『ホディンキー』編集長が選んだ2025年の新作ベスト5! 新しい潮流を感じさせる時計とは?

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2025.12.29

2025年に発表された新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ年末恒例企画。今回は『ホディンキー ジャパン』編集長の関口優が「新しい潮流とよりエモーショナルな時計」を軸に選出した。クラシックを貫いたブレゲや、トレンドに逆らうように登場した大きめのカルティエ「サントス ドゥ カルティエ」など、独自の視点が光るモデルがそろった。


カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」Ref.CRWSSA0089

「サントス ドゥ カルティエ」を現代的に刷新した作品で、チタニウムの質感とビスの意匠はサントス=デュモンのドゥモワゼル号を彷彿。グレード5 ELIながらマットな質感を与え、ポリッシュとのコントラストを強く表現した。機能素材としてではないチタニウムの特徴を巧みに抽出したカルティエはさすが。

サントス ドゥ カルティエ Ref.CRWSSA0089

Antoine Pividori © Cartier
カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」Ref.CRWSSA0089
自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。174万2400円(税込み)。2025年11月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00


エルメス「エルメス カット タンシュスポンデュ」

14年の時を経て復活したタンシュスポンデュはエルメスらしくて大好きな機構。8時位置のプッシャーで現在時刻と全く関係ない時刻への切り替えができ、一瞬、時間を忘れることができる。現代の機械式時計のひとつの在り方のよう。

エルメス カット タンシュスポンデュ

©Joël Von Allmen
エルメス「エルメス カット タンシュスポンデュ」
自動巻き(Cal.H1912)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KRGケース(直径39mm)。10気圧防水。(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300


ブレゲ「クラシック 7235」

1794年の「No.5」より着想した250周年モデルのひとつ。ブレゲゴールド製文字盤に超絶ギヨシェというだけで圧巻だが、ケースサイドもコインエッジからケ・ド・ロルロージュへ進化。1960〜70年代ごろ、栄華を誇った機械式の贅沢さを感じる。

クラシック 7235

ブレゲ「クラシック 7235」
自動巻き(Cal.502.3.DRL)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18Kブレゲゴールドケース(直径39mm、厚さ9.9mm)。3気圧防水。世界限定250本。1094万5000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


セイコー「キングセイコー バナック」

1972年からほんの数年だけ作られたモデルがリバイバル。しかも41mm径かつ重量級という、トレンドの逆張り的アプローチだが着用感は優秀。次の時代の選択肢を新シリーズで模索したキングセイコーに拍手を贈りたい。

キングセイコー バナック

セイコー「キングセイコー バナック」Ref.SDKV001
自動巻き。(Cal.8L45)35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(縦45.1mm、横41.0mm、厚さ14.3mm)。10気圧防水。39万6000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


NAOYA HIDA&Co.「NH TYPE 6A」

国産初の機械式永久カレンダー(QP)という偉業に経緯を払って。2025年はQP戦争とも言えるほど秀作揃いだったが、あくまでクラシックを貫き、大手の品質基準では実現困難と思われる37mmの小型ケースにまとめた手腕に脱帽。

NH TYPE 6A

NAOYA HIDA & CO.「NH TYPE 6A」
手巻き(Cal.3025PC)。19石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径37mm、厚さ11.5mm)。5気圧防水。(問)https://naoyahidawatch.com/


総評

 2025年は10年に1度の周年イヤーで、ここに名を挙げるべき時計は多数あった。カルティエ「タンク ア ギシェ」やオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」、パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション Ref.6159」など、王道については諸先輩方におまかせしつつ、僕は新しい潮流とよりエモーショナルな時計の選出を試みた。

 今は、小型でクラシックな時計が好まれていて、ある意味ではコンサバな時代に突入している。その中で敢えて大ぶりなサイズで投入されたキングセイコー「バナック」やLMサイズから展開されたカルティエ「サントス ドゥ カルティエ」は、当初“なぜこのサイズなのだろう?”と少し違和感を覚えた。だが随所まで調整された成果が着用感の良さにつながっており、意外にも大きめな時計への揺り戻しは早いかもと想像させられた。

 そしてクラシックスタイルであっても、感性価値を強く訴求したのがブレゲとNAOYA HIDA&Co.だ。コロナ禍以降、スポーティーな時計に人気が集中したために贅沢なつくりのクラシック時計はなかなか増えなかった。まだわずかだけれど、確実にそんな心打つ時計が増えている。その出来は、多くの愛好家が熱視線を向ける1960〜70年代のドレスウォッチやその時代を模範とした90年代以降の機械式復興期の時計のようで、効率というよりも華々しさを感じるのが大変贅沢だ。最後に、個人的趣向としてエルメスのような独創性は常に推しておきたい。機械的機構を独自の発想で用いて気持ちに訴えかけることは、機械式時計にしかできないことだから。



選者のプロフィール

関口優

『ホディンキー ジャパン』編集長兼『リシェス デジタル』編集長。1984年生まれ。『ウォッチナビ』編集長を経て、2019年よりホディンキー ジャパン編集長に就任。23年よりラグジュアリーをテーマにしたハイクォリティマガジン『リシェス』のwebメディア『リシェス デジタル』の編集長も兼務する。


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