2025年に発表された新作モデルのうち、「気になる1本」「お勧めの1本」を、著名な時計ジャーナリストらが取り上げる企画。今回は、フリーエディターの竹石祐三が、「十数年ぶりに宝くじを買ってしまったほど、心をガンガンに揺さぶられる時計に出合えた」2025年の中で、悩みつつテーマに選んだモデルは、オメガの「シーマスター プラネットオーシャン」だ。

Text by Yuzo Takeishi
[2025年12月26日公開記事]
良作充実の2025年、悩んだ末にオメガ「シーマスター プラネットオーシャン」を推す
年末恒例「2025年の1本を挙げよ」のミッションを受けた。挙げろと言われればいくらでも挙げられる。しかも今年は、十数年ぶりに宝くじを買ってしまったほど、心をガンガンに揺さぶられる時計に出合えた。「1等が当たったらあの時計を買おう」「いや、1等が当たったら2本買ってしまおうか!?」「万が一2等だったら……うーん、この時計か!?」ってな具合に、“あの時計”以外にも良作が充実。何ひとつ手にすることはなかったが、夢だけはたっぷり見させてもらった。
悩んだ末に選んだのは、オメガの「シーマスター プラネットオーシャン」。2005年に誕生し、以後、着実にアップデートを重ねてきた、言わずと知れたオメガを代表するコレクションのひとつだ。11月に発表されたばかりの新作は、ガチダイバーズの「ウルトラディープ」を除けば、実に2016年以来となる新世代モデルで、最大の特徴である外装の進化には大いに心を揺さぶられた。

その変貌ぶりは時計を手にするまでもなく、見た瞬間から明らかだった。ケースは緩やかな曲線で構成されていた従来のモデルとは異なり、直線と平面を主体とした、エッジの効いた造形に。しかも、コレクションの特徴だった10時位置のヘリウムエスケープバルブがなくなったことで、シャープな造形が一層際立っている。これに合わせて、ブレスレットも平面を組み合わせたデザインに一新。初代「シーマスター 300」を想起させるブレスレットだが、エッジィなケースと同様、平面と直線が強調されているため、プラネットオーシャンらしさをしっかりと残しつつも、今っぽさ全開のルックスになっている。

実際に着用したときには、さらに感心させられた。従来モデルのようなボテッとした印象がなくなり、スマート感が大幅にアップしていたのだから。それもそのはず、前作のスタンダードモデルがケース直径43.5mmだったのに対し、新しいプラネットオーシャンは42mm。ケース厚に至っては16.09mmから13.79mmにまで薄型化されている。しかも、サファイアクリスタル風防とベゼルはケースの造形に合わせてフラットなスタイルに変更されているので、見た目でもスリムになったことが分かる。

アロー型の時分針やスーパールミノバが充填された太いインデックスなど、ダイアルのデザインはこれまでのプラネットオーシャンを踏襲しているが、その中で目を引いたのが、12、3、6、9のアラビア数字のインデックスだ。従来よりも立体的になっており、さらに、これは資料を確認して分かったことだが、フォントは角ばらせたオープンワークのデザインに変更されたという。そのためか、ダイアルは過去のどのモデルよりも力強さがあり、本作のモダンな雰囲気に大きく寄与しているように感じられる。
カラーバリエーションは全3色。いずれのカラーもそれぞれの魅力があるが、ここで選ぶべきは、アイコニックカラーのオレンジでしょ。2014年に完成したオレンジのセラミックベゼルは鮮やかな発色を見せ、時計にポップな印象を与えつつ、上品さも感じさせる。アラビア数字のインデックスにはニスを塗布し、ベゼルと色艶を揃える細かいクリエイションも、実に見事だ。

自動巻き(Cal.8912)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×Tiケース(直径42mm、厚さ13.79mm)。600m防水。134万2000円(税込み)。
2021年の「スピードマスター ムーンウォッチ」もそうだったが、オメガはスタンダードモデルを魅力的な形でアップデートしてくれる。この新世代プラネットオーシャンも“らしさ”はそのままに、今の時代にしっかりとアジャストさせてきた。定評のあるモデルに同時代性が加わっているのだから、間違いはない……というより、むしろ最善の選択肢と言えるだろう。



