげで、装着感も実に快適だ。良質で高性能な腕時計が欲しい人は、これを買えば十分じゃないだろうか。これで十分。温泉には持ち込めないけども。

グランドセイコー エボリューション9コレクション

グランドセイコー「エボリューション9コレクション」Ref.SLGB003
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。

パッケージのうまさ──軽さ、重心、そしてブレスレット

 この腕時計で感じたのは、腕時計としてのパッケージのうまさだ。腕時計が軽く、重心も低く、そして時計部分(ヘッド)とブレスレット部分(テール)のバランスもいい。加えて本作ではようやく、ブレスレットのバックル部に、簡単に調整できるエクステンションが備わった。

ムーブメントに目が行きがちだが、ケースやブレスレットといった外装も実に考え抜かれているのだ。

 筆者はグランドセイコーの頑強で、しかし適度な遊びを持たせたブレスレットを好んできたが、バックルがあまりにも保守的だったのは否めない。本作を製作するにあたりセイコーは、バックルのアップデートを行いブレスレットもようやく世界水準に引き上げた。遊びがなく、しかも適度なスムースさを持つバックルは、少なくともIWC並にはよく出来ている。

テーパーの「やりすぎ」が腕馴染みを壊す

 上手いのは、ブレスレットのテーパーのかけ方だ。ここ10年ほど、スイスの時計メーカーは、猫も杓子も、ブレスレットにテーパーをかけるようになった。具体的には、ケース側は太く、対してバックル側を細く絞りすぎるようになった。

 確かに、バックルに向けてブレスやストラップを絞ると、腕時計はドレッシーに見える。2016年以降、ブレスレットウォッチにラグジュアリー感を添えるため、テーパーという手法に着目したのは分かる。

 しかも、ブレスレットの質が上がったことも相まって、2016年以降のいわゆる“ラグスポ”は、いっそう“ラグ”になったのである。しかし、いくつかのモデルは明らかにテーパーが強すぎる。見た目は格好いいが、これは大きな車体に細いタイヤを履かせるようなもので、腕馴染みが明らかに悪くなったのである。筆者が最新のロレックスを手放しで賞賛しない理由だ。

絶妙なバランスを実現したU.F.A.の外装

 閑話休題。対してセイコーは、一貫してブレスレットを太く作ってきた。それはグランドセイコーの腕時計を重々しく見せたが、装着感という観点で言えば、決して悪くなかった。かつての腰高なケースが腕に馴染んだ理由のひとつは、明らかにこのブレスレットにある。

 今回セイコーは、U.F.A.のブレスレットにテーパーをかけるという決断をしたが、ケース側20mm、バックル側18mmという、かつての定石、今となってはまともな絞り方に抑えた。仮にケース側20mm、バックル側15mmのような選択をしていたら、信じられないほど高性能なムーブメントを載せていても、筆者は全く評価しなかっただろう。

精度だけではない。「熟成」が見える一本

スプリングドライブ搭載の最新世代ムーブメントCal.9RB2。温度補正を行う最新型レギュレーターを搭載し、年差±20秒という超高精度を実現した。

 確かにU.F.A.の年差±20秒以内という精度は圧倒的だ。しかし個人的には、セイコーがパッケージを進化させたことも評価したい。いくら優れていても、使いにくい腕時計に意味はないのであって、全方位に抜けのない本作は、グランドセイコーの熟成を反映したもの、といえるだろう。今後、こういったブレスレットがグランドセイコーの標準になることを切に望みたい。


Contact info: セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617


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