1960年代のヘリテージダイバーズの名を現代に受け継ぐ、エドックスの「デルフィン」に新作が登場した。マリンウォッチとして十分なタフネスと高機能を備え、ケースは小径化しダマスカス鋼をベゼルに採用。多彩なライフシーンをよりアクティブに演出する。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
柴田充：文
Text by Mitsuru Shibata
Edited by Yousuke Ohashi（Chronos Japan）
波を思わせるダマスカス鋼ベゼルに、新オープンワークと小径化の進化系モデル
エドックスのコレクションで最も古い歴史を誇る「デルフィン」。ベゼルのインサートにダマスカス鋼を採用。オープンワーク文字盤は、4本のブリッジのカットワークがフランジやミニッツスケールとのレイヤー構造を形成し、奥行きを演出する。ムーブメントはメカニカルな構築美に加え、香箱もオープン化され、主ゼンマイの巻き上げ状態も確認できる。
エドックスは、ブランドスローガンにTHE WATER CHAMPIONを掲げ、高い防水性能とスポーティーなデザインで支持を集める。代表作「デルフィン」の現行コレクションは、創業130周年を迎えた2014年に再登場。オリジナルはさらに1961年へとさかのぼる。
50年代から防水時計の開発に取り組み、独自の防水システム「ダブル・Oリング」を開発し、61年に特許を取得した。ねじ込み式リュウズを用いず、当時としては画期的な200m防水を実現。これを初めて搭載したモデルがデルフィンであり、後のダイバーズウォッチへの先鞭を付けた。ここからTHE WATER CHAMPIONの歴史は始まったのだ。
73年に発表のモデルは、十二角形ベゼルを備えたラグジュアリースポーツのスタイルをいち早く採用。ベゼル上の6本のビスが特徴だ。2020年にはコレクション初のオープンワーク仕様が登場。これは、機械式ムーブメントの搭載を誇示するだけでなく、ブランドエンブレムである「砂時計」をモチーフにしたオープンワークを施し、スタイリッシュなデザインをアピールしたものである。
リアルスポーツウォッチを掲げるエドックスにおいて、デルフィンは「質実剛健」にとどまらない魅力を訴求するエポックメイキングなコレクションだ。その高い防水性能とデザインの融合は新作でも見受けられる。
ダブル・Oリングは、ラバーとナイロンで作られた高品質のガスケットを、リュウズとケース側チューブの間にふたつ設置することで、防水シールとして機能させる機構。ねじ込み式リュウズに比べて操作は容易で、締め忘れの恐れもない。エドックスは1952年から防水技術に取り組み、すでに55年には独自の防水時計を発表していた。
シンボルである十二角形ベゼルのインサートに採用したのはダマスカス鋼だ。古代インドを発祥とする鋼材で、シリアのダマスカスなど中東の都市で刀剣が鍛造されたことからこの名で呼ばれる。優れた切れ味に加え、強靭かつサビにも強く、この鋼の名は世界的に知られ、十字軍時代にはヨーロッパにも伝わった。
幾重にも折り重ねられた鍛造から生まれる美しい縞模様は、高品質の証し。伝統を思わせる鍛造技術と、卓越した技巧による唯一無二の紋様は、大海原の力強い波を想起させ、デルフィンの世界観を映し出す。
直径43mmの「デルフィンオリジナル メカノ」ケースは、新作では40mmへと変更。厚みも1mm抑えられ、魅力がさらに凝縮した。オープンワーク文字盤のブリッジは従来の6本から4本へと整理され、ロゴとエンブレムも12時位置に集約。ムーブメントの動作はより見やすくなった。文字盤には奥行きと立体感があるため、時分針の視認性は十分だ。
手首に載せた印象は、フィット感に優れ、軽快さが伝わってくる。ベゼルはサイドをポリッシュで仕上げ、特徴的なフォルムをより際立たせる。そのきらめきは力強い一体型ブレスレットともアクティブに調和する。
現行「デルフィン オリジナル メカノ」は直径43mmが最小サイズだったが、本作は初の40mmへとダウンサイジング。小径化でベゼルの存在感が増し、ダマスカス鋼も美しく映える。ブレスレット幅を抑え、リュウズガードもよりシャープな形状となった。自動巻き（Cal.853）。26石。2万8800振動／時。パワーリザーブ約42時間。SSケース（直径40mm、厚さ11.5mm）。200m防水。世界限定300本。47万3000円（税込み）。
直径43mmのケースに、ベゼル上のビスの数と対応した6本のブリッジが、オープンワーク文字盤を引き締める。文字盤外周には精細な目盛りが入ったミニッツスケールと斜めにカットしたインデックスを備え、12時位置にブランドエンブレム、3時位置にロゴが配されている。自動巻き（Cal.853）。26石。2万8800振動／時。パワーリザーブ約42時間。SSケース（直径43mm、厚さ12.5mm）。200m防水。37万4000円（税込み）。
人気の高いラグジュアリースポーツウォッチのデザインテイストに、200m防水をはじめとする本格的なマリンスポーツの実力を備え、ダマスカス鋼による個性を演出。技術と品質に対する圧倒的なバリュープライスも魅力だ。スタイル、高い防水性、価格という三拍子がそろい、エドックスらしさを感じさせる。
同ブランドは近年高騰するスイス時計市場でミドルレンジに注力。「DIVE」「FLY」「DRIVE」という3つのユニバースで各コレクションを展開する。ブランド名は古代ギリシャ語で「時間」に関する意味を持ち、エンブレムの砂時計は不朽を象徴する。2024年に創業140周年を迎え、変わらぬ精神とオリジナリティーを追求する存在感はさらに増しているのだ。
ネプチュニアンにフランスを代表する現代アーティストの作品を取り入れたモデルが登場！
他のモデルではケースバックにあしらわれる海の神ネプチューンを、ルーブル美術館に所蔵されている彫刻に着想を得て再解釈し、文字盤に鮮やかなポップ グラフィティを描く。一部に蓄光塗料を用いることで、暗所ではまるで深海で光を放つ生物のように光が浮かび上がる。自動巻き（Cal.80s）。26石。2万8800振動／時。パワーリザーブ約38時間。SSケース（直径42mm、厚さ12.3mm）。300m防水。49万5000円（税込み）。
THE WATER CHAMPIONのスローガンの下、マリンウォッチの魅力をさらに広げるエドックスは、現代アーティストのジョ・ディ・ボナとのコラボレーションモデルを発表した。ブランドにおける本格ダイバーズウォッチのコレクションに位置付けられた「ネプチュニアン」の文字盤を、ジョ・ディ・ボナは色鮮やかなポップ グラフィティで彩った。
ジョ・ディ・ボナは、フランス・パリを拠点に活動し、豊かな色彩と大胆な線描、動的で遊び心あふれるモチーフを特徴とする、エネルギッシュなポップ グラフィティの生みの親として知られる。作品は強い視覚的印象に、自由で軽やかな表現を体現し、近年はそのアートスタイルに社会的メッセージや多様性をテーマに取り入れる。
こうした独創的なポップ グラフィティをウォッチデザインに反映させることで、伝統的なスイス時計と現代アートを融合した「身に着けるアート」を実現した。THE WATER CHAMPIONやMARINEなどの文字も巧みに組み込み、海への敬意とネプチュニアンの世界観の視覚的な表現は都会的なスタイルにも映え、ダイバーズの新たな可能性を開拓する。
