昨年、創業140周年を迎えたエドックス。同ブランドが今年発表した「クロノオフショア1」のRef.10242-TIN-NIBUGMを着用レビューする。1000mという破格の防水性を誇るクォーツクロノグラフモデルをベースに、ブラックカーボンダイアルとブルーの差し色を組み合わせた日本限定モデルが本作である。
Photographs & Text by Kento Nii
[2025年12月20日公開記事]
2025年登場の「クロノオフショア1」日本限定モデルを実機レビュー
2024年に創業140周年を迎えたエドックスは、ダイバーズウォッチを中心に、ハイスペックなモデルを数多く手掛けてきたスイス創業のブランドだ。掲げるスローガンは“THE WATER CHAMPION”。1961年にリリースした「デルフィン」において、当時の主流であったねじ込み式リュウズではなく、リュウズのOリング(パッキン)を二重にした「ダブル・Oリング」の採用で200m防水を実現し、以来、防水時計のパイオニアとしての地位を固めてきた。
そんな同ブランドのスローガンと歴史を体現するコレクションが、「クロノオフショア1」である。“水上のF1”とも称されるパワーボートレースの世界観を落とし込んだ本コレクションは、レーシングを象徴するクロノグラフに加え、ダイバーズウォッチに不可欠な視認性・堅牢性を高い水準で備えている。トレードマークは、勝利のナンバーにスポットを当てた1時位置のアラビア数字インデックス。予期できない荒波の中を圧倒的なパワーで突き進む、“オフショア(外洋)”での過酷なレースにも耐えうるコレクションである。

クォーツ(Cal.102 / Ronda 5030 D)。Tiケース(直径45mm、厚さ15.5mm)。1000m防水。29万7000円(税込)。
本記事ではそんなクロノオフショア1の多彩なラインナップの中から、2025年に登場した日本限定モデル「Ref.10242-TIN-NIBUGM」を着用レビューする。これまでのエドックスの日本限定モデルといえば、ブラックのマザー・オブ・パールダイアルを有したモデルを筆頭に、個性的なタイムピースが多く見られた。対して本作は、ブラックカラーを基調とする精悍な顔立ちに、ブルーの差し色でさりげなくアクセントを加えたモデルであり、従来の同コンセプトの腕時計の中では、落ち着いた佇まいを見せている。
奥行きのあるカーボンブラックダイアル
まずはダイアルから見ていこう。カラーリングはベゼルも含めてブラックを基調とし、ホワイトの表示部を組み合わせることでコントラストを効かせている。
しかし、本作のダイアルはただのブラックではなく、「カーボンブラック」だ。これは真鍮のベースにカーボン層をコーティングしたもので、その表面には繊維の重なりが生む独特の格子状の模様が浮かんでいる。この幾何学的なパターンは、モノクロトーンゆえのストイックさが強い本作に豊かな表情とリズムを与えており、なかなかに洒落た意匠となっている。

しかもこのカーボン模様は、視認性にも寄与している。サンレイ仕上げのようにダイアル全体が光をダイナミックに反射するのではなく、格子状のグリッドひとつひとつが光を捉えるため、質感に奥行きを生んでいるのである。これにより、インデックスや針がより立体的に見え、強い光が当たっても埋没することなく、高い判読性を発揮している。
各種インダイアルは、それぞれ一段低く配置されているだけでなく、サーキュラー装飾が施されており、カーボンダイアルとの質感の対比が際立つ仕上がりだ。また、6・9時位置のクロノグラフの計測用インダイアルには縁取りがなされ、瞬発的な情報の判読を可能としている。加えて、横3つ目というよりY字に近いレイアウトで配置されているため、インダイアルの面積が広く取られている点も視認性向上に一役買っている。

ブルーの差し色は程よい塩梅だ。インデックス、針の縁取りのみにあしらわれ、時計全体からすればわずかな割合に思えるが、先述の通り“奥行き感”によってインデックスが浮かんでいるように見えるため、このブルーも強い存在感を放っている。メタリック調であるのも効果的で、手首を動かすたびに、ささやかなカーボンの表情の変化の中に、涼しげな色合いが顔をのぞかせる。
また、暗所での視認性についても触れておきたい。インデックスと、ベゼル上の0分位置にあるドットには蓄光塗料が塗布されており、暗闇ではグリーンに発光する。もちろん、アイコニックな「1」のアラビア数字にもしっかりと蓄光塗料が塗布されているため、暗所であってもひと目でクロノオフショア1と認識することができるだろう。
1000m防水の堅牢なチタン製ケース
ダイアルを一通り確認したところで、早速ハンズオン。大ぶりなモデルが多いダイバーズウォッチを選ぶうえで、手首に載せた際のバランス感を重視する人は多いだろう。手首回り16.5cmと比較的細腕な筆者にとっては、購入前の判断要素として特に重きをおきたいポイントである。この感覚は、スペックにある直径やラグトゥラグである程度つかむことができるが、ベゼルの厚みやカラーリング、ダイアルデザインによって印象が異なるため、実際に試着するのがベストだ。

本作のケース直径は45mm、実寸値でラグトゥラグは50mmほど。ケース厚は15.5mmと肉厚で、手首に載せるとダイナミックな存在感がある。当然ながら時間を見るという目的を果たすうえでは申し分ないサイズ感だ。ケースにはチタン素材を使用しており、全体の造形はかなり無骨な印象。サイドから見たシェイプは直線的であり、短いラグは約45°の面取りの後に下端の角が丸められている。

特筆すべきはベゼルだ。インサートのみをセラミックス製とするのが主流である中、本作ではベゼル自体にセラミックスを採用している。また、その表面は鏡面に磨き上げられており、チタンケースとの組み合わせによって生まれる質感のコントラストが、タフでありながらモダンなバイカラーを外装に演出している。

なお本作では、装着感を高めるアプローチとして、裏蓋の手首に接する中央部分を一段落とし、プロペラのレリーフが施されている。この仕様はモーターボートへのオマージュを見せるだけでなく、物理的な接地面積を減らし、汗などが溜まらず、良好な着用感の確保を狙った設計となっている。
実際に着用した感覚として、この“接地面積の減少”による効果を肌で強く感じることはなかったものの、やはりセラミックスとチタン素材の採用によるその軽快さが、良好な着用感を担保しているように思えた。1000m防水というスペックを誇りながらも、本作の重量は約133gにまで抑えられており、厚みのある時計にありがちな、ヘッドの重みで手首が振られるような感覚も、さほど気にならなかったように思う。
ツールウォッチとしての操作性
クロノグラフ・ダイバーズウォッチとしての操作性も確認してみた。厚みのある時計の利点は操作部を大きくできる点にあるが、本作もケース厚に合わせて可能な限り大きなリュウズと、ねじロック式のクロノグラフプッシャーを備えている。
中でもプッシャーに関しては、せり出したスクリュー分だけ押す面積が増えるため、ツールウォッチとして理想的な操作感を実現している。押し心地は作動までにかなり遊びがあるが、内部からの押し返しが弱いため、半押し状態で待機し、任意のタイミングで確実なスタートが可能だ。緻密な操舵が求められるオフショアレースにおいても役立つ機能だろう。
逆回転防止ベゼルは、1秒ごとのクリック操作が可能であり、15秒までは細かいスケールがあるため、レースのカウントダウンにも問題なく使える。ただし、滑り止めのノッチ(切り欠き)の間隔が広く、なめらかな仕上げも相まって、グリップ力は控えめな印象だ。とはいえ、このセラミックス特有のツヤ感が、本作をタウンユースに映える1本に仕立てているのも事実。過酷な海の世界ではなく日常で使う筆者にとっては、この洗練された仕上げの方が好都合かもしれない。
ストラップはプロ仕様のロングサイズ
本インプレッションにおいて特に触れておきたいのは、ストラップの仕様についてだ。本作では、激しいスポーツシーンに最適なブラックラバーストラップに、着脱が容易な観音開きのフォールディングバックルが組み合わされている。また、普段は見えない部分ではあるが、バックルの内側にはペルラージュ装飾が施されるなど、芸が細かい仕様となっている。

一方で、ダイバーズスーツの上からの着用も想定しているためか、標準状態ではストラップがかなり長く作られている点には注意が必要だ。突起部分でストラップをカットして調整できる仕様のため、着用者の手首幅に広く対応できる点はユーザーフレンドリーだが、筆者のような16.5cmの手首回りでジャストフィットを目指すなら、購入後のカット調整は必須となるだろう。

ちなみに、この長さを生かして服の上から着用するという選択肢もある。実際に袖が詰まった服の上から装着してみたところ、これが非常に良い。手首回りのボリュームが増したことで、45mm径のケースとのバランスが格段に良くなった。

ムーブメントはクォーツ式を搭載
最後に、ムーブメントに触れておこう。搭載するムーブメントはロンダ Cal.5030 DをベースとしたCal.102だ。インダイアルの2時半位置にスモールセコンド、6時位置に12時間積算計、9時半位置に30分積算計を備え、合わせて4時位置にはデイト表示を搭載している。リュウズは一段階引き出すことで日付調整が可能であり、2段階の引き出しで時刻調整を行う仕様である。
まとめ
今回レビューした「クロノオフショア1 クロノグラフ」は、これまでに登場した日本限定モデルと比べれば、多少落ち着いた佇まいではある。しかし、クロノオフショア1のエレガントかつタフな魂を、しっかりと継承したモデルであることに間違いはない。
特に、1000m防水をはじめとするロマンあふれる機能を備える一方で、ストイックなだけでないカーボンダイアルやセラミックス製ベゼルのツヤのある質感はなんとも印象的だった。ブルーの差し色に留めたカラー構成も、オンオフ問わない汎用性の高さを感じさせる仕上がりである。
また、45mmというサイズ感は確かに大ぶりだが、幅広いユーザーにリーチするよう、着用感にも幅を持たせている点には好感が持てた。チタン素材による軽快な装着感と、適切なストラップ調整さえ行えば、筆者のような比較的手首周りが細いユーザーでも、十分にその魅力を楽しむことができるだろう。
これまで自分があまり触れてこなかったジャンルに属するタイムピースではあるが、この機会に、今まで敬遠してきたダイナミックな腕時計に手を出してみてもいいかもしれない――。そう感じさせてくれる1本だった。



